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第120話

「ルブラに転移したっていうのは、間違いないのか?」


 私1人ではどうしていいか分からなかったのでヨハンとアイゼンを呼んでくると、話を聞いたアイゼンが誰よりもまず最初に口を開いた。


「転移した瞬間の落ちるような感覚、体の痺れ、息苦しさ……ルブラに一度落ちた時と同じだった。神力も回復していかなかったし、間違いないと思う」


「それで、そこからどうやって戻ってきたのか覚えてない、と」


「ああ……」


「まぁ、お前が自力で戻ってきてねぇことは確かだろうな」


 セスとアイゼンの会話に割って入ったヨハンに、全員の視線が集中する。


「ルブラに落ちたのが本当なんだったら、その場所にミトスへ繋がるリンクがない限り、お前に戻ってくる方法はない。でもリンクはなかったんだろ? じゃあ、エンドリオンがお前を下層に戻した後に、そこにいた冒険者が入口に戻してくれたと考える他ないんじゃねぇのか」


「しかし……何度試してもやらなかったのに、今にも死にそうだった俺をわざわざ下層まで戻したりするだろうか。どう考えても、俺を餌とするためにルブラにある巣穴へと転移させたとしか思えなかったんだが……」


「だとしてもそれ以外考えられねぇな。そんなところに人がいたとは思えねぇし、いたとしても天族であるお前を助ける理由なんてねぇだろ」


「……確かに」


 ヨハンの言葉に頷きながらも、セスは未だ腑に落ちないようだ。難しい顔をして考え込んでいる。


 でも私としてもそれ以外の理由は考えられないように思う。エンドリオンの巣に誰かがいたとしても、魔族が天族であるセスを助けたなんて、前世で一度ルブラに落ちた時のことを思うととても考えられない。

 それに、ルブラからミトスへの転移ができる人間なんて、そうそういないような気がする。


「考えたってこれ以上分かりようもねぇんだし、とりあえずもう少し休んでろよ。ここは俺の診療所じゃねぇからな。俺の勝手な判断で退院許可は出せねぇ」


「ああ……分かった」


 ヨハンの言葉にセスは難しい顔のまま目を伏せて、大人しくベッドに横になった。

 それでも考えずにはいられないのだろう。無理やり言葉を飲み込んだように見える。


「それと、後でヴィンセントに礼を言っとけよ。あいつが治癒に加わってくれなきゃ今頃お前の命はなかったかもしれねぇ」


 ヨハンもそんなセスの心情は察していたであろうが、それ以上言及せずに、言うだけ言って誰の言葉も待たずに病室から出て行ってしまった。


「ヴィンセントは今どこに?」


 そのヨハンを静かに見送ってから、セスはアイゼンに尋ねる。


「別室で休んでるよ」


「そうか……彼にも迷惑をかけてしまったね」


「迷惑なんかじゃない。仲間を助けるのは当然のことだろ。それに……元はと言えば俺が誘ったのが原因なんだ。ごめん、セス。エンドリオンが人を巻き込んで転移するなんて聞いたことも見たこともなかったし、ましてやそれでルブラに落とされたなんて……本当に、無事でよかった」


 痛みを耐えるような表情で、アイゼンが頭を下げた。


 討伐隊にいた時に、怪我をした私に同じような感じで謝っていたのを思い出す。その表情はあまり変わらないな、とぼんやり思った。


「……別に君のせいという訳じゃないんだから、頭を下げる必要はないよ。今回の事例が類を見なかったのは……きっと俺が天族だったからなんだろう。魔力濃度の高い迷宮にわざわざ来る天族なんていないだろうから……ルブラに落とされるという事実が認知されてなくて当然だ」


「セス……」


「今君に気にかけてほしいのは、俺のことじゃなくてヴィンセントのことだよ。彼が動けるようになったら連れて来てほしいんだ。お礼を言いたいから」


 それでも納得していなさそうなアイゼンに、セスは有無を言わさず言う。


「……うん、分かった。ありがと。セスもゆっくり休んでな」


 そこでやっとアイゼンは少しの笑みを見せて、部屋から出て行った。

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