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第11話

『それなりに容姿に恵まれているからだろうけど、セスに最期を任せたい女はたくさんいた。その最期の願いを叶えるのも仕事の一環だと割り切っていたセスは、そうやって何人もの女を抱いて殺してきたの』


 何故かシアのその言葉が、どこか遠くの方で聞こえた。


 セスには昔、ユスカという名の恋人がいた。


 だからセスがそういう経験をしていないとは思っていない。思っていないが、女性を抱いて殺す仕事をしていたというのは少なからずショックを受けることではあった。


『ねぇ、セスは()()だった? 数多くの女を抱いてきた手腕は見事だった?』


 その言葉でシアに視線を向けると、嘲笑うかのような表情で私を見つめていた。


『…………』


 前世が男であったことはシアには話していない。

 だから当然のようにシアは私とセスがそういう関係を結んでいたと思っているのだろう。


『……分かりません』


 そう、答えるしかなかった。


 何か言い知れない、もやもやとしたものが自分の胸に渦巻いているのを感じる。

 その気持ちの正体を、私はよく知らなかった。


『……まぁ、いいや。それでね、そんな仕事をしていたセスと一緒に仕事をすることになったのよ。5歳の少女の護衛をね』


 私の返答に興味なさそうに呟いて、シアは話を進めた。

 もともと、具体的に返事が返ってくるとも思っていなかったのだろう。


『その少女の名前はシャルロット。貴族の娘でね。期限の決まっていない長期的な護衛依頼だった。もともとそういう仕事をメインにしてきた私はともかく、何故セスがこの依頼を命じられたんだろうと、私もセスも不思議でしょうがなかった。だって、相手は5歳の少女よ。セスに適任とは思えないでしょう?』


 疑問形ではあるけれど、私にその答えを求めているようではなかった。

 懐古に浸るように自分の手元を見つめて、シアは静かに語っている。


『それでも上からの命令に否と言える立場でもなかったセスは何の異論も唱えることなく護衛依頼に就いたわ。子供の相手に戸惑いながら、度々私がフォローを入れてね。そんな日々が、10年続いた』


 10年。

 長い期間だ。シアの元でそれ以上を過ごしたからか切にそう思う。


『さすがに10年も経てば私たちは家族も同然になった。私もセスも、シャルロットのことを本当に大切に、娘のように思っていたわ』


 それはそうだろう。

 そんな長い期間をずっと傍で見守っていれば、親心のようなものが芽生えてもおかしくない。シャルロットだって彼ら2人に相当の信頼を寄せていたはずだ。


 ……と考えて、同じくらいの期間を共にしたはずの私とシアの関係性はそうではないことに気付いて、泣き出したくなった。


『そんなある日、シャルロットが死んだ。私とセスが護衛しているはずのシャルロットが、朝起きたら死んでいたの』


『……どうして』


 突然の衝撃的な展開に、私は思わずそう呟いた。


『病死、ということだったわね。でも今までそんな素振りはなかったし、あまりにも不自然だった。不自然だったけれどその理由が分からなくて、私は突然娘にも等しいシャルロットを失った絶望に打ちひしがれたわ。当然、セスだってそうだろうと思った。でも、そうじゃなかった。まるでこうなることが分かっていたかのように、セスは取り乱す私をただ静かに見つめていた』


『…………』


 口を挟める話じゃなかった。

 挟めたとしても、そもそも何と言っていいのか分からなかった。

 それを語るシアの表情があまりに苦しそうで、聞いている私も胸を締め付けられるかのようだった。


『あまりにも冷静なセスを見て私は聞いたわ。何か知っているのかと。するとセスはこう答えた。……"俺が殺した"って』


『……なん、で……?』


 シアから紡がれる残酷な言葉を信じたくなくて、私は震える声でそう聞いた。

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