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第113話 Side-セス

 エンドリオンの爪を受け止めた瞬間、落ちるような感覚と共に視界が暗転した。


 前にもどこかで味わった感覚だ、と思い返す暇もなく、地に足が着いたと同時に目の前のエンドリオンが襲い掛かってくる。


「……っ!」


 素早く振られた鋭い爪を、体を捻ることで何とかかわす。

 動かした体に、ビリビリとした痺れが走った。


 この場所は。


 だめだ。ここにいたらだめだ。もう一度エンドリオンに転移させないと。


「は……っ」


 重苦しい息を吐き出した瞬間、エンドリオンが再び地面を蹴った。


 振られた爪を、今度は躱さずに剣で受け止める。

 しかし期待していた転移は起きずに、弾かれたようにエンドリオンは俺から距離を離した。


 またエンドリオンが地面を蹴り、俺に向かって爪を振る。

 俺はそれを、再び剣で受け止めた。


 こちらから攻撃は仕掛けずに何度か同じことを繰り返す。が、エンドリオンは先ほどのように転移はせず、執拗に俺の首を狙ってくる。


「…………」


 転移に何か条件があるのか。


 探るように何度もエンドリオンの攻撃を受け止める。


 エンドリオンを倒すことは難しくない。転移を繰り返すからあまり出会えないのであって、エンドリオン自体の強さはさほどでもないのだから。


 でも倒してしまったら俺はきっと――――帰れなくなる。


「……っ」


 体が痺れる。

 息が苦しい。


 ここはルブラだ。間違いない。


 エンドリオンがルブラに転移するなどアイゼンたちは一言も言っていなかったが、これはまごうことなき事実だ。


 転移した時の感覚が、今俺の体をさいなむ痺れが、呼吸の苦しさがそれを証明している。


 持っている転移石では帰れない。

 だからエンドリオンに再び迷宮内まで転移させるしか帰る方法はない。


 もしくはすぐ側にミトスへのリンクでもあれば話は別だが……あいにくとここは洞窟のような場所で、見渡す限り同じような景色が続いている。


「……くそ」


 何でいきなりこんな危機的状況に。恨むぞ、アイゼン。


 飛びかかってきたエンドリオンの爪を受け止めて、スペースを確保するために一度距離を離す。


「……?」


 コツリと足に何かが当たって視線をやれば、そこには何かの骨があった。


 骨。何かの骨。限りなく人に近い、何かの骨。


 それを見た瞬間、悟った。

 ここはエンドリオンの巣穴で、俺はやつの餌として連れてこられたのだと。


 いくら攻防を繰り広げても、エンドリオンが俺を迷宮まで転移させることはないのだと。


 距離を詰めて襲い来るエンドリオンの攻撃を躱し、一閃する。

 腹をざっくりと裂かれたエンドリオンが耳障りな悲鳴を上げ、よろよろと後ずさった。


 そのエンドリオンの首元に、剣を深く突き立てる。


 再び咆哮を上げて、エンドリオンは絶命した。


「……は、……っ」


 崩れてしまいそうな体を、固い壁に預ける。


 ひどく絶望的な気分だ。

 俺は、ここで死ぬのだろうか。


「…………」


 いや、でも。もしかしたらこの洞窟が迷宮と繋がっている可能性もある。

 迷宮にルブラへの突発的なリンクがあるように、ここにも迷宮への突発的なリンクがあってもおかしくない。


 だから探そう。諦めるのはまだ早い。


 俺がここに転移してきてからそれなりに時間が経っている。そろそろ入口に戻ってこない俺をみんなが心配するころだ。


 ――――ユイ。

 きっと不安にさせてしまっているな。


 早く、帰らないと。


「……く」


 一歩を踏み出した足に、刺すような痛みが走る。

 心配すべきは神力の残量じゃない。この痺れが削っていく、体力の残量だ。


 前回の時は4日がリミットだった。

 でも今回は歩かなければならない分、もう少し早いかもしれない。


 その前に帰る道を探さないと――――。


「……!」


 視界の端に、エンドリオンの姿が映る。


 向こうもすぐに気づいたのか、唸るような声を上げてこちらへと向かってきた。


 死にたくない。

 帰りたい。


 ユイの元へ、帰りたい。


 あぁ、死にたくないなんて、生まれて初めて思ったかもしれないな。


 そう自嘲して、俺は剣を握る手に力を入れた。

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