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第112話

 エンドリオン。

 獰猛な獣のモンスター(アイゼン談)


 私たちが周回ルートとして巡っていた上層~中層には出現せず、下層にのみ現れる。


 そのエンドリオンを狩るためにアイゼンたちが決めているルートは、五日間で一周というものだった。この五日間すべて下層にいるわけではないので、三周するまでには会えるだろう、くらいの確率らしい。


 これを聞いた時、アイゼンたちと行動を共にすると決めたことをちょっと後悔した。


 迷宮内では湯浴びなどできない。三日で一周という今までのルートですら、早くお風呂に入りたいという気持ちがひしひしとあったのに、五日もお風呂に入れないなんて。


 だからエンドリオンを一匹狩ったら終わりにしよう。そう提案した。


 それについて異論を唱える者はいなかった。

 セスとヨハンはどちらでもいいというスタンスだったし、アイゼンたちとしても2人から5人になれば単純に報酬は減るということもあって、最初からお試し程度の気持ちだったのだろう。






「切り裂け!」


「氷の槍よ、貫け!」


 狼のようなモンスターに向かってかまいたちを放つ。

 それと同時にヴィンセントが氷の槍を放ち、二つの攻撃を同時に受けたモンスターはこちらに近づくことなく絶命する。


 下層に出てくるモンスターは、どれも上層~中層では見ないモンスターだった。強さ的にも今までとは一段違う気がする。この迷宮で出されている討伐依頼はすべてDランクから受けられるので、下層で狩れるならば狩った方がポイントは貯めやすい。とは言え、周回することを考えると日数的に下層まで下りない方が都合がよい、というのがセスとヨハンの考えだった。


 いや、もう、本当に、三日で一周というルートを考えてくれた2人に改めて感謝したい。


 エンドリオン討伐ルート、今は二周目。

 エンドリオンに出会えることなく終わった一周目は下層が初めてということもあり、刺激的で面白みもあったが、やはり五日間お風呂に入れないのは辛かった。


 辛かったというか、二周目に入っている今回もまた辛い五日間を過ごすことが確定しているわけで、この周でエンドリオンに出会って三周目はぜひとも回避したい。


 アイゼンたちはよくこんなルートを何十年もやってるなと感心してしまう。


 エンドリオンに出会ったのは、そんなことを考えている時だった。


「エンドリオンだ!」


 突如聞こえたアイゼンの声に振り返ると、そこには牛くらいの大きさをした獣がいた。


 金と黒の見事なたてがみなびかせている、ライオンのような獣。

 迷宮内を転移しているというエンドリオンが、幸運にも目の前に転移してきたのだ。


「……!」


 全員が戦闘態勢に入る。

 エンドリオンはそんな私たちを一瞥して、地面を蹴った。


 一番近くにいたのはアイゼン。しかしエンドリオンはアイゼンではなく、少し離れた場所にいたセスへと一目散に向かって行く。


「ちっ」


 ヨハンが撃った氷の槍がエンドリオンの尻尾を掠る。

 予想以上に動きが速い。


 セスはそんなエンドリオンを待ち伏せするかのように剣を構え、飛びかかってきたエンドリオンの鋭く尖った爪を冷静に受け止める。


「……!」


 しかしキィンと甲高い音がした瞬間、エンドリオンとセスの姿がフッと消えた。


「セス!」


「え?」


 私の声と戸惑うようなアイゼンの声が重なる。


「転移したのか?」


「だろうな。人を巻き込んで転移するなど今までになかったが……」


 ヨハンとヴィンセントの会話は、左耳から右耳へとただ流れて行った。


「セス……」


 ドクンドクンと痛いくらいに心臓が大きく鳴っている。

 突然セスが目の前からいなくなったという事実は、想像以上に私の心を揺り動かした。


「大丈夫だ、シエル。入口に戻ろう。セスもすぐに戻ってくる」


 そんな私を気遣ってか、アイゼンが笑顔で言う。


 そう、そうだ。

 迷宮内ではぐれた場合は全員が転移石を使って入口で合流する。そういうルールだ。


「うん、戻ろう」


 だから大丈夫。入口でまたすぐに会える。


 激しく高鳴る心臓にそう言い聞かせて、私は入口への転移石を使った。

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