第107話
「ヴィンセントと名乗った彼、ヒューマにしては神力量が異常だった。転生者かな」
落ち合う場所と時間を決めて2人と別れた途端、セスがそう切り出した。
前世では神力量が多い=転生者とは限らない、というようなことを言っていたセスだが、ヨハンからそれは転生者特有の能力であると聞いたのだろうか。それとも、前世の私の例があったから自分でそう思い至ったのだろうか。
どちらにせよ、夢のことを話すなら今がちょうどいいタイミングかもしれない。
「じゃあシエルが転生者だと言えば、何かしらの反応を示すだろ」
そう思った瞬間に、ヨハンが言葉を返す。
言うな、と暗に言っているのだろうか。前にもヨハンは言わない方がいいと言っていたもんな。
「アイゼンが転生者と一緒にいるなんてびっくりだね」
とりあえずここは黙っておこうと、取り留めもないことを口にする。
そんな私にセスはそうだね、と笑いかけたきり、それ以上何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
「ええぇぇ!? 君があのシエル!?」
予想通りと言うべきか、アイゼンは私がかつてのシエルだと知ると、椅子から立ち上がって大げさなまでの驚きを表した。
そしてその隣にいるヴィンセントも。声を上げたりはしなかったが、転生者という単語が出た瞬間、明らかな驚きを見せた。
ここはとある飲食店の一角なのだが、アイゼンの声があまりにも大声すぎて他の客がこちらをチラチラと見ている。正直、内容が内容だけに騒ぐのはやめてほしい。本当は人の目がないところで話したかったのだが、ヴァレリーでそういう場所はそうそうない。仕方がなかったのだ。
「落ち着いて、アイゼン。ちょっと座って」
セスの冷静な声にアイゼンも自分が目立っていることが分かったのか、ごめんと小さく謝って席に着く。
「でもそっかぁ、シエルは転生者だったのか。っていうか女だったのか……それはかなりびっくりだ。あーでも、ここにいるヴィンスも転生者なんだぜ! な、ヴィンス」
「あ、あぁ……俺も君と同じ転生者なんだ。初めて他の転生者に会ったから、ちょっと戸惑って何を言えばいいのかは分からないが……」
アイゼンに肩を叩かれて、ヴィンセントがおずおずと話し始める。
そりゃあ戸惑うだろうな。あまりにも突然すぎたし。
こちら側としては、ヴィンセントが転生者という単語が出た瞬間に顔色を変えたのを見ていたのもあり、別段驚きはしないが。
『ヴィンセント、俺の言葉が分かるか?』
「!?」
唐突に紡がれたヨハンの日本語に、ヴィンセントの顔色が再び変わった。
なぜか隣のアイゼンも驚いた顔をしているが……それはまぁ、聞いたことのない言語をいきなり聞いたせいだろう。
「分かるみてぇだな。懐かしいだろ? 俺も転生者だ。よろしくな」
「そ、そうなのか……よろしく。知らないところに実は結構いたんだな」
「結構……でもねぇと思うけどな。逆にここに3人も揃ってる方が珍しいんじゃねぇかな」
自嘲するような笑みを見せたヴィンセントに、ヨハンもまた同じような笑みを見せて言う。
なんてったって4人中3人がここにいるのだから、そりゃあそうだろう。ミハイルがいた時代なら、それだけで神に警戒されたに違いない。
「ま、同郷同士の会話は後でゆっくりとやろうぜ。お前らだって懐かしの再会なんだろ?」
そう言ってヨハンがアイゼンとセス、私を順に見やる。
そういえばそうなのだ。私は夢で何度か見ていたけれど、本来であればヨハンの言う通り、懐かしの再会なのだった。
「ん、そうだな! セスたちは最近ここで狩り始めたのか? 俺たちはずっとここでやってたんだけど、会うのは初めてだよな」
ヨハンの言葉に明るく頷いて、アイゼンが問いかける。
あぁ、変わらないな。アイゼンは20年経ってもアイゼンだ。
青年期で体の成長が止まっているからだろうか。実際の年齢はフィリオとそう変わらないはずなのに、いつまでも少年のような感じがする。
討伐隊で一緒に過ごした3か月が鮮明に思い出されて、ひどく懐かしい。




