第106話
迷宮探索を始めてから2か月と少し。探索に慣れてコンスタントに周回できるようになった私たちはこの日、運命的な再開と出会いを果たした。
「セス……!?」
一日の休息を終えて、再び周回に入ろうと思い地下に降りたら、見知った人物がセスに声をかけてきたのだ。
「……アイゼン?」
その人物を視界に入れるなり驚き固まって、セスは間を空けてその人物の名前を呼ぶ。
アイゼン。
夢で見た通り、青年となった彼がそこにいる。
後ろにはヴィンスと呼ばれていた男性も一緒だ。
私もいきなりの登場でびっくりして、危うく声を上げてしまうところだった。
この姿でいきなり彼の名を呼んだらフィリオの時みたいに混乱させてしまうからな。
彼らが洞窟のようなところにいるのを夢でよく見ていたが、ここのことだったのか。
ずいぶん長いこと2人はここにいるようだから、お互いこれだけ何度も足を運んでいればそりゃあ遭遇もするか。フィリオと会った時よりはまだ必然性も感じられる。
「うおー! やっぱりセスだ!! ひっさしぶりだなぁ!」
「……本当に久しぶりだね。まさか君にまで会えるとは思ってなかった」
「え!? 誰かに会ったのか!?」
後ろにいるヴィンスを放置してアイゼンは1人で盛り上がっていく。
そのヴィンスは特に気を悪くした様子もなく、ただ成り行きを見守っている。
「あぁ……そうなんだけど、話すなら場所を変えよう。君は探索から帰ってきたところのようだから、一度解散して落ち着いた頃にヴァレリーで」
「お、そうだな。確かにその方がいいか。ヴィンス! 俺の昔の仲間なんだ」
セスの言葉に頷いて、アイゼンが後ろのヴィンスに声をかける。
その名が出た瞬間、今まで黙って見ていたヨハンの顔色が変わった。私が夢の話をした時に彼らのことを詳しく話していたので、思い当たったのだろう。
「初めまして、ヴィンセントです」
声をかけられたヴィンスが前に出てきて名乗った。
あれ、ヴィンスというのは愛称だったのか。
「……初めまして。こちら側の自己紹介は、できればヴァレリーでゆっくりとさせてもらいたい。ヨハンごめん、彼は昔討伐隊にいた時の仲間なんだ。今日はヴァレリーに戻っても構わないか?」
私のことがあるからだろう。セスは無理やり自己紹介を回避した後、彼らが何かを言う前にヨハンの方に向き直った。
「あぁ、いいぜ」
ヨハンはただそれだけを言って頷く。非常に空気の読める人だ。
「お前の夢に出てきた"ヴィンス"だよな。昔の仲間の元にいるって言ってたし」
アイゼンたちと話しながら階段を上るセスに聞こえないように、ヨハンが小さい声で話しかけてきた。
「……はい」
「お前、あのアイゼンとかいうやつに転生者だと打ち明けるのか?」
「うーん、たぶん……。ネリスでも一度討伐隊の時の仲間に会ったんですが、その時は打ち明けたので」
「じゃあそれを聞いた反応でヴィンスが転生者か確かめられるな」
「そう、ですね……」
それを聞くということは、ヨハンとしてもヴィンスが転生者なら話をしたいという気持ちがあるのだろうか。まぁ、ヨハンが知りたかった真実を魔王の口から聞いたとは言え、長い間転生者を追い求めていたんだもんな。話せるなら話したいか。
それにしても、転生者は今現在私を入れて4人。その内の3人がここにいるなんて、すごい密度だな。
「でも間違いなくヴィンスさんは転生者だと思います。この前リリアーナの夢を見た時、ちょうど魔力総量が多いという話をしていたので……」
「……そうか」
私の言葉に、ヨハンはそれだけを返して口を噤んだ。表情を窺うと、気難しい表情で何かを考えこんでいる。
一体何を考えているのだろう。聞いてみたい気もしたが、気軽に聞けるような雰囲気ではなかった。




