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第103話

「過剰に脅してんじゃねぇよ。昔だいぶ長いこと迷宮に潜ってたが、突発的に発生したルブラへのリンクなんて見たことねぇぞ」


 今まで黙って話を聞いていたヨハンが呆れたように口を挟んだ。


 セスも先ほど"まれにある"と言っていたのでそう頻度は高くないとは思ってたが、そういうレベルなのか。

 というより、ヨハンがそこまで長い期間迷宮に潜っていたことの方が気になる。


「俺はあるよ。迷宮内に通じるリンクとは色が違うから一目見れば分かるんだけど、気をつけるに越したことはない」


「何色なの?」


「迷宮内に通じるリンクは青白い色で、ルブラに通じるリンクは橙色だ。デッドラインやルブラから帰ってきた時にあったリンクと同じ色をしている」


「なるほど」


「ルブラから帰ってきたぁ!? 神属性のお前らが何しにルブラまで行ったんだよ!」


 納得した私の言葉はヨハンの驚きの声に掻き消された。


 まぁ、そりゃあ事情を知らなければ驚くよな。


「行きたくて行ったわけじゃない。ネリス手前の森でロア族に遭遇して落とされたんだよ」


 うんざり、とでも言いたげな様相でセスが言う。

 いや、気持ちは分かる。あの時は本気で死にかけたし。


「いきなりか?」


「いきなり」


「それでよく2人して生還できたもんだな……」


「シエルが頑張ってくれたからね」


 ヨハンの言葉にそう答えるセスはどことなく悲しげだ。

 その時の状況を思い返すと申し訳ない気持ちが浮かび上がり、何も言えなくなる。


 それがあったからこそ今があるのだと、分かってはいても。




 ◇ ◇ ◇




「お、おぉ……」


 迷宮の入口だという場所は、想像していたものとは全然違った。


 宮殿、というのが一番分かりやすい表現だろうか。


『ロシアの冬宮殿みたいだよな』


 驚きに固まる私に、ヨハンが日本語で言う。


『そうなんですか? すみません、ちょっとよく分からないです……』


 私の返答に、小さく笑うヨハンの声が聞こえた。


 ネットがあるなら調べられたのだが、そういう便利なものはこの世界に存在しない。でもまぁ、博識なヨハンがそう言うのだから、その冬宮殿というものに近い見た目をしているのだろう。とりあえず砂漠の国にあるような球体の屋根の宮殿ではなく、四角い建物の宮殿。いや、何を言っているのかと思われそうだが、そう形容するしかないのだ。


「この建物の名前はヴァレリー。この建物はすべて冒険者向けに開放されていて、迷宮探索に必要な施設をいつでも利用できるようになっている」


「へ、へぇ……?」


 セスが説明してくれたが、正直、こんな豪華そうな宮殿を冒険者がいつでも利用できるなんて言われても、今いちピンと来ない。


「入ってみりゃ分かる。行こうぜ」


 首を捻る私の背を軽く押して、ヨハンが歩き出した。

 セスも後に続いたので、遅れないよう、私も2人を追う。


 入ってみれば分かる、というヨハンの言葉の意味は、すぐに理解できた。


 ショッピングモール。

 ヴァレリーの一階部分を説明するのに、これ以上適切な言葉はないだろう。

 様々なお店が個別にブースを持ち、商売をしている。遠目には飲食もできそうな場所も見えるので、なおさらそんな感じだ。


 豪勢な宮殿の中にショッピングモール。何だろう、この落差は。


「な、分かっただろ?」


「はい……何かびっくりしました」


「たぶん、やろうと思ったらヴァレリーの中だけで生活できる」


 ヨハンの言葉に頷くと、彼は苦い笑みを浮かべてそう言った。


「ギルドも併設しているから迷宮で得たものはここで売れるし、飲食店や宿泊施設もあるからね。実際そうしている冒険者もそこそこいると思うよ」


 セスも付け加えるように言って笑う。

 確かにこれだけいろいろなお店があって、さらにはギルドもあるのなら、この中だけで完結できそうだ。


「なるほどなぁ……」


 端から順に見て回りたいと思うほどヴァレリーの中は元の世界のショッピングモールに近い雰囲気を持っていて、懐かしさに胸を躍らせた。

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