第102話
「君、ずいぶんと魔力総量が多いね。一般的な魔術師に比べて段違いだ」
「それは前にも別の先生から言われました。でも別に特別なことをしたわけではないですし、才能があるだけの話ではないですか?」
「はは、自分でそれを言うのかい。でも確かに君の成績は優秀だね、リリアーナ」
久しぶりにリリアーナの夢を見た。
おそらく場所は学校なのだろう。講師と思われる男性とそんな話をしている。
あぁ、分かってはいたけれどやはり、リリアーナも転生者なのだな。
だからきっと、アイゼンと一緒にいるヴィンスという男性も転生者なのだろう。
知らぬ間に覗き見られているなんて誰だって嫌なはずだから見たくなんてないのに、なぜ私はこんな力を手にしてしまったんだ。
ミハイルを殺した罰だとでも言うのか。
あれから何も触れてはこないが、ヨハンだって内心では嫌だと思っているだろうな。
◇ ◇ ◇
シャンディグラに着いて一週間。
この間で長旅の疲れをたっぷりと癒した私たちは、ついに迷宮へと赴いてみることにした。
ついに、と言っても、迷宮が初めてなのは私だけなのでセスとヨハンにワクワク感は全くないようだ。
冒険者をしていたと聞いた後だからこそ、ヨハンが迷宮を訪れたことがあると聞いても驚かないが、それを知らずしてそんなことを聞いたらきっと声を上げて驚いたことだろう。
「迷宮に入る前に覚えておいてもらわなければならないことがある」
3人で揃って摂っていた朝食時、セスが突然そう言いだした。
「なに?」
「各所にあるワープリンクの種類についてと、攻略する際のルールについてだ」
「……ほぅ」
「迷宮に発生しているワープリンクは、基本的には迷宮内のどこかに飛ばされる。しかし相互に行き来ができるもの、一方通行のもの、ランダムに飛ばされるものとその種類は様々だ」
「なるほど」
アルディナやルブラに行くためのワープリンクみたいな感じか。
まぁ、そもそもがルブラへの単独リンクが発生した影響でできた迷宮だし、そういう仕様であっても別段驚きはない。
「迷宮の地図を作成して売ることを専門としている冒険者もいて、基本的には彼らから地図を買えばリンクの種類や飛ばされる先は把握できる。けれど、迷宮はある日突然リンク先が変わるのが特徴だ。その地図が最新とも限らない。そこで、迷宮を攻略する際のルールというものが重要になってくる」
地図作成を専門としている冒険者がいるのかぁ。そりゃあすごい。大変そうなお仕事だ。
「リンクには、必ず全員一緒に触れること。万が一ランダムリンクにばらけて入ってしまった場合は、決して追いかけてはならない」
「…………」
そうだな。それは当然だ。
追いかけたところで同じ場所には出れないのだから。
「……その場合、飛んじゃった方は自力で合流するしかないのか」
「大丈夫だよ。そうなった時のためのアイテムがちゃんとあるから」
「アイテム?」
「迷宮の入り口へ飛ぶための転移結晶石だ。これを全員が一つずつ所持し、はぐれた段階で全員が使って、入り口で合流する」
「一つずつ……そんなに簡単に買えるの?」
少なくとも今まで、転移の結晶石が普通に売られているところなど見たことがない。
そう簡単に手に入るアイテムとは思えないのだが。
「買えるよ。国がそれを売ってるからね。探索を終えて迷宮から出る際にも、それを使うことになる」
「へえぇぇぇ……そうなんだ」
脱出用アイテムとか、本当にRPGみたいな世界だな。
「でもそれは迷宮内から入り口まで戻れるだけの簡易的な結晶石だ。離れた場所から転移するには含まれている力量的に無理があるからね。だから、迷宮内にまれにあるルブラへのリンクに触れてしまった場合、おそらくその結晶石で帰ってくることはできない」
「ルブラへのリンク……? シャンディグラからルブラに行くための単独リンクとは別の、ってことだよね?」
リンクを通るには通行料が発生すると前に聞いたことがある。迷宮内にまれにあるというのなら、それとは別のもののはずだ。
「そう、どの種類のリンクか分からない突発的なリンクだ。滅多に見かけないんだけどね。でもそれに触れてルブラに落ちたら死ぬと思ってくれ。残された人間が後を追いかけることはしない。してはいけない。それも、ルールの一つだ」
「…………」
……なんか、フラグに聞こえるのは何でだろう。




