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第101話

 寒い。

 氷が溶けた水を被ったので当然だが、体に張り付いている濡れた服がさらに寒さを助長している気がする。地面を転がったせいで汚れしまったし、もう散々だ。


「ヨハンさん、大丈夫ですか?」


「ああ。お前こそ大丈夫か? 悪かったな、俺の判断ミスでやられちまって」


 セスから治癒術を受けているヨハンに声をかけると、予想外の言葉が返ってきた。


「判断ミス?」


「俺が氷で創った槍、相殺されて目つぶしみたいになっちまっただろ」


「あぁ……大丈夫ですよ。あそこまで広範囲に散らされてしまっては、何の元素であっても同じように目つぶしになったような気がするので。私がもっと離れておくべきでした」


 確かに、降りかかってきた水で顔を背けたために対処が遅れた。でもあれが岩であっても砂が飛んできて同じように目つぶしになったはずだし、風であっても目を開けていられなかったはずだ。


「目つぶしするつもりで、相殺したからね」


 ヨハンに治癒術をかけているセスが、苦い笑みを浮かべながらそう言った。

 セスの息が若干上がっている。連続しての治癒術はさぞかし疲労も大きいだろう。


「でもあの手刀を避けられるとは思っていなかったな。本当は、あそこで首を打って気絶させるつもりだったんだけど……予想以上にいい動きだった」


「あれはヨハンさんが教えてくれたから避けられたんだよ。ヨハンさん、ありがとうございました」


 とは言ったものの、できるなら気絶させてもらいたかったと思ってしまうくらいには痛かったので、よかったのか悪かったのか微妙なところだ。


「あー……」


 同じ考えでいるのか、そもそもの元凶が自分だと思っているのか、ヨハンも神妙な顔をして私から視線を逸らした。


「あの蹴りはいくらなんでも容赦なさすぎだろ。あそこまでやる必要、なかっただろうが」


「起き上がってこないくらいの痛みを与えないと、意味がないんだよ」


 怒りを含ませたヨハンの言葉に、セスもまた言葉に怒りを含ませて返す。


 険悪な雰囲気だ。よくない。これはよくない。


「大丈夫です、ヨハンさん。セスが私のためにあえてそうしてくれているのは分かっているので」


「お前も感化されすぎなんだよ……」


 フォローするようにそう言ってみると、ヨハンから呆れたような諦めたような、複雑な思いが垣間見える言葉が返ってきた。




 ◇ ◇ ◇




 シャンディグラ。

 この世界において一番の強国と言われている、アルセノの最南端に位置する街。

 ルブラへの単独リンクを有し、その場所が迷宮になっていることから、冒険者には人気の街となっている。

 ヨハンいわくロシアっぽい街並み、ということらしいが、そう言われても私にはよく分からず、海外っぽいおしゃれな街だなという陳腐な感想しか出てこない。


 結局、ここに至るまで1か月強の時間を要した。

 おそらく私の歩幅の狭さが原因だったのだろう。2人がペースを合わせてくれていたので、セスの想定よりは時間がかかってしまったようだ。


 まぁ、あとは道中で頻繁に訓練を行っていたので、それも要因と言えるかもしれない。


 やればやるほど動きに磨きがかかっていく、とセスは言ってくれたが、当然ながら最後までセスに勝てるということはなかった。


 一度だけ短剣でセスの腕を切りつけることができたのだが、そのことに動揺しすぎて動きが鈍り、結局返り討ちにされた。

 散々痛めつけられているくせに、いざ人を傷つけたら動揺するなんて君らしい、とセスは苦い笑みを浮かべていたっけな。


 ヨハンも毎回ではないけれど一緒に付き合ってくれて、チーム戦での能力が向上したことも大きな成果だ。


 彼は、非常にサポート能力に長けた魔術師であると思う。

 戦況をよく見て、私の動きを阻害しないように的確なサポートをしてくれた。


 どう考えても医術師として生きてきただけではなさそうな気がしたので尋ねてみると、冒険者をしていた時代もあったのだと、彼はどこか寂しげな表情を浮かべた。


 その裏に重く苦しい何かがある気がして、それ以上を聞くのははばかられた。

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