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第100話

 短剣を構えて地面を蹴る。


 セスと距離を詰め、胴体を狙って横殴りに剣を振ると、彼は後方に飛んでそれを避けた。

 その着地点に突如として水たまりが出現する。ヨハンが作り出したものだろう。セスの足がつくのと同時に細かい氷の粒が飛散した。

 水たまりに足を踏み入れた瞬間に水を凍らせたヨハンと、それを相殺したセスの力がぶつかり合ったようだ。


 キラキラと舞うそれに飛び込むようにして私は再び距離を詰め、今度は下段から剣を振った。


 素早く振ったそれは、しかしセスが左手に持っていた短剣で簡単に受け止められてしまう。と同時にセスの右手が手刀となって、突くように迫ってきた。


「……っ」


 後方に倒れこむようにして間一髪それを避ける。


「岩よ、立ちふさがれ!」


 地面にお尻がつく前にセスとの間に岩の壁を作り出して追撃を防ぎ、退避して体勢を立て直す。


 しかし予想とは反して、岩の壁は相殺されなかった。


「……!」


 セスはそれを無視し、すごい速さでヨハンの元に向かっている。

 先に術師から片づける気か。


 ヨハンがセスに向かって氷の槍を放つ。しかし覇気で相殺され、水となって飛散した。


「岩の槍よ、止めろ!」


 セスの足元に岩の槍を出現させる。

 が、詠唱のせいで発動が遅れ、空振りしてしまう。


「……ちっ」


 セスが横殴りに振った手刀を、ヨハンは舌打ちしながら後方に飛んで躱す。

 それと同時に私は地面を蹴ってセスとの距離を詰めていく。


 ヨハンを追ってセスがさらに踏み込む。ヨハンはそれを阻止しようと右手を突き出し、セスとの間に爆風を起こした。

 反動でヨハンの体が後方に飛ばされ、それを相殺したセスの動きが止まる。


 そのセスの背中に向かって私は短剣を振った。

 振り向きざまに振られたセスの短剣と私の短剣がぶつかり合う。


「……くっ」


 予想以上に力強く打ち付けられ、短剣を持つ手が痺れた。危うく弾かれるところだった。


 セスから蹴りが飛んでくる。

 私はそれを、後方に飛んで避けた。


 双方が動く前に、セスの頭上から氷の槍が数本落ちる。ヨハンだ。

 セスはその場から動かず、それを覇気で相殺した。

 ずいぶんと過剰な神力を放出したのか、雨となって降り注ぐはずのそれらは放射状に散り、セスには全くかからず、こちらへと飛んでくる。


「後ろ!」


 飛んできた水に顔を背けた瞬間、ヨハンの叫ぶ声が聞こえた。

 その声で振り向いてみれば、今まさにセスが私に向かって手刀を振り抜こうとしている。いつの間に。いや、今の間にか。


「っ……!」


 とっさに体を深く落とし、かろうじて避ける。が、その瞬間肋骨に強い衝撃を感じ、体が飛ばされた。


「ぐっ……う……っ」


 激しく地面を転がったが、肋骨に走る痛みが強烈で身を起こすことが叶わない。

 蹴り飛ばされた。間違いない。ついでに言えば骨が折れている。これも間違いない。嫌な汗が噴き出して、水をかけられただけじゃない寒気が襲って来る。


「シエル!! ちょ、お前……っ」


 ヨハンの動揺する声が聞こえた。


「ぐあっ……!」


 それに少し遅れて、何かが叩きつけられたような音とヨハンの呻き声が耳に届く。


 あぁ、ヨハン、ごめんなさい。私がやられたのを見て立ち止まってしまったか。


「て、めぇ……っ、女を蹴ってんじゃねぇよ……っ!」


「いたずらに痛めつけたわけじゃない。必要があったからそうしたまでだ」


 痛みからか苦しそうなヨハンの声と、違う意味で苦しそうなセスの声。


 ヨハン、ありがとう。でも大丈夫。セスの真意はちゃんと分かってるから。


「ごめん、痛いね」


 いつの間にかこちらに来ていたセスが、うずくまっていた私の体をゆっくりと地面に横たえた。


 すぐに治癒術がかけられ、じんわりとした温かさと共に徐々に痛みが和らいでいく。


「……ヨハンさんは?」


「後でやるよ」


「……先、ヨハンさんでいいよ。私こうなるって分かってたし」


「さすがにそういうわけにはいかないな」


 セスが困ったように笑う。


 そうか。そういうわけにはいかないのか。私が女だからか。

 そりゃあヨハンには申し訳ないなぁ……そう思いながら私は目を閉じて治癒術に身を委ねた。

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