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第96話

「早いですね。私も早く来たつもりだったのですが」


 夜、約束の場所で待っていた私たちの元に来るなり、フィリオは申し訳なさそうにそう言った。


「うん、まぁ、私たち暇人だから」


 午後も適当に街をぶらぶらとしただけで特にやることもなかった私たちは、かなり早い時間から待ち合わせ場所にいて道行く人たちを眺めていた。

 フィリオも時間よりだいぶ早いが、私たちはそういう次元ではないくらい前からここにいたのだ。


「そうですか。では早速行きましょうか」


 そんな私の言葉にフィリオが苦い笑みを零す。


 彼はグレーのジャケットに第一ボタンまで留めたシャツ、黒いタイトなパンツとかなりきっちりとした服装をしている。仕事帰りにそのまま来たのだろうか。

 そういえば討伐隊の時もあまりラフな格好はしていなかったか。ただ単純にそういう趣味なのかもしれない。




 ◇ ◇ ◇




「3班のメンバーの中でネリスにいるのはフィリオだけなの?」


「ええ。残念ながら」


 フィリオおすすめの料理店に入り、料理が来てからそう聞いてみれば、彼は少し寂しそうな笑みを見せた。


「ニコラは今はたぶんシスタスで治安維持活動をしているはずです。もう何年も会っていませんが」


「そうなんだ。リーゼロッテとエレンは?」


「…………」


 その問いにフィリオは答えず、視線を逸らした。


 何かあると言っているのと同等のその仕草に、私の胸がざわつく。


「リーゼロッテは……あの後一緒に騎士見習いとなったんですが、正式に騎士となる前に家に連れ戻されてしまいました」


「そっか……名家の令嬢、だもんね」


 家に縛られたくないから無理やり討伐隊に参加したという話を思い出した。

 それでも、結局家から出ることは叶わなかったんだな……。


「リーゼロッテはその際、エレンを専属騎士とすることを条件としてオルコット家に戻ったんです」


「エレンを専属騎士に?」


 そういえば侯爵家にはお抱えの騎士団がいる、という話をしていたっけ。リーゼロッテはエレンをお抱えの騎士にしたわけか。


「じゃあ2人はあの後もそうやってお互いを支える間柄になったんだね」


「そう、ですね……」


 騎士になることは叶わなかったけれど、2人が強い絆で結ばれたのならまだよかった。そう思って笑顔で言ってみると、しかしフィリオは暗い顔で視線を泳がせた。


 というか、さっきからフィリオは私たちの顔を見ない。

 なんなんだ。一体どうしたというのだろう。


「それだけじゃない何かが、あるの?」


「…………」


 沈黙。


 あぁ、嫌な予感がする。


 これは相当重い何かがある気がする。

 聞いてはいけないくらいの何かが。


「リーゼロッテ・オルコットはべリシア6大侯爵の一つ、エイマーズ家の嫡子の婚約者として選ばれ……それを阻止したい何者かの策略によって暗殺された」


「えっ……!?」


 長い沈黙の果てに答えたのは、フィリオじゃなくてセスだった。

 それも淡々と。言葉に感情を乗せずに。


 驚いてセスの方を見れば、彼は無表情でフィリオを見つめている。


「ま、待って、どういうことなの? セス、そんなこと今まで一言も……」


「そうだね。言わなかった」


 私の言葉にセスはあっさりと頷いた。

 言う必要などなかった、そう言いたげな目で。


「なん……なんで……そんな、リーゼロッテ……」


 理解が追い付かない。


 リーゼロッテが暗殺されたなんて。

 もう、彼女はこの世にいないなんて。


 信じられない。


 なぜセスはそれを淡々と告げるのか。なぜそれを今まで言わなかったのか。

 しかし今はリーゼロッテが暗殺されたという事実がショックすぎて、怒りの気持ちは沸いてこない。


「知っていたんですね、セス……」


 フィリオが悲しそうな目でセスを見る。

 しかしセスの表情は変わらない。相変わらず色を映さない瞳でフィリオを見つめている。


「その暗殺依頼を受けたのは俺だからね」


「「えっ!?」」


 そのセスから告げられた言葉に、私とフィリオの声が揃った。


「う、うそでしょ……」


「貴方がリーゼロッテを……?」


 信じたくない私たちの言葉が再び重なる。


 エレンに"殺してあげようか"と言い放ったあの日のセスの姿が脳裏に浮かび、私は言葉を失った。

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