第94話
「いや、まさか、そんなことが実際起こり得るなんて……驚きました」
私が転生者であったこと、記憶を持って再び転生したことを説明すると、フィリオは戸惑った様子でそう口にした。
「じゃああの時から貴女は女性だったんですね。それは……その、少し気まずいですね」
先ほどからフィリオは私の顔を見ない。
いや、まぁ、気持ちは分かる。男性として接してきた人が実は女性だったと今さら聞いても困るだろう。お風呂だって一緒に入っていたわけだし。
私はあの時割り切ってすでに乗り越えたことだが、フィリオはそうじゃない。気まずく思うのは当然だ。
「私の話はもういいよ。それよりも、みんなの話を聞きたいな。みんなは元気?」
「あ……えっと、いろいろお話したいのですが、すみません、今はちょっと勤務中でして。もしよろしければ夜どうですか? 食事でもしながら」
「あぁ、そっか……ごめんね、突然声をかけちゃって。うん、夜、ぜひ会おう」
その鎧を着ているということは、そりゃあ勤務中だよな。
長々と引き留めるべきではなかった。
「いえ、あのタイミングで声をかけてもらわなければきっとそのまま会えなかったでしょうから。ありがとうございます、シエル」
フィリオはそう言って、笑みを見せた。
あの時と変わらない態度で、あの時とは全く違う私をシエルと呼んでくれる。
それは純粋に嬉しかった。
「じゃあ場所と時間を決めようか」
「あ、その前にちょっとだけいいですか? もしお時間が大丈夫なら今から行く場所にぜひついてきてほしいのですが」
セスの言葉にそう返して、フィリオはにっこり笑った。
「別に時間は大丈夫だけど……」
突然出会った私たちをどこかに連れていきたいという理由に全く見当がつかず、私もセスも頭に疑問符を浮かべる。
しかしフィリオは後で説明しますからと言ってそのまま歩き出してしまったので、私たちは何も言えずに後に続いた。
◇ ◇ ◇
フィリオが足を止めたのは、広場のようなところだった。
そこで白の鎧やローブを纏った人たちが何人か固まって話をしている。
「フィリオ大尉」
私たちが近づいてきたのが彼らにも分かったようで、その中の1人がそう言った。
大尉。なるほど、20年前のガヴェインと同じ階級か。
「アリア、ちょっといいですか」
「? はい」
フィリオが名前を呼ぶと、黒い髪をした女性が一歩前に進み出た。凛とした印象を持つその女性は、白い鎧を纏い、腰に帯剣をしているので剣士のようだ。
20歳前後くらいだろうか。私とそう違いはないように見えるが、見覚えはない。セスも同様なのだろう。何も言わないが疑問に思っているような雰囲気を感じる。
「紹介します。こちらはアリア・マルクス。私の部下です」
「初めまして、アリア・マルクスです」
「初めまして、シエルです」
「初めまして、セス・フォルジュです」
全く状況は理解できないが、自己紹介されたので私もセスも自己紹介を返す。
アリアの方も全く状況を理解できていないようで、私たちの間には疑問符が飛び交い、この場は異様な雰囲気に包まれている。
「2人とも、彼女が誰か、分かりませんか?」
「え?」
「申し訳ないけれど、俺には分からない。初対面だと思う」
フィリオの質問に素っ頓狂な声を上げた私に対し、セスは冷静にそう返した。
しかしそう聞くということは、私もセスも知っている人物のはずだが、そもそも年齢的に辻褄が合わないような? 実はヒューマじゃなくて長命な種族なのかな?
それとも……彼女も私と同じように3班の誰かの記憶を持ったまま転生したとか?
いや、3班の中にさすがに転生者はいなかっただろう。いたとして再び転生したとしても、アリアがセスを見て気づかないなんておかしいわけだし。私の話をした時にフィリオは"そんなことが実際起こり得るなんて"と言っていたので、同様の事例を知っているわけでもなさそうだから、その線は薄そうだ。
そんな思考をする私と、神妙な顔でアリアを見つめるセスを、フィリオはにこにこしながら眺めている。




