これは違うと思う
僕は特に人間の世界で生きていくことに執着があるわけじゃない。孝太郎や修也兄、怜司兄みたいに主に固執しているわけでもない。だから、主からの力の供給が尽きてこの体を維持できなくなってこの世から消えてしまっても構わないのだ。
だけど、これは違うと思う。
気が付いたら高校生くらいの少年と二人、薄暗い空間にいた。僕たちの目の前には神々しい何かがいる。
僕には光っている何かにしか見えないのだけれど、目の前の少年にはソレが女神様に見えるらしい。
で、自分の管理している世界が滅亡の危機に瀕しているから勇者として救ってほしいと言っていると。
断っちゃいなよ。君受験生でしょ?もうすぐ入試はじまるしさ、こんなものに関わっちゃダメだよ。
「でも、ここからどうやって帰るんですか?」
そうだよね。ちょっとそこの光ってるヤツをボコってみようか?そうしたら帰れるかもよ。
僕が実力行使にでようとしたら、光っている何かが少年に糸らしきものを投げてかけて地面とおもわしき場所に引きずり込みだした。
悲鳴を上げてこっちに必死で手を伸ばす少年。
これって、完全にアウトだよね。
仮に本当に自分の世界を救ってほしいとしても、それを頼む相手にこういうことをしちゃダメでしょう。
異界の神様って何考えてるのか分からない。
その少年を召喚するにしても食べるにしても、方法ってものがあると思うんだ。
まぁ、このまま少年を見殺しにするのも後味が悪いよな。
「少年、そのままで。動いちゃダメだよ」
恐怖で固まっている少年に一声かけて、絡みついている糸を切っていく。ついでに光る何かの中央にある核のようなものを破壊する。
僕って暗殺特化の両刃刀だから、相手のどこを壊せばいいのか分かるんだよね。
何かを壊したと思った瞬間、さっきまで歩いていた場所に戻った。もちろん少年も一緒だ。
「全く。白昼堂々と誘拐事件を起こそうとするなんてさ。大丈夫?災難だったね、少年。ウチの店でお茶でも飲んでいきなよ」