プロローグ
主が失踪した。
繋がりが絶たれたと店の中でみんなが騒いでいる。椋介は店に置いてある古い振り子時計を睨みつけた。
午前十時三十四分。貴重な日曜日の朝なのになんでこんなに騒がしいんだ。
「椋介、俺たちはこれから出かけてくるから留守番頼んだ」
と、店主であり親代わりの孝太郎が言った。
「孝太郎、待て。怜司、車をだせ」
「分かった」
椋介の目の前でドタバタと走り去って行く、叔父の修也と怜司。
ため息をついて店の扉を開け、閉店中の札を掛ける。ついでに外に出してある看板も店の中にしまった。
七年前。
突然意識が浮上した。何の前触れもなく目が覚めた。
目の前には孝太郎がいて、修司がいて、怜司がいた。どうしていいか分からないまま、三人についていった。そして、自分の正体を知った。
刀の付喪神。のようなものだと言われた。
今なら、どこのラノベだと突っ込みをしたが、その時はそうなのかとしか思わなかった。
自分と契約した人物がいること、その人物の力が大きすぎて実体化してしまったこと、彼に戸籍と住む場所を与えられたこと。ここにいる三人とも同じようなモノだということ。
契約主からは好きに生きろと言われていること。
なので、各々の嗜好を生かして喫茶店を営んでいるのだと、とても喫茶店の店長とは思えない光沢を放つスーツを着た怪しいオッサンが説明してくれた。
ゆるく癖のある髪を撫でつけ、端正な眉目に無精ひげをうっすら浮かべたそのオッサンが俺の親となった、桐峰孝太郎だった。
当時の俺の見た目が小中学生っぽかったから、弟ではなく息子にしたと言ったのは修也兄だったか。
調理全般が孝太郎、コーヒーを淹れるのが修也兄、紅茶を淹れるのが怜司兄。
「ようこそ桐峰堂へ。歓迎するよ、椋介」
そう言ってみんなに頭を撫でられた。
主という言葉で自分がここに来た当初のことを思い出した。
あれから七年経った。今は大学に通いながらここ桐峰堂でウェイターのアルバイトをしている。
「つーか、ヒマ。せっかくの日曜なのに」