崖から落ちて
詰んだ。
詰んだ。
人生詰んだ。
完璧に終わった。
信じたくない。
信じたくない。
信じたくない。
俺は首相だ。
このイタリア王国のトップだ。
この地位は変わらない、
安泰だと思ってた。
そう、さっきまでは…
「ムッソリーニ君」
国王エマヌエーレ3世に呼ばれる。
チッ、俺はこうみえても忙しいんだよ。とっととパスタ食わせろ。
「な、なんでしょうか。改まって」
「…連合軍がシチリア島に上陸した」
「…いやいや冗談は髭だけにしてくださいよ(笑)
そんな馬鹿みたいなこt、いまなんて言いましたか??」
「連合軍がシチリア島に上陸した」
「も、もう一回…」
「連合軍がシチリア島に上陸したんだ!何度も言わせるなパスタ中毒め!!」
「は?」
「…もういい、ムッソリーニ君。君は今日から馘だ。とっととローマから消えろ!」
「おい、ちょま、え??」
バタン!と音を立ててドアが閉まる。
国王が出て行き数分。ようやく俺は状況を完璧に理解した。
「つまり、今日から俺は無職ってことか…」
そして、今に至る。
「はは、俺、もう首相じゃないんだな、はは」
ぶつぶつ呟きながら街を歩く。
周りからの視線が痛いが今の俺には関係ない。
もうどこにも居場所はない。
地位も権力も財力も失ったんだ。
そんな人間このイタリアにはいらない。
それなら…
「じゃあ死ぬか。」
割とあっさり思い切った。
「死ぬなら綺麗なところで死にてえな…」
彼には一箇所だけ候補があった。
美しい海に飛び込む。
全てを失った自分にはピッタリの死に方だ。
だがここから海まで30km近くある。
仕方ないので歩くことにした。
どうせ死ぬ身だ。最後ぐらい歩いてもいいだろう。
すでに日暮れが近いが、構わず歩き続ける。
森の中を、小さな村を、歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩き続けること十時間。
潮風と波の音が体を包み込む。
深夜の海は静かだった。
息を深く吸い込む。ローマの空気とは違う、清々しい空気。
身も心もボロボロになった今、俺を繋ぎ止めるものは何もない。
そして俺は、
躊躇うことなく海に飛び込んだ。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い!
めちゃくちゃ寒い。
なんだ、あの世はこんなに寒いのか?寒いなら防寒装備よこせや。
まあいい。
今更あの世にケチつけても仕方がない。
俺はそっと目を開ける。
…
……
………
…………
嘘だろ。
周りを見渡すとそこかしこに高い建物が立っている。
ここがあの世なのか?
この狭い道はなんなんだ。とりあえず進んでみる。
すぐに大通らしいところにたどり着いた。
そして…
「これは…一体…どういうことだ…」
ド派手な格好をした若い女性、髪の色が奇抜な若者。原色ゴテゴテの何かを頬張っている女性もいる。
目をこらすと道路の先に門のようなものが立っている。そこには、一言、こう書かれていた。
[竹下通り]
と。