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その74 身代金要求

 商家として有名な『22』



 3人の男が中から出て来る。

 3人は統一された上着を着ているが、それ以外の衣類はバラバラだ。

 ただ、3人に共通して言えるのは、3人とも堅気に見えないこと。


 3人は『22』の主人達に見送られている。見送りの者の顔は怒りに震えていたり、絶望していたりと、笑う者はいない。3人は『22』を出た後、同じ町の『14』に向かう。用件は同じだ。金をせびりに来たのだ。それも小遣い程度にの金額ではない。莫大な額。

 だが、彼らは払うしか無い。子供を人質に取られているのだから。

 そして払う金額は莫大だが、破産する程じゃ無い。それは長い期間で結果的に多くの金額を毟られることを意味する。


 3人は冒険者。それも今問題になっている『ユージュの冒険者』

 50人以上の人質を常に抱え、身代金を毟る冒険者村の遣いだった。

 各家の主人から受け取った金を無防備に持ち、堂々と道を行く冒険者。

 あからさまな犯罪者だが、誰も止める事が出来ない。

 それどころか、国を出るまで各家の者が護衛を付ける有様。国に入る時彼らは宣言している。自分たちが無事にユージュに戻らなければ人質が死ぬと。しかも、そのときそのときで死ぬ人質を指名している。

 氏名された人質の親はたまったものではない。一族総出で冒険者の護衛をする有様だ。

 お陰で、冒険者はたったの3人で捕らえられる心配も無く大金を持って村に帰るのだ。


 ある家が身代金を払わない事が有った。


 人質の家の中の立場のせいだろうか。それとも悪人に屈しないという態度だろうか。金銭的なものだろうか?


 身代金を払われなかった人質は殺された。


 それもジャージャー国の中、昼間に大勢の者に見られながら。

 そして冒険者は堂々と歩いて去って行くのだ。

 彼らを逮捕すれば代わりの人質が死ぬ。やつらのいつものやり口だった。


『勇者イブ』に与えられた平和は勇者が去る事によって崩れ去った。

 イブの居ない軍など恐れる冒険者は居なかった。




 ーーーーーーーーー





 見たく無かった。



 身代金要求の為に道を行く冒険者達。

 道端、家の陰とかから多くの人が無言で見ている。見ているだけで誰も手出しが出来ない。


 今、町を歩く冒険者3人の先頭。

 弟のガイだ!ユージュの冒険者になっていると聞いていたけれど、本当だった。

 間違える訳が無い。たった2人きりの姉弟。

 いかにも冒険者風のギラついた装飾を身につけている。信じたくはないが、無理矢理やらされているように見えない。それどころか3人の中で一番偉そうにしている。

 どこかで思っていた、冒険者をやめてどこかで真人間として生きているんではないのか? 顔を見せてくれなくてもいい。足を洗ってくれていればそれで満足だった。子供の頃は普通の子だったのにどこでおかしくなってしまったのだろう!


 こんな犯罪者になって何とも思わないの?ガイ!



 我慢出来ず、飛び出てガイに叫ぼうとする!

 突然塞がれる口。


 いつの間にかジンが私の横に居て、私の口を塞いでいた。

 ジンが『静かに』と小声で言う。

 でも藻掻く私。

 ジンの手を抜けようと暴れるが、出られない。


 でも、ガイは私に気付いた。

 間違いない、私とジンに気付いた。

 だが、ガイは汚い者か弱い者を見るかのように鼻で笑った。

 なんで?

 私達姉弟じゃない!ジンとも子供の頃から一緒だったじゃない!


 ジンが私を抑えるのは解るよ。

 もう、ガイはガイじゃない。

 私だからといって姉扱いはしてくれないかもしれない。危険かもしれない。

 冒険者の姉だと周りに知れたら故郷の二の舞になる。

 いっそ、ガイと心中してしまいたい。でも、そうしたら人質の子が死ぬかもしれない。

 でもどうにもならない物が私を突き動かす。それをジンが止める。



 そしてガイ達は通り過ぎ、どんどん遠ざかった。

 本当に見えなくなった頃、気力の無い涙が流れ始めた。






「エリア、食べないと駄目だよ」


「食べたく無い」


 ジンがベッドに沈む私を呼びに来る。

 何も食べたく無い。何もする気が起きない。

 数年振りのガイは最悪だった。一番なって欲しく無いガイになっていた。


 あのとき、ガイを殺して私も死んでしまいたかった。

 でも、ジンに止められた。今や私達だけの問題じゃない。ガイを殺せば人質の子も死ぬ。

 何も出来ない。どうにもならない。

 かつて冒険者を殲滅した勇者はもういない。今の勇士隊も敵わなかった。魔国の武器で勇士隊に勝った冒険者は益々調子に乗る。


 あのとき勇者は、どうして私の故郷の冒険者も殺してくれなかったの?冒険者が居なくなっていれば、ガイが誘われる事も無かったのに。




「一度だけガイに会いに行こう」


 ジンが言った。

 何も手は無い。

 ユージュに行こうと。

 ガイを呼び出して説得しようと言った。殺す訳にはいかない、報復は赤の他人の子に向く。

 望みは無い。でも幼馴染として何もしないで諦める事は出来ないと。

『帰ってこい』と言おう。

 ガイの方から帰って着てもらうしか無い。

 帰って来ないなら私達は死ぬと訴えよう。本当に死ぬのも考えている。

 このままでは生きているのも辛い。その時は2人一緒だ。


 私とジンの心はひとつ。

 もう安住の地はないのだ。

 いっそ、平気で生きて行ける図太さが有れば良かったのに。

 巻き込んでしまったジンにすまないと思う。でも、ジンは優しい『いつでもエリアと一緒だ』と言ってくれる。ご免、私の弟のせいで。


 二日後、私達は旅支度をしてユージュに向かう事にした。

 家は借家だ私達が死んでも持ち主に返るだけ。

 ジンは職場にお別れをした。もし、上手くいったなら3人で知らない地に行こうというので、どの道戻らない。

 駄目なら諦める。



 全てを諦める。



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