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その71 無料サービス!

『お墓参り!』





 美人三才児はどうりで黒い服を着てきた訳だ。


「ユリさん、その子は知り合いですか?」


 部下が如何にも仕事でなく私用で来た風な子供の事を不思議に思い尋ねてくる。どうしよう、言ってもいいのかな。素性を言っちゃっていいのかな?


 私はジーナに耳打ちする。

「なんて紹介したらいいの?」


 隠密だったら誤魔化す。こちらにも心の準備がいる。

 ジーナはどう答えるだろう?

 イブ様の娘と言うだろうか?赤の他人を装うのだろうか?それともサリュート人の振りをするのか。

 私の部下にジーナがお辞儀をしてこう言った。


「魔王の使いで参りました。魔王の四天王がひとりジーナです」


 あ、頭が痛い。

 何を言うのこの子は!

 それじゃ、その黒服は礼服でなくて、魔族衣装になっちゃうじゃない!

 もう訳がわからないわ。

 ジーナの見た目も訳がわからないのに、おっさんくさい喋り方だったり子供っぽくなったり、こんなアホなことを言ったり。

 それでまさか、こんな子があと三人も居るのかしら?


「あ、四天王と言っても、あと三人は募集中!」


 そうですか。

 部下が変な物を見る目で私とジーナを見ている。

 そりゃそうだよね。でも、魔王だとか四天王とか益々ややこしくなったじゃない!


「とりあえず安心していいから」

 部下に伝える。あら?部下が四人に増えてる。 野次馬が増えたか。男の部下も居る。可愛い女子に興味津々そう。ロリコンじゃないだろな?


「ユリ、ラビィのとこ連れてって。エルザの墓は場所分かるけど、ラビィのはわかんない」



 ああ、そうだ。

 この子はイブ様の記憶を受け継いでいる。だからエルザ様の墓は知っているのだ。

 あの時、イブ様はもうひとつのことを言っていた。


 ジーナには『ストビアの知識』も頭に入っていると。


 

 私はジーナを見つめ直し、


「ラビィの所に行く前にみてほしい物があるの」


 この子なら・・・





 手術が終わりベッドに横たわる勇士隊長パティ。本来は面会謝絶でワレンチナ女史以外は病室に入ってはいけない。

 ワレンチナ女史は出来ることは全てやった。あとはパティの生命力に祈るのみ。

 全身血だらけの包帯。特に右胸は一度潰されたのを 再形成手術した。肋骨を外部骨格で支え、肺も修理作業したが、肺は止まってる時間が長かったので復活してくれるかは判らない。骨も全部復活出来るかどうか。

 そもそも生き長らえられるのか。

 ジャージャー国の物ではない医療機器がパティの身体につながっている。



 パティの傍らに連れてこられたジーナ。今はこの子にすがるしかないユリ達。

 ジーナは医療機器やパティをひとつひとつ見る。

 ストビアの技術を持つこの子なら、生命さえ作れるイブ様の使いのこの子なら!

 都合の良い奇跡を信じる。


「手術は上手くいってるよ。あとは治るのを待つしかないねー。肺は多分生き返るよ。でも、この骨とこの骨はくっつかないから、技士に言っといてー」


 そういいながら、『この骨』を指差す。


「は、はい!」


 実は技士こと、ワレンチナ女史はここに居た。開胸せずに全てを見るジーナに驚くばかり。つかない骨の追加処置はそんなに難しい事じゃない。心配事は肺が治るかどうかだった。ワレンチナ女史も安堵してるに違いない。ジーナが何者かは明かしてないが、只者ではないと分かったようだし。


「手術は上手くいったけど、持ち直すかどうかはちょっとねー」


「駄目なの?」

 さっき、大丈夫みたいなこといったのに!


「身体が持つかどうかだよね」


 体力か!

 今のパティは食事が出来る状態じゃない。ワレンチナ女史によると、『勇士』という種族が特殊で希少なので身体に直接血液を入れることも出来ないという。


「ジーナ、どうにか出来ない?」

 すがるしかない。


「うーん、魔王にジャージャー国とサリュートに関わっちゃ駄目って、言われてるの。見るくらいとかは良いんだけど」


「お願い!」

 この子だけが頼り。



「じゃあ、ちょっとだけ」


 そういうとジーナは医療器具をガサガサと漁り始めた。


「特別ね。私の出生にも関わった人の命だし。とはいえ、やり方は見せられないからね!」


 ジーナはゴツい注射器とあといくつかの道具を持つ。そして部屋の棚からデカいシーツを取り出し、パティの真横に乗り自身とパティごとシーツを被った。見せたく無いらしい。


「見ちゃ駄目だからねー」


 ジーナがシーツの中でごそごそ始める。そして独り言というか実況が始まる。


「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうねー」


 あ、おっさんがいる。

 そういえば、ストビアの知識とかいうけど、半分は男の知識のような・・・


「おっぱいデカい!魔王よりデカい!」


 間違いない、おっさんだ!

 なにげに魔王が女で、パティに乳で負けてるのばらしてるし。


「いいなあ、これいいなあ。くやしー」


 いや、アナタまだ可能性はあるから!私は無いけど。


「さーて、せーのー!いでっ!」


 痛いらしい。


「いたー。さーてと、どこにしようなかな?ここでいいかっ!」


 なんだろう?


 そして、暫くごそごそしたあとにジーナが顔を出す。

 シーツはパティに掛けたままベッドを下りる。


「終わったわ。もう大丈夫よ」


 天使のような優しい笑顔の可愛いジーナが処置の成功を告げる。

 こんなに可愛いのにシーツの中ではおっさんだったよね。アナタ三才児よね!


「このまま寝てれば治るわ。今回は特別だからね。それからこの人、頑張りすぎ。治ってからもテキトーに嘘ついて暫く休ませてね」


「ありがとうジーナ。恩に着るわ」



「本当に今回は特別よ。 でもこれじゃ私が損してるよね」


 そういうとジーナはまたパティのシーツに楽しそうに顔を突っ込んだ。その先は・・・



「いいんですか、あれ」

 ワレンチナ女史が困っている。


「パティには言わないでね・・・」


 これはここだけの秘密にしよう。



 ーーーーーーーーーー




 勇士隊が管理している勇士隊の墓地。


 ラビィの墓に花束と祈りを捧げるジーナ。

 このために着てきた礼服。

 何も喋らず、ただじっと佇む。彼女はイブ様の記憶も持つ。何を思っているのだろう。彼方にいるイブ様も来たかったに違いない。二人の過去の姿を知っている。運命に弄ばれながらも親友であり続けた二人。二人とももうここには居ない。ひとりは国を去り、ひとりはこの世を去った。


 ジーナの祈りは一時間も続いた。祈りを捧げるジーナにイブ様の姿が重なる。


 その後、エルザ様の墓にも行き、勇士隊員の墓にも行った。両手いっぱいの花束はすべてなくなった。


「ありがとうユリ」


 そう言うジーナ。

 なんとなくイブ様の声に似ている。


「ありがとうジーナ」

 私もそう言った。



その後、パティの無事な方の胸にキスマークがついてるのをワレンチナ女史が発見しますが、黙ってることにしました。

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