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その70 重要な任務

 1日の仕事を終えて彼女の待つ我が家に向かう。



 俺の名前はジン。

 彼女の名前はエリア。

 俺達は桜花の生まれだけれど、今はジャージャー国に住んでいる。古くて小さな家、しかも借家。

 俺達は幼馴染で兄妹のように育った。今二人きりで暮らしているけれど、ここまで色々あった。俺はエリアが好き。エリアも俺の事が好きだったと思う。


 結婚はしていない。


 彼女が頷いてくれない。

 一時期別れてくれとまで言われた。そんなこと出来るわけない。エリアだって俺を嫌いだから言ったんじゃない。自分と一緒だと俺に迷惑をかけるから別れてくれと。自分と一緒だと俺まで町の皆から恨まれるからと。自分は幸せになる資格がないと。


 居辛い故郷をエリアを連れて抜け出した、逃げ出したと言ってもいい。

 子供の頃は楽園のようだった故郷。彼女には今、居場所が無い。

 一時期、『死にたい』とまで言って塞ぎ混んでいたエリアをなんとかしたかった。愛しているから。

 エリアが居なければ俺も生きてはいけない。二人で誰も知らない土地で暮らそう!

 そして、


「弟のガイのことは俺も諦めない!」


 と、彼女に誓った。


 エリアの弟ガイは悪い仲間に誘われて冒険者になった。


 ガイはいつも


「ビッグになってやる!」


 と、言っていた。

 怪しい商売をしている家に通うようになった。それは表は商家、実際は冒険者集団。そしてガイは帰ってこなかった。

 時折聞くガイの姿はいかにも冒険者に染まっていた。

 ガイ達が何かする度にエリアに対する風当たりは強くなる。

 そして、エリアの両親は首を吊って死んだ。

 動機は言うまでもなくガイのせい。あまりのガイの悪評のせいで、町の人に顔向けできなくなった二人は心の糸が切れてしまった。エリアの両親は俺にとっても大切な人達。俺にいつも優しくしてくれた二人の変わり果てた姿。どうしてエリアを独りぼっちにしたんだ! 泣いた、大声で泣いた。

 そして俺とエリアで葬式をした。親族以外は誰も来なかった。隣の家の主人すら来なかった。


 そして暫くたったある日、エリアが強姦されそうになった。それも昼間の往来、大衆の前で。俺は大急ぎで駆けつけエリアを奪い返した。エリアは決定的な事はまだされてなかったが、服はすべて破られ二度と着れないようにされ、髪は切られ全裸で傷だらけになっていた。最後までされなかったのは、人が多過ぎて自身のモノを男達が出したくなかったからだろう。

 エリアは男達に無抵抗。

 そのままやられるつもりだったと言う。それはガイがしたことをやり返されてるだけだから。エリアがやったわけではないと俺は怒鳴ったが、男達を責めるに責められず俺も頭が爆発しそうだった。


 そんな事があってもエリアへの風当たりは弱くなることは無かった。その間にもガイは更に罪を重ねていったから。




 月日が経ち、ユージュに一大冒険者村ができたと聞いた。ガイ達のグループもそこに加わったらしい。



 俺がエリアに誓ったこと。

 ガイを取り戻す。昔のガイを取り戻す。出来なければ、ガイをこの手で葬る。

 ガイの心がもう二度と戻らないならこの手で終わらせる。


 エリアの弟でもあり、幼馴染としての俺の責務。




 ーーーーーーーーーー




「ユリさんに会いたいという人が外に来ていますが、いかがしましょう?」



 私の執務室に部下が呼びに来る。誰が来たのだろう。中で待たせないということは隊の者が把握してない人間。聞いてみる。


「誰かしら」


「女の子です。黒服の可愛い子ですよ。それがその・・・

 鉄の棒を持ってるんです」


 棒!


 鉄の棒を持ってると言えば我々にとっては勇士しか思い浮かばない!

 もしやイブ様?

 だが、それなら外で待たせられる事はない。彼女ならそれこそ二階の窓から入って来そうだ。


 そして、女の子と言った。


 ならばあの子だ!


 ペンを置いて立ち上がり、大急ぎで通用門に走る。後ろから部下がついてくる。

 建物を出て中庭を横切り、門に向かう。

 そこにいる筈!




 門の外に人が居る。

 黒い服がちらりと見える。



 あれ?




 そこには私より少し背が低い程度の金髪の少女が居た。どうみても13歳か14歳。

 ストビアで見たジーナではない。黒い服、イブ様の着ていた黒い服とも違う。胸を見れば既に立派になる兆候が。そして手にはいくつもの花束。

 ジーナじゃ無い?

 あれ?

 でも何処かで見たような見てないような?

 確かに鉄の棒は持っている。が、その棒は勇士の持っているものと少し違う。表面に美しい模様が刻まれていて、蒼色と金色の線が入っている。はっきり言って美しい。



「ユリ、久し振り!」


 笑顔で私に向く娘。


「ジーナ?

 もしかしてジーナ?」


「やだなあ、忘れちゃったの?ボケる歳じゃないでしょ!」


 すっかり美人さんになった三才児が笑う。わかるわけ無いじゃない!あのときは7歳くらいの姿だったし。


 部下はなにがなんだか解らない様子。そりゃそうだ。私がストビアに行ったのは誰にも言ってない。国としては、ストビアを変に刺激してまた活動を始めたら困るというスタンスだし。


 でも、ジーナが来ると言うことは、国を出れないイブ様の代理、イブ様の使いに違いない!希望が沸いてきた!

 もしかして今のジャージャー国が持ってる問題を何とかしてくれるかも!




「もしかして助けに来てくれたの!」


「違うよー、お墓参り」


 あ、そ、そうね。

 お墓参りは大事だよね。

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