その6 今度は稲刈り! 護衛兼見張りのカイ
彼の名はジン・640。
彼と俺の仕事は農園の手伝い。そして俺のもうひとつの任務はジンの見張り。
今、俺とジンを入れた10人で二山も向こうの集落に向かい歩いている。
麦の収穫の派遣もおわり、今は米農園に向かう途中だ。
麦は良かった。
これからやる米は大変だ。天気が悪ければ沼地を船を引きながらの収穫。
今から憂鬱。
ジンに何度か話しかけるが、必要な返事しか帰ってこない。
ジンは暗い。
麦の収穫のために居た地区には『三勇士隊』が来るのだそうだ。御披露目か何かだろうか。
直後、俺たちに次の派遣が決まった。それも直ぐ出発だと。三勇士を見てみたかったから残念だ。
俺たちは三勇士隊が来る前に移動する事になる。
収穫派遣隊は30人だったが、まずは10人からの移動になった。
最初の10人にジンが入る事を聞いた時のジンは珍しく怒りの感情をあらわにした。
普段、何も要求しない、何も逆らわないジンが伝令員に殴り掛かろうかとした!
ジンに胸ぐらを掴まれ、さあ殴られると思って目を瞑った伝令員。
だが殴られる事はなかった。
「すまん」
それだけ言ってジンは小屋の裏に退いた。
当然俺はジンを追った。
ジンは1人で膝を抱えて泣いていた。
『ジン・640』
彼は護衛対象であり、監視対象でもある。そして、命令通りに移動をさせなければいけない相手。
その任務を言い渡されたのは12人も居る。主に9人。ジン本人に姿を見せない陰の者が3人いる。
彼は一体何者なんだろう?
疑問に答えてくれたのは俺の彼女のココだった。
彼女もまたジンの監視任務をするひとりだった。
「ジン君はね三勇士の三番目の娘の恋人だったんだって。
2人は強制的に別れさせられたんだって。ジンは暫く牢に入れられたって聞いたわ。
私達の本当の任務はジンを三勇士に近づけない事なの」
ココは城下町出身だ。
詳しい人の知り合いとかっだたんだろう。
「勇士の恋人!なんで別れなきゃいけないんだ?いっそ近くに配属すればいいのに。いや国で保護してその上で結婚でもさせればいいのに!」
「勇士になったらもう結婚出来ないんだって。だから一生独身。噂では人間でなくなるらしいわ。具体的にどう変わるか知らないけど。だから無理矢理別れさせられたって」
「僕なら結婚出来なくても側に居て欲しいけど」
「そういう風に2人を認めるかって話も有ったみたいだけど、もしジン君が他の娘とデキちゃったら側に居る勇士の娘は荒れ狂うわよ、それで駄目だったみたい。恋仲になれない女の側に、何も出来ない女の側に変わらず居られるかしら?」
「・・・・」
「ジン君は軍の要求を全て断ったらしいわよ。それで牢に入れられたって。
知ってる?
私の任務に『ジン君をたらし込む』ってのがあったのよ」
「うそ! 初めて聞いたよ。まさか今も? 俺は?俺の事は?」
「一応ね、任務だから最初近づいたんだけどね、全然駄目だったわ。あっ、貴方を愛してるのは本当よ。ジン君は多分私の任務に気付いてる。私は襲われてもジン君にされるがままの命令だったのよ?笑えるでしょ。でも来ない。多分ジン君は今でもその娘の事を愛してるんだわ」
「軍の奴ら恐いな。ジンが可哀想だ。そうか、それで俺達だけ三勇士隊が来る前に移動なのか」
「軍も馬鹿よね。
ジン君に新しい彼女や結婚相手が出来たから諦めなさいって、誰が勇士の娘に言うのかしら?もし斡旋したなんてバレたら絶対に荒れ狂うわ。私だったら隊員だろうが上司だろうが殺すかも。あ、あんたも浮気したら殺すわよ」
「大丈夫だよ、一筋だから」
とはいえビビった。この女には逆らわない事にしよう。
しかし、ココが言わない事も有った。彼女がこの男と恋人になったのはジンと恋人にならない為の予防線でもある。ジンの恋人になろうものなら自分まで監視対象で、状況が変わればジン君と一緒に葬られるかもしれない。あえてジン君にバレるように隙を作った。身の安全の為だ。
本心を言えば、彼の事は『まあいいかな』程度だ。