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その68 ストビアのあれこれ

「例えばどんな?」




 おかしい所だらけ、不思議な事だらけだけれど、なにからあげよう。



「この国は広すぎます。外から見たときはこんなに大きくなかった。青空が見えます。蓋があるはずなのに」


「そうね・・・

 何から話したらいいのかしら。ジャージャー国では無い技術だから。まず、これは夢のようなものよ。でも夢ではないわ、心の中に作り、心で繋がる世界よ」


 驚きの事を言うイブ様。


 だが私も何度か夢かと疑った。

 しかし、夢から覚めないし、寝て起きた後も忘れない。夢は大概覚めたあと忘れてしまうものだ。


「そもそもの話をしましょう。

 私達、それから私達が魔人と呼んでいたサリュート人、ストビア人は元は同じ人間よ」


 同じ?

 姿こそ同じようだが、能力に差がありすぎる。これらが同じ?いや、『元は』同じと言った、『元は』だ。


「数百年前、ストビアは世界の政治的中心だったわ。圧倒的な技術力と戦力と文化。同程度の国はいくつも有ったけれど、恐らくはストビアが頂点だったと思う。当時の彼等は自分達が圧倒的支配をした時に平穏が続くように考えたの。

 圧倒的な国力で他国を支配統合し、武力の廃棄をしたわ」


 ストビアはやはり強国、疑う余地はない。初めてストビアの攻撃を見たとき絶望したのを思い出す。ジャージャー国もサリュートも消えると思ったくらいだ。負けるだけではない。消えると思った。

 そして、他にも国が有ったのか。我々の国以外にも桜花やアクシオム国や他の国もあるから同じようなものだろう。

 そして驚くべきは、それを完全に把握しているイブ様。そしてそれは権力だけではないのだろう。知識もか。


「その時、廃棄されることになった兵器のひとつがサリュート民。正確にはサリュート民の半分。もっと言うなら、サリュートが匿った人達。

 彼等は人体改造で作られた兵士。強く、多様な武器を使いこなし、丈夫な皮膚を持っていたの、私に似てるわね。

 平和の為にとは言え、生きている兵士を殺すんだから残酷よね。改造兵士は戦う為に産み出されたけれど、心は普通の人間。死にたくはないし、相手を傷つけれは心が痛むわ。ちゃんと心があるのよ。

 『不要な兵器』として処分されることが決まった彼等。殆どの改造兵士が殺されたわ。悲惨な光景だったらしいわ。平和の為にやっている行為が残虐だから皮肉よね。

 でも、命からがら脱走して生き延びた改造兵士達がいたの。彼等は殆ど着の身着のままで地上をさ迷ったわ」


 確かに話に出て来た改造兵士がイブ様と重なる。かつてセルゲイ氏がやった勇士手術のようだ。


「その改造兵士達を匿ったのが空から帰って来たサリュート民よ。今のサリュート人は元のサリュート人と改造兵士の混合種」


「空から?」


「空からよ。

 ユリはこの大地の大きさを知ってる?この大地は星よ、想像つくかしら。夜見える星。

 空の星も近付くと大きいわ。そこに立って私達の大地を見たら、ここが星に見えるわよ。それも小さい方の大きさね」


「え?ああ、ええと・・・想像出来ません」

 何がなんだか。

 大地が星?

 空の星も実は大きい?

 なにがなんだか。


「サリュートは空に、いえ、空の更に上に有った船だったの。この星以外の住める星や場所を求めて旅や観測や実験を長い間していた船。それが空から帰って来た。サリュートが帰って来たのは、もう限界だったから。旅と観測をさんざんしたけれども、住める大地は結局ここしかなかった。そして最後の力で帰って来た。もう空には上がれないわ。低い高さで移動することは出来たけれど、今はもう動けないと思う。年月が過ぎて船も老朽化したし、壊れて直せなくて、使えない道具だらけになったたろうし。私とセルゲイが最後のエンジンとエネルギー使ったからサリュートは今やただの箱かもね」


「あんなに空には星があるのに」

 あの星全部が大地だとすれば、住むところは一杯有りそうなのに、ダメなんだろうか?

 そして、サリュートが現れたときもある日突然だった。空を浮いてやって来たのか。

 そしてイブ様とセルゲイが特攻したあの力はサリュートの最期の力だったのか。



「そう、この大地も星のひとつ。空にはあんなに多くの星があるのにどれも住めないの。

 そして、可哀想な改造兵士を匿ったサリュートもストビアから攻撃対象にされたの。それ以後はサリュートはストビアから逃げ隠れる歴史を歩んだ」


「解らないことだらけですが、なんとなく解りました。イブ様はこれからどうするのですか?」


「このままよ。ストビアを消してしまいたい気もするけど、そう簡単に壊れないわ。そして、この中にある武器や施設を表に出すわけにはいかない。信じられる?ここにはジャージャー国を一瞬で消し去る武器も有るのよ。辻褄が合わないわよね。武器を廃棄するために改造兵士を殺しまくったのに、自分達用の武器はちゃんととってあるんだから。私とセルゲイは此所を制圧した後にストビアを鎖国することに決めたわ。技術力を欲しがるセルゲイですらこの国に恐怖したの」



 私達どころかサリュートの人々にも見せたくない技術。

 もうひとつ気になる事が。


「元はひとつのと言ったけれども、私達は?ジャージャー国や桜花やアクシオムは?」


「恐らくは、ストビアが嫌で逃げた一般人達の生き残りね。ストビアからは脅威とされなかったからほおっておかれたのね。

 それから、最初の質問に答えるけど、この世界は仮想空間。集団で共有する夢よ。

 この大地も空も山も偽物。でも、ここの人達には現実なの。この国の人達が選んだ生き方。体は寝たまま心だけで生活する。詳しくは説明出来ないけど、寝てるだけだからエネルギーも食料も土地も殆ど必要ないわ。物を欲しがらないなら材料のための鉱山を掘る必要もない。怪我しても本当は怪我してないから困らない、遠くに行きたいならいくらでも土地を広く出来る。魔法も有ることに出来る。

 本当の身体が寝てて動かないなら国を小さくすることが出来る。あとは必要な資源を求めて国ごと移動するの」



 やはり夢のような物だったのか・・・

 それでこの国はこんなに広いのか。

 魔法も嘘だったのか。すると・・・


「私が買ったこれは・・・」


 私は袋から五本の瓶を出して机に置いた。


「ジャージャー国には持って行けないのですか?」


「・・・ああ、そういうこと。それも存在しないわ。何を考えたかは判るわ。私も考えたことあるもの」


 なんてこと!

 これさえ有れば娘や孫の危機を救えると思ったのに!

 はは、そんないいものが有るわけなかったか。


 イブ様は私の手を取って自身の顔に当てる。


「この顔の怪我が無いのもここに居る時だけ。目が覚めれば元の顔よ。私がユリを力一杯抱き締めることが出来るのもここに居る時だけ。元に戻ればまた怪力の怪物よ」


「いえ、怪物では」

 思わず否定する。


「わかってる。でもそうなのよ」


 イブ様の顔、筋力。

 そういうことか。

 ストビアの凄い医術でイブ様の顔が治ったかと思ったのに、残念だ。柔らかい手を触った時に彼女もこれで普通の生活に戻れると思ったのに、駄目なのか。なにか悔しい。


「ジーナ」


 イブ様はジーナを呼んで自分の膝に座らせる。膝に座らせるにはちょっと大きいジーナ。


「ジーナはね、私とジンの子供になるはずだった子なの。昔、セルゲイが私の子種とジンの子種を合わせて作ったの。体外受精という技術、私のお腹は使ってないわ。でもね、ジンの子種は消えて失くなって私の子種だけで成長したの。最初は私の複製かと思ったけど、ちょっとづつ違うのよね。セルゲイに聞いたら『じゃあ妹と同じですね』って言ってたの。私の母の胎児の状態と同じだったらしいわ。女の子になったのも偶然らしいわ」


 それを聞いてはっと思った。


 ジーナ。


 彼女のことだ。生まれたのが男の子だったら、『ジン』と名付けたかもしれない。『ジーナ』は『ジン』の女の子名だ、きっと。

 そして、セルゲイ氏とは連絡をとっていたのか。彼はなにも語らなかった。


「今だったらね、いえ、此所だったらね、ジンの子種を失くさずに受精させる事ができるのにね。でも、いいわ。ジーナが可愛いもの」


 そう言って彼女はジーナの頬に軽くキスをした。

 ああ、私もジーナちゃんにキスしたい!可愛いもの。


「子種はセルゲイが保存していたわ。それを私が育てたの。ここの技術を理解した時に、セルゲイなら受精卵を休眠状態で保存できる筈、してる筈と思ったの。案の定、そうだった。すぐ持ってきてもらったわ。あとはこの国の設備で育てたの。私の記憶やこの国の知識もこの子に入ってる。実年齢より大きいのもこの国の技術」


「え?セルゲイ氏がやったのではなくて?」


「私よ」


 もしやイブ様はサリュートの偉大な技術者セルゲイ氏を越えている?

 イブ様は生命すら作れる存在に?

 この人にはいつも驚くばかりだ。

 ならば、


「この国の技術なら、顔の傷痕も消せるのではないですか?」


「消せるわ。でも、あの傷痕も私の歴史の一部よ。それにもう綺麗な顔も必要ないわ」


 ああ、そうだ。

 この人はジン君以外はどうでも良いのだ。他の男に愛想を振り撒く気は全く無いのだ。そしてジン君の目にはもう映らない。国に帰ることもない。ジン君はそれはそれで幸せそうでもある。

 ジーナが生まれてきてくれて良かった。この子が居なければイブ様の人生は悲しすぎる。


 今更思い出した!


「あ、セルゲイ氏から預かってた物があったんです。栄養剤だけど、この世界に入るときなくなったんです!」


「ああ、大丈夫よ、元の場所にある筈よ。あとで貰っておくわ」


 そう言い終わるとイブ様は宙を見つめた。暫く固まっている。

 そして、私に向く。


「折角だけどユリ、帰った方がいいわ。セルゲイから連絡が来たけれど、国で良くない動きがあるらしいわ。パティのところに行った方がいい」


「連絡が?」


「今でもセルゲイとは連絡を取り合ってるの。方法は言えないけど。ジャージャー国で事件らしいわ。連絡してくるくらいだから余程の事ね」


 なんだろう、余程の事?

 戦争?

 大事件?

 クーデター?

 ジン君のことでは無さそうだ。ジン君が危機ならばイブ様は怒り狂うだろう。

 この世界で、鬼神のようだった彼女もすっかり淑女のようになっている。でも、ジン君が危機ならばきっと元に戻る。


 とはいえ、帰る方法が解らない。



「送るわ」


 椅子から立つイブ様。

 ジーナと一緒に玄関に向かう。私も後を追う。ポーションは机の上、もう要らない。

 そとに出ると、ジーナが私を引く。

「危ないから少し離れてね」


 イブ様はすたすたと広い所に進む。そして、立ち止まり目を見開いた!

 瞬間、紫の霧が広がり彼女の身体が巨大化する!

 とてつもなく大きくなる身体、ツノと翼が生え、伸びる首!

 紫の霧が消える。


 ドラゴン。


 白いドラゴン。


 これがイブ様?

 魔法?

 魔王の魔法?


 呆気に取られる私を引くジーナ。

 導かれるがままにドラゴンの背に乗せられる私。前にはジーナ。

 まさか空を飛ぶのかな?

 まさかね。

 落ちたら死ぬかな?


 ジーナが私に振り向いて手で私の足を叩く。すると、足がドラゴンにくっついた。良かった、落ちることは無さそうだ。でも、怖そう!黒豹の背中でも怖かったのに!


 できれば、他の移動手段がいいんですけれども・・・




 眼下に広がる絶景を私は殆ど見ていなかった。怖くてそれどころじゃなかったから。前でジーナが観光案内をしてくれたけれど、殆ど覚えてない。

 特に背面飛行はやめてほしい!怖いから!

 ジーナは楽しそう。

 飛んでるのに立ち上がってドラゴンの首のかなり上まで平気ひょいひょいで歩いて行くし。

 この子は将来どうなるの?

 やはりイブ様の子種だ!






 ーーーーーーーーーー





 連れられて来たのは、最初の家の最初の部屋だった。あの忌々しい女は居ない。

 言われるがままあのベッドに寝せられる。傍らには人に戻ったイブ様とジーナ。


「お別れね」


 イブ様が言うと、意識が消えた。




 再び目が覚めると殺風景な部屋の細長い箱の中。

 ああ、戻ってきたのか。

 セルゲイ氏の説明書がある。服は着てきた服で、あの痴女のような格好から解放された、ほっとする。

 セルゲイ氏から預かってきた栄養剤が無い、持って行かれたのか。きっとそうだと思うことにする。


 箱から出て周りを見ると、沢山の同じ箱。

 空のものが多い。

 蓋が閉じてる物もあるが、中は見えない。私と同じように夢を見てるのだろうか?あの世界の人々もこの箱のどれかに眠っているのだろうか?

 私が起こす訳にはいかないのだろう。不思議な体験だった。魔法のある世界。不思議な機械。見たこと無い生き物。簡単に怪我が治る薬。ストビア人が住む世界。心だけで生きる世界。

 だけれども、少し寂しい世界だった。何故だろう?


 私はセルゲイ氏の説明書を遡りながら、ストビアを出た。攻撃はない。

 イブ様を連れ出せない無念が残る。でも仕方ない。


 仕方ないのだ。


 また会えることを信じて帰りを急ぐ。

 何かが起こっているのだ。

 イブ様は来れない。私達で何とかするしかない。




 砂漠を歩く。

 少し身体が重い。これが現実今の私の身体か。




 ーーーーーーーーーー





「ジーナ」


「なに?イブ」




「お使いに行って欲しいのだけれど」

ユリに対し

『資源の節約』ということは説明してません。

言っても解らないので。


それと、ストビアのとても重要な事をいいませんでした。


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