その67 親友だからって
親友の死。
イブ様は泣き続けた。
ラビィさんは勇士手術の前は健康体だった。
手術を受けなければ今も元気だったかもしれない。彼女はイブ様を第一に考えて行動していた。セニンの事もそう。軍に居る間も国ではなく、部隊ではなく、イブ様の為に動いた。勇士手術を志願したのもイブ様との友情の証だったに違いない。
「ラビィはね、よく私を抱きしめてくれたわ。私が抱きしめる訳にはいかないから。
壊さないようにそっと手を添えるだけの抱擁はつまらないものよ。ただ構えているだけみたいでね。
それでね、ラビィがいくら全力で私を抱きしめても全然物足りないの。それ言ったら、『筋トレしてくるから』なんて言っていたけど、まさか勇士に志願するとはね。
でも、少し思ってたわ。ラビィに飛びついてみたいって。メイド時代みたいにね。
物足りないなんて言わなきゃ良かった・・・
生きていて欲しかったのに・・・」
「自分を責めないでください。
ラビィさんは自分で選んだんです。当たり前の幸せよりも女の幸せよりも貴方を選んだんです。
貴方は愛されていたんです。彼女は救われた国民として貴方を好きだったのではなく、親友として愛していたんです。確かに彼女はベッドで苦しんでいましたが、それよりも貴方の事が心配で苦しんでいました。いつも貴方ばかりに茨の道を歩かせて、何もしてやれない自分を責めていました。そして、たったひとりでストビアに残った貴方に心を痛めてました。
貴方とラビィさん。
もうどっちが不幸か判らないけれど、ベッドで彼女は言ってました。
『私はイブの親友よ。このくらいはイブの歩いた道に比べればどうってこと無いわ』
彼女は生き延びれなかったけれど、自分で選んだんです。
彼女は決して後悔はしていませんでした」
でも、死んで欲しくなかった。
本心ではそう思った。私の様な年よりが生き延びて、娘と同じ世代の者が辛い想いをする。
あんまりだ。
慰めの言葉をかける。
ほんと、ただの慰めにしかならない。
「ラビィさんの魂の安らぎを祈りましょう」
「ありがとう」
弱々しくイブ様が答えた。
死後の世界が有るならば、彼女に救いがありますように。
ー ー ー ー ー ー
日が暮れてきた。
ドアが開く。ジーナが帰ってきた。
ジーナの目に入る悲しみに暮れるイブ様の姿。
「イブ、どうしたの?」
イブ様が泣いているのを心配している。
「ジーナ。ラビィが死んだわ。
勇士の身体になれなかったのよ。アーサーが最期を看取ったって」
「セルゲイは治せなかったの?」
「そう。だめだったみたい」
「イブ、悲しい?」
「悲しいわ。ジーナも一緒にラビィが天国で幸せになれるように祈ってね」
「うん」
イブ様とジーナの会話が変だ。
ジーナがやけにイブ様の過去の人間関係を知っている。
毎日お話しているのだろうか? でも、見た事も無い人の話をされても面白くは無い筈だ。
セルゲイ氏が医療に精通している事も知っている。そもそもストビアでは医療は違う形式だ。魔法とかポーションとか使うのだから。
そう言えば、この子は私を知っていた。心を読んだのではない、顔を知っていたのだ。
「イブ様。ジーナちゃんはこの国の生まれなんですか?」
思い切って聞いてみる。
ジーナを膝に横向きに乗せ、ジーナの頭に頬を乗せたイブ様が答える。
「ジーナはね・・・・・
どう言ったら良いんだろう。産まれたのはジャージャー国だけれども完成したのはストビア。遺伝子的には・・・いえ、身体としては私の妹。でも、家系でいうと私の子供なの」
何を言ったのだろう?
良く理解出来ない。
「理解出来ないわよね」
まったくだ。
どうして『産まれ』と『完成』の二つの言葉が。
妹であり子供。
なにがなんだか解らない。でも、やけに顔が似てるのは解った。
父親は?
彼女ならジン以外は認めない筈。
「そしてこの子は私の記憶を持っているわ。でも、この子は私じゃない。ジーナよ。
記憶を持っているだけ。この子はこの子よ。ユリの顔も覚えていたわ」
理解出来ない。常識を覆す内容ばかり聞かせられる。
ただ、初見で私を呼び止めたのは私を知っていたからか。
「この子は、私の過去も、ジンをどんなに私が好きだったかも、全て知っているわ。
ジャージャー国の事も全て知っている。
私が何人殺してきたかも知っているわ」
言葉を失った。
私達の常識ではあり得ない。
これもストビアならでわなのだろうか。
「ユリ、この子何歳に見える?」
突然の質問。まだ悩んでるというのに。
「7歳か8歳かな?」
「3歳よ」
驚いた!
大きすぎる!
しかも、知識量は成人と変わらない。
「受精したのが確かに8年前だけれど、赤ん坊として産まれたのは3年前。なんと説明したら良いのか解らないわ。ジャージャー国には似たものすら無いから。
まあ、この国だから出来たと思って欲しいわ。ジャージャー国やサリュートでは無理よ」
もう、理解出来ない事だらけだが、ストビアの技術がもの凄いと言うのは解った。
そして、イブ様がその上に立つ存在だということも。
この国の防衛機を操作しているのもイブ様だ。
冒険者としてのトップランカーもイブ様。
そして、
「どうして『魔王』なんですか!」
今更聞いてみた。
「ははっ、そう。誰か倒しに来ないかなあって思ったの。依頼を出したのは私よ」
呆れた。
自分で自分の討伐依頼を出すとは。強者故の戯れか。
そして、思い切って聞いてみた。
「この国は変です。説明がつかない事だらけです!これはどう言う事なんでしょう?」




