その64 ロリ
【魔王イブの討伐】
推定地点アララル湖付近
魔王スペック「最強」
依頼者「非公開」
報酬「ストビア国」
「あの、この依頼!」
「魔王討伐ですね。行かれますか?成功すれば報酬は思いのままですよ?」
「あの、その、詳しく教えて貰えますか?」
混乱している。
国は要らないから。それよりも、これを受ければイブ様に会えるのだろうか?
もし、イブ様が魔王になっているのなら、冒険者として会いに行ったら返り討ちにあうのだろうか?
私だったら戦わずに済むのだろうか?
イブ様、闇落ちして私を覚えていなとかだったら大変だ。
私では勝てない。
殺さずに制圧するなんて無理だ。
100回やったら100回負ける。
更に『魔王』になったことで更に強くなっていたら目も当てられない。
この国には不思議な道具や武器が有る。
私より遥か前、3年前から居るのなら、私の物よりもっと良い武器を持っているだろう。
しかも『魔法使い』で現在は『魔王』だという。
私は魔法を知らないし、魔法に対する戦いなんてもっと無理。
魔法なんて御伽話でしか知らない。
戦ったら、私は石や鼠に変えられてしまうのだろうか?
とにかく情報が欲しい。
「そうね。魔王は1年前にアララル湖に現れたわ。
そこに村が有って、そこに住んでるらしいわ」
「この報酬の『ストビア国』というのは?」
「そのままの意味よ。国が貰えるわ」
「魔王が住むアララル湖はどんな所ですか?」
「田舎ね。馬なら半日、歩けば1日半かな?人によって違うけれど」
「いままで戦った人はいるの?」
「誰も行かないわ。貴方が行くなら貴方が初めてよ」
どうしよう。
『魔王』とはどんな状態なんだろう?
魔王になって別人になってしまっていては、会う意味が無い。
そんな御伽話もあった。
そうしたら、生き延びて引き返し、最初の町まで引き返し、ストビアを出るしか無い。
ならばまた旅費が要る。
イブ様が昔と同じで私を受け入れてくれるというのなら、最低限の食料だけ買って歩き、うまく会えれば、今の手持ちでもなんとかなりそうだ。
イブ様が国王なり魔王でも、その後の私の旅費はまかなえるだろう。
正直、親子程の年齢差なのに、お金を貰うのは抵抗があるけれど・・・
イブ様には一度,ジャージャー国に戻って欲しい。
できないだろうか?
もし、私が代わりにこの国に残る事で、イブ様が外に出れるなら、私が残っても良い。
或は、イブ様の代わりに私が残るのなら、代理でこの国を治めるのにそれなりの強さが必要なのだろうか?
それには経験や武器がもっと要るのだろうか?高齢の私に出来るのだろうか?
すると、武力を得るまでの滞在費が掛かるかもしれない。
どの道今日は仕事ができない。
一晩宿をとって考えよう。
何をするにもまだ決心がつかないのだ。
ーーーーーーーーーー
翌朝、またギルドに来た。
考えが纏まらないので、一日だけ仕事をしようと思った。
一日経てば新しい情報も手に入るかもしれない。町の事すらよく解っていないのだから、焦らずに少し待とう。そう考えてギルドに来た。
ギルドの入り口の段差に誰か居る。
小さい女の子。
建物に入るには3段くらいの段差が有るのだけれど、そこに7歳くらいの子供が座っている。
長い金髪。綺麗な顔立ち。
幼児なのだけれど、将来美人になるのは容易に想像つく。
周囲に親や兄弟とかは見えない。それともギルド嬢の子供だろうか?
ギルドの入り口に近づくと、女の子が私を見つめる。
ずっと見つめて来る。
まったく視線をそらす気配がない。
そして、
「魔王に会いに行くの?」
その子はそう言った。
昨日は居なかった筈のこの子。
私が魔王討伐の依頼内容の事をギルド嬢に聞いたのは知らない筈。
でも、小さいからカウンターの中に居れば、話を聞くことは出来たかもしれない。現実的に考えればそんな事はしていないと思う。
どうして知っているのだろう?
一昨日、私の心を読んだ娘。彼女の様な存在も居るのだから、この子もそうなんだろうか?
一応、答えてみる。
「どうして?」
「貴方がここに来る理由は魔王に会う以外無いから。
じゃなければ、こんな所まで来ないでしょ」
あれ?
完全に私の心を読んでいるのではないみたいな言葉。
だけれども、私の事は知っている様な。
そして口調が大人びている。
「貴方は誰?」
「私はジーナ。貴方は間違ってなければユリよね?」
ユリよね?って言った。
つまり、私をユリだと推定して魔王に会いに来たと読んだ。
心を読んだのでは無さそうだ。
魔王はイブ様だということが間違いない。
「魔王に言われて来たの?魔王は私に会いたがってるの?」
「どうだろ?聞いてないから。ユリが来た事をまだ知らないだろうし」
相変わらず言葉が幼児じゃない。
見た目と年齢が違うのだろうか?
そして、この子はイブ様の使いでは無いし、イブ様の分身でもない。
「会いたい?」
どうする?
この国に来てから常識が違いすぎて、どうするのが正解か解らない。
でもなんだかんだで、色々上手くいってる気がする。ここでまた運命に身を任せても良い気がした。
「会いたいわ」
「そう」
短く言い、ジーナは座ったまま地面を右手でばんっ!って叩いた。
そして、その手をゆっくり地面から離し持ち上げると、地面から光る杖がせり上がって来た。
幼いジーナが持つには少し長い杖。
杖が完全に地面から抜けると、浮いている杖をぱしっと掴む。
そしてジーナは何も無い所に向かって杖を投げ、
「おいで!」
と、短く言い放つ!
とたんに投げた杖のあたりに広がる赤い霧。
うっすらと霧の中から何かが現れる。
霧が晴れると、そこに居たのは巨大な黒豹。
でかい!馬より大きい。
これは何?
魔物・・・?
そして、これが魔法・・・
ジーナは黒豹に近づき頭に手を伸ばすと、黒豹は頭を下げて撫でさせる。
ジーナは愛おしそうに何度も頭と首を撫でる。
そしてそのあと、自身の身長の倍の高さが有る黒豹にすっと乗ってしまった。
この黒豹は完全にジーナの支配下だ。慣れてるなんてもんじゃない。
黒豹を飼いならすのはどうやったのだろうか?
それ以前に、どこに仕舞っていたのだろうか?
「乗って」
黒豹の上のジーナは自分の後ろをぱんぱんと叩く。ココに乗れというのだろう。
なんとか乗った。
鞍も鐙も無いし、豹の毛は短いのでよじ上るのが大変だった。
この子はどうしてあんなに簡単にのぼれるんだ?
しかも、
「飛ばすから私にしっかり掴まって」
は?
こんな軽そうな子に掴まるなんておかしい。
と、思ったが、女の子は黒豹とがっちりくっついているかのようにびくともしない。
結局、言われた通りにジーナに掴まった。
走る黒豹。
速い!
馬より速い!
しかも、障害物もあっさり飛び越すし、木や急な坂も爪でばんばん登る。
馬では出来ない芸当。
ただ、乗ってる方は恐くてしょうがない!
町を出るなんてあっという間。郊外を行く。
森の木々を抜け、草原になった時、ジーナは言った。
「もっと飛ばすわよ」
言い切った途端に更に加速する黒豹。私が普段乗る馬の3倍以上速い!
恐いったら!
草原を抜け、丘を越えると目下に山に囲まれた湖が。
アララル湖!
きっとそうだ!
黒豹が止まる。
一番高い所で佇む黒豹。
なんて美しい景色。
エメラルドグリーンの湖面を囲む山と丘。
木より草が多い。すこし花も咲いている。
湖のほとりに数件の家。きっとあれが魔王の住む村。
遂に来た。
きっと居る。
イブ様。
こんな寂しい村にいるの?
景色は美しいが寂しそうな村。
人影も見えない。
「イブ様・・・・」
「会って来たら?」
「・・・そうね。会ってくれるかしら?」
「さあ」
ジーナが黒豹の肩をぽんぽんと叩くと、黒豹は地面にしゃがんだ。乗る時もしゃがんでくれればよかったのに。私は地面に降りる。まだ足の感覚がふわふわしている。
「会って来たら?」
「ジーナは一緒に行かないの?」
「私は町に帰るから。用事残ってるし」
「そう、ありがとう。助かったわ」
「じゃ」
女の子と黒豹は湖に下らずに、また来た方向へ帰って行った。それはもう風のように。
私は丘から湖の方に下って行く。
少し歩きにくい。岩と草の合間を行く。
道らしい道はない。
村に着く。
小さい家が5軒しかない。
緊張する。
ジーナはイブ様が今どんななのか言ってくれなかった。
思えばジーナとは会ってから別れるまで1時間程度しか経ってない。
ひょっとしたら、此所に来るまで何十日もかかるかもしれないと思っていたのに。
運命に感謝する。
緊張しながらも最初の家の前に立つ。
ドアを叩く。
返事は無い。
ドアを引くと、開いた。
誰も居ない。そして生活感も無い。
留守ではなく、空家。
2軒目のドアを叩く。
同じく空家。
3軒目。
やはり空家。
4軒目。
空家。
5軒目。
結局誰も居なかった。
しかたないので周囲を歩く。
美しい湖面。
宝石よりも美しい。
暫く歩くと、人が見える。
胸が高鳴る。
魔物ではない。人だ。
湖の畔、壮大な自然に向い、キャンバスに色を置く女性の後ろ姿が見えた。
後ろ姿でも解る。
髪は伸びているけれど、イブ様。
顔は見えないけれど、イブ様だ。
「イブ様」
私は声をかけた。




