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その63 大きいギルド

 ストビアの首都キーロフに着いた。



 出立前の駅員の話では、1日半から2日と説明されたけれど、1日半で到着した。

 とくに途中何も無かったからね。

 途中の駅の宿はガラガラ。

 客は私一人なのに、宿は3人で世話してくれる。経営は大丈夫だろうか?

 2日目は馬車に乗るのは私しか居なかった。お陰で暇過ぎた。

 事件もトラブルも無く、終着駅に着く。

 昨晩の宿は朝食こそ有ったけれど、お昼の弁当サービスは無く、どうしたものかと思っていたら、お昼に辿り着いてしまった。



 立派な町。

 区画整理がしっかりした町並み。

 5階建てくらいの建物が珍しく無い。

 建築技術はジャージャー国とは比較にならない。

 大きい建物ばかりかと思えば、一戸建ても多い。

 どれも美しい建築物で、おとぎ話にでも出てきそうだ。

 それが青空に映える。


 不思議でならない。

 外から見たストビアは、容器のような形をしていた筈だ。

 天も壁が有った筈。

 どうして今、空が見えるの?


 そしてこの広さ。

 ストビアがサリュートより大きかったのは確かだけれど、ジャージャー国よりは小さい。

 それどころか、ストビアの周りを一周するくらい歩きでも1日で出来る。

 決して、馬車で何日もかかる広さじゃない。

 この不自然な事に説明がつかない。


 そしてなにより、大事な事。


 誰もイブ様を知らない。

 情報通なギルド嬢も知らない。

 2軒の宿でも聞いてみたが誰も知らない。

 4年前の戦いのことも知らない。

 イブ様を知っていたのは、あの不思議な力を持つ娘だけだ。そして彼女は自身を『ストビア人じゃない』と言った。


 今日、馬車の上で暇だったのでギルドカードを弄っていたが、いくつかの事が解った。

 この国の国王はイブ様とは書いてない。知らない人だ。

 そして、この国の地図を見たが、とてつもない広さだ。ジャージャー国の10倍は有る。

 どうなってるの?

 地図を表示させ、色々映すが、ジャージャー国もサリュートも出ない。

 今、ストビアの近くに有る筈なのだが。



 私は通りの食堂で少し遅い昼食をとる。

 よく解らないのでお店のお勧めを頼んだら、シチューのようなスープと堅焼きパンが出て来た。

 パンの味はカラカラの実だと思う。

 そしてこの店でイブ様のことを尋ねるがやはり答えは同じ。知らないと。


 先ずはこの辺りのギルドに向かう。

 1人でも大丈夫。地図が見れるから。



 とにかくお金を稼ごう。

 手持ちがさみしい。




 ギルドに入る。

 ここもドアは開け放しだ。

 前回のギルドとは随分違う、大きい。

 建物も大きいし、中の受付のカウンターにギルド嬢が4人も並んでいる。皆美人の部類に入ると思う。

 さすが首都のギルドと言う所だろう。

 なのに、冒険者がひとりも居ない。経営は大丈夫だろうか?


 4人のうちの一番年齢が高そうな女を選び、用件を切り出す。


「イブという女性を知らないか?」



「冒険者でしょうか?」

 昨日と同じだ。

 年長なら知っているかと思ったがだめか。

 そして、食堂や宿の者に聞いた時と同じように知らないのか。

 無力感。


「いや、いい。

 すまなかった。

 それより、今から半日で出来る様な仕事は無いだろうか?」


「半日で出来る仕事は無いです。

 明日からにしてはどうでしょう」


「そうか、仕方ない。

 因に今どんな仕事があるのですか?」


「そうですね。

 この中から選んで下さい」


 そういうと、ギルド嬢は凄い大きいギルドカードみたいな物を渡して来た。

 画面がデカい。

 使い方は私のギルドカードと同じだが、大きくて見易い。

 毎度ながらストビアの技術力は凄い。


 表示される仕事の種類は、

 一般警備、要人護衛、傭兵、魔物退治、食用動物捕獲。

 大体こんな物だ。



 そして、それに目が止まる。



『 魔 王 討 伐 』




 心臓が止まりそうになる。


 イブ様は現在『魔王』だという。


『魔王』

 おとぎ話でしか魔王なんて聞かない。

 どんな存在なんだろう?

 彼女は闇堕ちしてしまったのだろうか?

 彼女の人生は辛すぎる。

 未成年の頃までは普通の娘だった。

『良く出来た娘』ではあるが普通の娘。

 だが勇士に抜擢されてからは良い事なんて何も無い。

 奪われるだけの人生。

 栄光や称号を貰ったけれど、そんなもの彼女の救いにはなっていない。

 自分を見ていない恋人の為に戦う。

 それが生きる糧。

 ストビアに特攻した時もそう。

 恋人の居場所を守る為。

 ただそれだけ。


 ストビアの防衛攻撃を受けながら、破る事が出来るかどうかも解らない外壁に飛び込んだ。

 あの『乗ってる物』がストビアの外壁に当たった時に凄い音と爆発が起きた。

 セルゲイの立てた作戦。

 サリュートの資材でも一度分しか作れなかった乗り物。

 いや、乗り物と言っていいいのだろうか?


『 棺 桶 』


 そう思った。

 殆どの準備はサリュートの人達で行われた。

 私達に出来る事など無かった。

 イブ様とセルゲイ氏を乗せた棺桶はサリュートから()()()()()()()()()()に打ち上げられた。

 2時間後、2人は()()()()()()()()()()


 ジャージャー国の者にとって、人が乗って飛ぶ物が有る事がそもそも驚きなのに、

 西に飛んで行ったのに、東から落ちて来た。

 我々は呆気にとられて見ているしか無かった。

 上に上がる時も物が落ちて来るし、落ちる時も物が落ちて来る。

 外からは何がなんだか解らない。

 ただ、サリュートの技術者は忙しそうに動いていた。

 自分たちは乗っていないのに彼らが忙しくしているのが不思議だった。




 そして、2人は勝った。




 私達は良く理解出来なかったが、サリュートの人達が喜んでいたのを良く覚えている。

 確かに、あのあと攻撃が止まった。


 そして、このストビアの人達は戦争を知らないと言う。

 イブ様のことも知らないと言う。



 だが『魔王』は討伐以来が出ている。

 魔王とはイブ様の事だろうか?

 実はこの国を掌握していないのだろうか?

 反撃されているのだろうか?

 それとも心の闇に囚われてしまったのだろうか。




 依頼を読む。





 確かに『 魔 王 イ ブ 』と書かれている。




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