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その62 アノ人登場

 目の前をくるくると光る球が回っている。

 なんなんだろう、これは?




 ー ー ー ー ー ー 



 馬車の荷台から眺める景色は味気ない。

 見た事が無い外国の風景なのに不思議と感動しない、何故だろう。


 駅で馬車を選ぶ時に屋根無しの物を選んだ。

 天気が良かったのと、値段が屋根付きの半額だったのと、風景を見たかった。

 だが、景色がつまらないのだ。

 何故だろう?

 見た事無い物ばかりの筈なのに。


 屋根無しの馬車は乗り心地が悪い。

 車体が貨物用で客が座るのには適していない。

 座ってると腰やら尻やら痛くなるので、たまに立っている。

 貨車の外枠を手すりにしてると座るより楽だ。


 御者は無愛想で喋らない。

 こんな婆さんでは相手はしたく無いのだろう。

 こんな痴女の様な格好をしているのに、御者が興味を示さないというのは,私はその程度なんだとがっかりする。チラ見すらされない。


 二つ目の町の駅でようやく私以外の客が乗った。

 この馬車に乗るんだから貧乏人だろうか。

 結構若いみたい。

 ウチの娘より若い娘だ。



 暫くして昼になったので馬車は止まる。

 馬に休憩を与えるためだろう。

 御者は一度馬を車から外し、川に連れて行く。

 水だな。

 あとはきっとその辺の草を食わせるのだろう。



 残された私とその娘は街道脇の倒木に座る。

 ここなら上に木の枝も有り涼しい。


 さてと、昼食を食べたい所だが、近くに居る娘が何も食べる気配がない。

 私には宿の長女が別れ際に渡してくれた弁当が有る。

 あの宿はサービスがいい。

 良い宿に出会えたと思う。

 それはそれとして、目の前の人がで何も食べないとこちらも食べにくい。

 腹が減っていない筈はないだろう。

 若い人程腹が減るし。


 私は声をかけてみた。


「もし宜しければ一緒に食べませんか?」


 娘がこちらを向く。

 何か考えているのかな。


「折角一緒に居るんですから、一緒に食べませんか?

 割と沢山有るので2人でも大丈夫ですよ」


 あの宿はサービスがいい。

 お陰で2人でも大丈夫そうな量だ。私は歳なのでそれ程必要でないし、今日は座ってるだけだし。


「そんな、それは貴方の物。頂く訳には参りません」

 彼女は多分貧乏だ。


「いいえ、お礼なんていいんですよ。私もひとりで食べるとつまらないですし。

 誰かと食べた方が食事はおいしいじゃない」


 娘は少し私の顔を見た後、

「じゃあ、すこしだけ」

 と言って、私の側に来た。


 弁当を広げると、なにかの穀物の固めたもの。四角い。何だろう?

 それと、何かの肉を焼いたもの。


「なんだろう、これ? まあ食べましょう」

 自分でも判らない物を人に勧める私。


「これはね、コモっていう実を四角く固めて蒸かしたもの。

 それから、これはカラカラという穴鳥の肉ね」

 聞いた事も無い物ばかりだ。

 アイキャットでなくて良かった。

 それを分け合って2人で食べた。

 コモはあんまり味がない。

 穀物みたいだから主食にする物の様だ。

 カラカラという鳥の肉は脂身が少なく硬い。

 だがこれは美味い!



「ありがとう。

 本当は今日食べる物が無かったんだ。乗車賃でお金を使いきってしまって」


 若い娘の筈なのに、喋りがおっさんくさい。

 声はハスキー。


「いいのよ。ちょっと楽しかったわ。美味しかったし」


「そうそう、大切なものを分けてもらったのだし、お礼をしなければ」



 あれ?

 お金がないんじゃなかったっけ?


「ああ、お金はない。代わりの物を」



 え?


 今の言葉は私に?

 今、私は喋らなかったけど!

 このひと、心が読めるの?読まれた?


「ああ」



『ああ』って、読んだって事?



「読んだよ」


 今『読んだ』って。

 どういうこと?

 この人は何者?


 神? 悪魔? 勇者? 魔王?

 あの人も読むけれど、あの人じゃない!



「あはは。私はあの人じゃない。初対面だよ。

 それに、神でも悪魔でも勇者でも魔王でもない。力はそのくらいは有るがね。

 さてと、昼食のお礼をしなければね」


 完全に読まれている!

 それもほぼ全部読まれている!

 イブ様も心を読んだが、これはレベルが違い過ぎる。


「さてと、ギルドカードを出してごらん」


 呆気にとられたまま、言われるがままにギルドカードを差し出す。

 何をするんだろう?

 ただ、この人は悪意を持っていないように思えた。

 この人が私に敵対してるなら、私なんてどうにでも出来る気がする。


「心配しないで。お礼なんだから」


 娘はギルドカードを左手で持つと、しばらく見てから指を鳴らした。


 すると、顔の高さあたりに光の球が浮かび上がり、くるくると回り始めた。

 暫くすると、光の球は消え、別の光の球が浮かび回り始める。


 なにこれ?



「今まで不便だっただろう、ストビア語が読めなくて。今、ジャージャー語をインストールしてるからね」



「いんすとーる?」

 やっと声になった。


「このギルドカードは君には読めなかったから使い物にならなかっただろう。ジャージャー語は対象外だったから。

 これで役に立つ筈だ。

 使いこなせば、地図に辞書に辞典に暇つぶしにとか色々に立つ」


「そんな事が!」


「ああ。君の国とは随分違うからね。更にサリュートよりも技術は上だしな」


 そして、光る球は消え、ギルドカードには読める文字が映っていた。

 娘は私にカードを渡す。

 裏面のボタンを押してみる。

 読める!

 今まで何がなんだか判らなかったが、全て読める!

 操作手順まで表示されてる。

 色々押しまくる。


 使えるんだ!

 嬉しい!

 とっても嬉しい!

 ギルド嬢が使っていたのを見ているしか無かった私が使えるようになった!



「それから、地図を出して。

 それ、そう。

 拡大して、そう。

 そのままにしてて。ちょっと介入するから」


 彼女がそういうと、地図に白いマークがいくつもいくつも現れた。彼女は触っていないのに。

 地図は首都のキーロフを中心にしたエリア。

 この白いマークは?


「それは君の尋ね人の出没した地点」


「!」


 地図上に現れた白い点は100を超える筈。

 これがイブ様が行った場所か!


「そう、その人の痕跡。

 本来なら、これは他人が見れない情報だけど、ズルして見えるようにした。

 そして、これがここ一ヶ月に行ったところ」


 彼女がそういうと、いくつかの白い点が赤い点に変わる。

 範囲が狭まった。

 でも、『だいたい』だ。

 いや、今はそれでも嬉しい!



「その娘はそこでカードを使った痕跡が有る。

 地図を見たのか、買い物をしたのかは判らない。手がかりにはなるだろう」


「ありがとう!」


 でも、これ消したらどうしよう?


「あ、保存して。

 上、そう。それ、そう。そこで『はい』を。

 もう、大丈夫」


 一度消してからもう一度出してみる。

 大丈夫だ!

 って、いうか、心読まれまくりだよね。


「ああ、そういう体質なんだ。私に隠し事は通用しない」


「貴方も『勇士』なの?」


「はは。あなた方が『勇士』と呼んでいる者とは違う。全く別の者だ。それにストビア人でもない」


「貴方すごいわ!

 でもなんで貴方みたいに凄い人がお金がないの?」






「働くのが嫌で・・・・・」


 彼女はぼそりと言った。





 ー ー ー ー ー ー ー




 次の駅で彼女は降りて行った。

 私は何度も何度もお礼を言った。

 彼女は一体何者だったのだろう?

 でもきっと、私には理解出来ない存在なんだろう。

 お昼を勧めて良かった。

 いいことはするものだ!

もともとはこの人の話のスピンオフで始めたんでしたよね。

ミッドナイト【行き倒れ魔法使い】のあの人です。

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