その61 猫好きに聞いてみた
旅立ちの朝。
宿に旅立ちの挨拶をしたが、3姉妹の言葉は笑顔なのにあっさりした物だった。
そういうものかもしれない。宿の人が泊まり客を見送るのは日常だし。
私としては短い期間だが、この国に来て初めての宿で感慨深いのだけれども向こうはそうではない。
まあ、涙の別れの必要がないのは理解してるが。
私は宿を後にして駅に行く前に、ギルドに来ていた。
別に別れを言いに来た訳じゃない。
二つの目的が有ったから。
受付でギルド嬢に尋ねる。
「これと同じ物がほしいのだが」
私はカウンターにポーションの空瓶を置く。
今日も胸元が緩いギルド嬢。
彼女にはこれがなんだか直ぐ判った様だ。そして私の言いたいことも分かったようだ。
昨日、マリーアイキャットを捕まえる時に、体中が傷だらけになって大変だったのだけれど、宿屋の長女のミシェルさんは、
「ポーション、まだある?」
と、私に渡したポーションという薬を出させた。
どうしたらいいか解ってない私に、そのポーションを使ってみせた。
使い方は、はっきり言って雑。
傷にかけただけ。
だが、効果は驚きのもので、生傷が全て消えてなくなったのだ!痛みも無くなった。
驚きすぎて呆けている私とは裏腹に、ミシェルさんはそそくさと夕飯の支度に戻ってしまった。
凄い現象なのに全くなんとも思っていないのに驚いた。
目の前で起こった超常現象が理解出来なくて、通りすがりの次女を呼び止め,ポーションの事を聞いた。
ポーションは脅威の薬だった。
傷を治し、病気を直し、塗っても飲んでも良し。
しかも簡単に手に入ると。
なんというストビアの医学!
とてつもない技術の一端をみた。
こんな国に敵う筈が無い!
医学ですらこれなら、他の技術も桁外れだろう。サリュートの比ではない。
どうやってイブ様とセルゲイ氏はストビアに勝ったのか。
いや、解ったところで私には出来ないだろう。
勇者はやはり普通の人と違うのだ。
そして、
「ポーションね。いくついるの?」
「10本!」
「代金は10000Hね。多すぎない?かさばるわよ」
かさばったって構う物か。
これが有れば国に帰ってから、子供や孫が怪我や病気をした時に助けてやれる。
ジャージャー国ではたいした薬は無い。
病気や怪我で死ぬ人がどんなに多い事か。
この薬の存在を知らしめたい所だが、それをしても騒動になって悪い事が起こるかもしれない。
いっそ、隠し持っていて、自分の孫の危機に使いたい。
他の人に妬まれるようになろうが、孫第一だ!
私の中での優先順位は( 孫 >>>>> 娘 > その他 )だ。
今の所持金の余分を全て使う訳にはいかないが、なるべく多く欲しい。
「こんなにいらないんじゃない?
10本は多いわよ。どうせどこでも手に入るし」
どこでも手にはいる?
「回復魔法の方が安い事有るし」
は?
魔法?
どうなってるんだ、ストビアの医学は・・・・
結局、ポーションは5本に減らした。
ギルド城の言う通り確かに重かったし。
瓶1本の時は何ともなかったが、数本になると瓶同士が当たる。
しかも、馬車上でも売ってるとは。
でも、買わずにはいられなかったので5本買った。
そしてもうひとつの目的。
「イブという女性を知らないだろうか?」
イブ様は私と同じ外国人。
この国に来たならば、同じようにギルドに足を運んだ可能性が有る。
私と同じようにあの部屋から出たとしたら、同じ様な事をしていたかもしれない。
「冒険者かしら?」
「いや、判らないけれど来てないだろうか?」
「ギルドの登録者を調べるわ」
「頼む」
ギルド嬢は自分用のカードを操作して探し始めたようだ。
盤面を色々文字が流れるが、私は読めない。
彼女が頼り。
「『イブ』というキーワードを含む登録者は471人居るわ」
そんなに!
「絞り込むのに他の単語とかないかしら?職業は?」
「職業?無職だと思うんだが」
「いえ、職業と言うのは働き先の事ではなくて、職種とか属性や身分のことよ」
身分というなら、
「国王だと思う」
「『国王』『イブ』で検索では0人よ」
あれ?どういうこと?
どうしよう・・・
「名前を『イブ・720』にして探してくれないか」
「0人です」
本名じゃないのかな?
「『勇者』『イブ』ならどう?」
もうなんでもかけてみよう。
「0人です」
来てないのだろうか?
そもそもイブ様は居ないのだろうか?
セルゲイの話なら『王』の筈だけれど、王は登録してないとか?
王なら働かないから・・・か?
はっ!
「『イブ・640』ならどう?」
「1人居ます」
やった!
間違いない!
「教えて、全部教えて!」
もう必死だ。
「3年前に登録しているわ。
職業は『魔法使い』ね」
魔法使い?
魔法が使えるの?あの方は!
そもそも魔法が有るの?
いやさっき。ギルド嬢も『回復魔法』なんて言っていたし。
それよりなにより、遂に来た!
イブ様の情報だ!
来ていたのだ!イブ様の王国に!
会える!
絶対会える!
いや、絶対会う!
「何所に居るの?」
知りたいのはこれだ!
「この町には居ないわ」
「王都なの?」
「そうかもしれないわ。成績が上がった人はだいたい首都に行くし。
ただ、今は居所が判らないわ」
「死んではいないわよね?」
生きてるって言って!
「そうみたい。ギルドカードがまだ有効だもの」
「他にはなにか解らない?」
なんでもいいから手がかりが欲しい。
「戦歴いいわね。最強かも。最新情報ではトップの成績ね」
当然だ、あの方は強い!
自分の事でもないのに鼻が高い!
当然だ、国を制圧したんだぞ!
勇者なんだぞ!
「それから、1年前にジョブチェンジしてるわ」
は?
「現在は『 魔 王 』になっているわ」
は?
はあっ?




