その59 ギルドに来た
ギルドに来た。
道が解らないし、この国の字が読めないので宿の次女に案内してもらった。
普通に話せるのに、文字がまるで読めない。不便すぎる。
近かった。宿から歩いてたったの2分の位置とは。
茶色いとんがり屋根が三つ繋がったようなギルド。
2階建てに屋根裏部屋が付くと言った感じで、木造とレンガの半々だ。
真正面真ん中から入れる様だ、ドアが開け放たれている。
往来から中が見えると言うのは安心だ。
さあ、入ろう!
と、入り口に行くと、
「頑張ってなね」
と、あっさり帰る次女。
そんな!もう少し居て欲しかった。
治安はいいんでしょ?
心細かったのに。
諦めてひとりでギルドの建物に入る。
そこは広間だった。
手続き用のカウンターとテーブルや椅子。
奥の椅子でおじいさんらしき人が昼寝をしている。確かに治安はいいらしい。
先ずはギルド員に会わないと。
カウンターに向かう。
無人だったけれど、私がカウンターに辿り着くとほぼ同時に後ろの部屋から女性が出て来る。
ドンピシャなタイミング。
「どんな御用かしら?」
そう言う女性はギルドの受付だろう。
宿のミシェルさんと同じくらいの歳に見える。
金髪美人でグラマーだ、服の上からでも判る。
きちんとした衣装だが、胸元がユルイ。屈んだら谷間が見えるだろう。
「仕事が欲しいのだが、ここに来れば仕事が貰えると教えられて来た」
「そうですか。ギルドには登録した事有る?」
「いや、初めて来た。どうしたら良いのだ?」
「新規ね。お名前は?」
「ユリだ」
「IDは?」
「アイディー? 何の事?この国に来たばかりで何も無いんだ。それが無いと駄目なんだろうか?」
「IDがないと登録は出来ないわ」
「なんとか方法はないかな」
「それじゃ、『お試し30日期間』を使いましょう。IDはゲスト00217687になります。お試しだから30日終わったら本登録してね。それと本登録してないから、アイテムの上限があるから早く本登録したほうが良いわ」
「それでいい。30日もあれば充分だと思う」
30日もこの国に居たく無い。
早くイブ様に会って帰りたい。
でも心配だ。
そもそもお試しって、どういう扱いなんだろう。
「それから、これがギルドカードになります」
ギルド嬢は艶の有る硬そうなカードを差し出した。
見た事無い物だ。
受け取る。少し重い。
「これは?」
「ギルドカードよ。
30日間有効よ。
仕事を受ける時と終わった時はこれをここで出して下さい。
貴方の成績と所持金の記録をするわ。
ギルド預金の残高が有れば、お店でもこれを出せば支払いが出来ます。
それと、ココを押すと貴方の現在のステータスが映せるわ」
ギルド嬢はカードの裏側に付いているいくつかのボタンを操作して、色んな情報を映してくれる。
恐らくは主ボタンと副ボタンを使い分けるのだ。
サリュートでセルゲイが見せてくれた不思議な装置に似ているが、遥かに高性能そうに見える。
映る文字が色鮮やかできめ細かく、情報量も凄そうだ。
だけど、
読めないんだよ・・・
「それで、仕事はないだろうか?」
「そうね。貴方は剣士で・・・・」
剣士だったのか、私は。
「普通の剣と普通の鎧だから・・・」
普通の鎧?
「低級魔物退治かしら」
魔物?
聞き間違いだろうか?
ーーーーーーーーーー
今私は森に居る。
教えられた仕事は低級の魔物『アイキャット』の退治だ。
この地域にアイキャットが出て人間の害になっているという。
ギルド嬢は私のギルドカードを操作して『アイキャット』の顔を表示してくれた。
猫は嫌いじゃない。
大人しい奴なら抱いていたい位だ。
だが、このアイキャットは腹が減ると人間すら食べてしまうのだそうで、害獣らしい。
写真は愛らしくも見える。額がハートの模様だし。
内心、早く見たいと思った。
指定の場所に行くとあっさり見つかった。
それも4匹も居る。
家族だろうか?
大きさは普通の猫より大きく、犬くらい。
グレーの体毛だが、額だけ白くハート模様。
それでも可愛いじゃないか。
手懐けて連れて歩いたら、格好よさそうだ。
向こうも私を見つけ警戒している。
いや、私を餌だと思っただろうか。
魔物とは言え、可愛い。
猫好きにとっては怒り顔ですら可愛い!
飼えないだろうか?
アイキャットは一定の間合いで4匹で私の周りを囲みながら回る。
私は餌認定されたらしい。
これは残念だが戦うしかないな。撫でてみたかった。
可愛いと思ったのもつかの間、1匹が飛びかかって来る!
剣で払おうとするも躱される、早い!
もう一匹来る!
また当たらない!
だが、宙を跳掛ってくるなら慣れれば斬り易いかも。
あ!
消えた?
何処だ!
ガサガサと揺れる草。
揺れはこっちに来る。
気がついた時にはアイキャットはすぐ近く!
「うああああああ!」
あまりのキモさに悲鳴を上げた!
奴はびよ〜んと、胴が伸びて手足を使わずうねりながら草の間を這って来たのだから。
しかも、舌が細く長く先が二つに割れてて、背中にはビッシリと目玉が付いている!
キモい!
キモい!
キモい!
下から飛び出して来るアイキャット!
慌てて避けるも、一瞬手がアイキャットの毛に当たる。
ねちょん!
なんだこのキモい感触!
見た目とぜんぜん違うじゃないの!
どうして背中に目が有るのさ!
どうして細長いの!
ふわふわの毛はどこ!
そして私は半泣きで4匹と戦った・・・・
仕留めたさ。
剣士だもの。
剣士と言われたんだもの。
ギルド嬢さん、心臓の代わりに赤いコアが有るからソレ取って持ってくれば、換金してくれると言ったよね。
でも、このアイキャットの毛がキモくて触りたくありません!
見た目と違って、感触がその・・・・
ミミズ
どうやったらミミズの体毛で地面を滑れるの?
わからないよ。
しかも、死んでいる筈なのに、背中の目がこっち見てるよ。
しかも瞬きもしてる・・・
顔の目は確かに死んでいる。
でも、背中の目は私を見てるよ・・・
キモいのを我慢して、木の葉っぱとか一杯胴体に被せて掴み、心臓の当たりに剣を刺す。
開くと赤い球が見える。
これか。
剣の先で球を取り出そうとするけど、なかなか取れない。
繋がっているのを切ろうとしても、むにゅむにゅして切れない。
きりがない。
仕方なく、いやいや素手で赤い球を掴み、無理矢理引きちぎる。
ぶちぶちと嫌な感触があ!
球を引きはがすと、背中の目も死んだ。
はあ。
なんでこんな仕事を受けてしまったんだろう。
キモくてしょうがない。
こんな時に限って、川も泉も無い。
手と剣を洗いたいのに!
砂すら無い。
しかも、袋が無い・・・
仕方ない、お金の為だ。
キモい球を持って歩くしか無かった。
お弁当の包み布はあったが、申し訳なくて使えない。
4個はちょっと多い。
ーーーーーーーーーーー
ギルドに帰って来た。
カウンターに赤いコアを4つ置く。
まだキモい肉片が残ってる。
ギルド嬢はカウンターの下からナイフを取り出した。
そしてそのナイフで球に触れると、肉片が砂になって落ちた。
残るはつるつるになった赤い球。
「高い剣はこういう事ができるのよ」
理不尽だ・・・
そして、報酬を使ってギルド嬢のすすめるがままの剣を買ったら、宿代しか残らなかった。
・・・明日も働こう。




