表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/78

その52 運だけじゃない、努力だよ

 私は『ユキオ・9』




 運が良かったのだ。


 もともと天涯孤独だった私が財閥の養子になれたなんて。

 血縁でもなく、才があった訳でもなく、知り合いだった訳でもない。身寄も家も無く、腹を空かせて町を彷徨って居た私。


 『9の死んだ子』に似ていた。

 拾われた理由はそれだけだ。


 養子になったのは7歳くらいだと思う。

 親は母親が居たが、養子になる少し前に死んだ。

 当時は何故死んだか理解出来なかったが、今思えば金を奪われ強姦されて死んだと推測できる。

 母の最期の姿を数年後に思い出して推理してそう思った。

 20代前半だった母は襲われるには充分美人だったんだろうか?私も『顔が良い』のでそうだったのかもしれない。


 1人ぼっちになって死ぬ寸前まで痩せていた所を『9』に拾われた。

 腹が減っても、かっぱらいはしなかった。手癖の悪い子だったら、拾われなかったかもしれない。

 かっぱらいをしなかったのは何故だかは解らない。母がしなかったから自分もしなかった。そんなとこだろう。だからあのまま冬になっていたら死んでいただろう。


 私を拾った人は力が有った。

 危険そうな人を寄せ付けず、家来を命令して使い、生きる為に必要な物を簡単に用意してくれた。


 力、財力、権力。

 これが有るだけで生き易い。


 母には何も無かった。

 健康だった筈だが、安全に生きる基盤も、力も、権力もなかった。

 その子供だった私も持っている訳なかった。

 もう、顔を忘れてしまったが、私は母を好きだったと思う。母も私を愛してたと思う。

 だが、力が無ければお互い守る事は出来ない。



 拾われた私は『9』に従った。

 生き延びる事を選んだ。

『9』なら生きて行ける。母もそれを望んでるように思った。

 昔の名前も捨てた。

『ユキオ』というのは死んだ子の名前。

 私は養子だが、実質替え玉だった。

 ユキオの持っていた物をそっくり私が継いだ。

『9』の者としての生き方を教えられた。

 作法から家訓に家業。


 12歳あたりから色んな所に顔を出すようになった。

『9』に来てから心の拠り所だった『9の力』は世間ではそれ程強く無いという事実を知った。

 今の所、餓死する心配は無いが、家としては不安だらけだ。

 この世界はこの世界で、食うか食われるか。

『9』は食われる側だ。


 生みの母を愛していた。

『9』も愛している。

 すこし感覚が違うが、愛している。

 もっと力をつけなければ。

 食われるのはご免だ。

 母は守れなかったが『9』は守る。


 知恵を学んだ。

 社会を学んだ。

 武術を学んだ。

 商売を学んだ。

 歴史を学んだ。



 ユキオとして学園にも通い、18歳で公務にも入った。

 私は次期当主なので公務に行かず家業をするという選択肢も有ったが、あえて飛び込んだ。色んな人に会い、私の中の世界を広げる為だ。


 私は学業も仕事もずば抜けていた。

 当然だ、そうなるように努力したのだから。

 出来る男は実際の容姿よりも魅力的に見える。

 そして私は()()()()()()()事を覚えた。


 学園時代から女を絶やした事は無かった。

 だが、学園時代は肉欲には溺れず、冷静に後腐れ無い者ばかり選んだ。

 争い事に飲まれず、トラブルになってはいけないように泳いだ。


 行動に移したのは公務時代から。

 大きい家の令嬢ばかり選んで手懐けた。成人してからの令嬢は割と権力を持っている。だが、全て隠れた愛とした。隠れた愛人は金を隠して送ってくれる。援助は金にとどまらず、協力関係や裏工作にも。

 この方が都合がいい。


 私は誰とも結婚しなかった。

 誰か1人を選ぶと他の関係が皆切れてしまう。悪い切れ方もあり得る。女達が結婚するのも止めなかった。だが関係は切らない。



 令嬢が家を追われ、不遇な結婚を強いられたなら私の方から援助した。その頃には、もうそのくらいの力は有った。彼女らが息を吹き返せばまた協力者になってくれる。婦人の力で家が困窮を脱すれば婦人の方が当主の力を手に入れる。


 当然、自分自身の努力も惜しまない。

 人を利用しているだけでは嫉妬と軽蔑を受ける。先ずは自分自身が先頭を行かなければ。




 そして,遂に私はこの国で有数の権力者になった。

 その象徴として親衛隊長の座を手に入れた。軍の中でも私は出世頭、成功者の象徴。

 没落寸前の『9』の人間としては上出来だ。


 父上も家の皆も私を褒めて認めて信頼してくれた。

 父上には感謝している。

 父上も私に感謝していると言ってくれた時は救われた気がした。


 一時期父上は、家を捨て社員と使用人と別れ『9』を終わらせる事も考えてたそうだ。



 だが、私の欲はおさまってない。更に上に行きたい。


 この想いを父上に告げた時、こう言われた。


「もう、充分だろう。

 だがやりたい事が有るなら止めはしない。お前が当主だ。今の『9』はお前が作った。失敗して終わったとしても責めはしない」


 拾われたとき大木のように見えた父上は歳を取り、随分背が縮んで声も小さくなっていた。

 私もあの時の父上の歳を超えていた。




 そんな時だった。



 ジャージャー国の東に魔国が現れたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ