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その50 やる価値がないな

 セルゲイの部屋に招かれたイブ。


 いつもの健康診断に秘密の話。



「残念ですが、上手くいきませんでした」


「そう」


 魔国の医療技術を駆使して私とジンの子供を作るという試みは失敗になったという。

 当然、ジャージャー国にも魔国にも内緒だ。


 学者でない私には理解できないが、解らない事を突き止めたい、未知の物を作りたいという欲求がセルゲイにあるようだ。


『遺伝子』『人工授精』という言葉とそれに関する説明を聞いたが全く解らない。

 セルゲイの人間と勇士の間の子供を作るという試みは失敗に終わった。


 私にも理解出来るように説明をしてくれたが、私の子種は人間の子種とは合わさらないらしい。

 多少形が違う犬同士でも子供は出来るが、犬と猫では子供が出来ない様なもの。

 と、理解した。


「それでもーーーー」


 子種自体は出来たのだそうだ。

 ただ、私とジンの子種を合わせても、私の物だけが残り、ジンの物は死滅するのだそうだ。出来上がるのは私の複製らしい。



 ジンの子種を私の子種が殺す。




 何処迄行っても私はジンの疫病神。

 そして何処迄行ってもジンと一緒になれないらしい。



 セルゲイの実験でひょっとしたら未来、ジンの子供を宿せるかも知れないという可能性を見てみたかった。

 戦う心配が無い世界になったならば、ジンの子供が欲しいと思っていたが希望は消えた。

 私の未来はどこまでも乾いている。




 もっとも、今の私とジンは恋人じゃない。


 ジンが優しく愛を囁くのはココだ。

『イブ』と呼んではいるが愛情を捧げられてるのはココだ。

 ココがジンを愛しているかは知らないが、ココはジンの子を産める。





 私はなに?



 本物のイブ。


 だけど本物って何?

 もう身体は人間じゃない。

 本物なのは記憶だけ。



「これをどうしましょう? 貴方の子宮に入れれば育つかもしれませんが」


 セルゲイが持つ箱、それは恐らくは私の子種。


「私が私を産むの?滑稽だわ。私を増やせばアーサーが喜ぶかもね」


「どうでしょう。これを生かしたとして、育つのに20年も掛かってしまいます。それなら新たに勇士手術のドナーを捜した方が1年で済みます」


「そもそも私は妊娠を禁止されてるしね。ジンの子なら行方をくらましてでも産むかもしれないけど」


 でも、今の私はジンに愛されてない。

 まるで泥棒猫だ。

 不毛だ。



「焼いてしまおう」


 私は自分の子種が入った箱を両手で挿み、加熱のポーズを取った。




「それはもう生きていますよ」



 セルゲイの言葉に手が止まる。

 胎児と同じということか?


「身体は貴方の複製ですが、別の1人です。双子が居たとして、それぞれは別の人物として生きるのと同じです。それは貴方じゃない」


 どうしよう。

 もう生きている。今する事は殺すという事。

 さんざん殺しをしてきた私のくせに殺しを躊躇してる。

 でも、考えようによってはこんな身体はなるもんじゃない、生きてて不幸しか無い。

 今のうちに楽にしてやりたくもある。地獄を知る前に天国に送ってやるのも・・・


「宜しければ、私が預かっても?」


 どうなるというの?


「誰かに植えるの?」


「いえ、人間の腹では出産まで保たないでしょう。腹を蹴破られる心配もあります。出産で産道も破壊されるでしょう。暫く方法を探してみます」



「もし産まれたら会わせて」


「それはもう」



 わたしは箱をセルゲイに返した。



「エルザの身体も作れたのかしら?」


「間に合いませんでしたし、誰が産むのです。貴方が?」


 そうだった。

 禁止されている。

 それに、エルザの複製であってエルザじゃない。

 でも、もしかして・・・・



 考えるのはやめにしよう。






 もうひとつの疑問を投げてみた。


「もし・・・・もし、許可がおりたとして、ジンを勇士にしたら私との子供は出来るの?」




「やめたほうがいいでしょう。麻薬中毒の人に力は与えられません。禁断症状を抜く薬は我々も持ってはいません。それに身体が変化する途中で内蔵が保たないかもしれません。ただ、勇士同士では子供は出来ると思われます。試しますか?」


 アーサーか。



「いや、しない。生涯ジンだけの為に生きると決めたんだ」


「エルザ様にも同じ様な事を聞かれました。最も、エルザ様は勇士でない普通の子供が望みだったのではないでしょうか」




「エルザ、その気持ちは解る」


 居ないエルザに相槌をうった。




「そろそろ終わりにしましょう」


 セルゲイが切り出す。

 長居してしまったようだ。





「そうそう、その髪型も似合いますよ」





 男のように短くした私の髪を見てセルゲイはお世辞を言った。


セルゲイはエルザの遺伝子に興味はありませんでした。


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