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その49 勇者伝説

 隣国アクシオムの昔話。



 遥か昔。



 平和に過ごしていたアクシオムの空に突然恐怖の魔王が現れた。


 魔王は手下の魔物を率いて次々と人々を殺し、豊かな大地は次々と魔物に奪われ、アクシオムを恐怖と絶望の淵に追いつめた。

 国王は軍隊で戦いを挑んだが、魔王討伐に行った者はひとりとして帰って来なかった。


 だが、神は見捨ててはいなかった。


 神は異世界から正義の使者を遣わせてくだされた。



『勇者』



 魔王と同じように怪力と強大な魔法を使う異能者。

 あり得ないパワーと防御力と治癒。

 炎、氷、雷、念力。

 信じられない様な攻撃の数々。

 更には勇者に仕える二人の聖騎士。



 悪の魔王。

 善の勇者。


 魔王軍と勇者達の戦いは山を焼き、大地を裂く程の熾烈さで10日間も休み無く続いた。

 11日目の朝に人々が見たのは、


 力尽き煙のように消え去る魔王と、


 光る聖剣を天に掲げる勇者の姿だった。


 大空から神が人々に勇者の勝利を宣言し、勇者は光になって空に消えた。



 その後、アクシオムに平和が戻り、最期に勇者が立っていた土地は今でも聖地として信仰の対象になっている。






 また別の隣国の桜花にも昔話がある。




 ある男に突然悪魔の力が宿り、力に溺れた男はまさしく悪魔になった。

 人々を恐怖で支配し、宝石も女も権力も欲しいがままにした。


 ある若者が居た。

 若者は幼馴染の恋人を恐怖の悪魔に奪われ、無謀と判っていながら悪魔に立ち向かって呆気なく殺されてしまう。

 だが、女神が死んだ若者の側に降り立ち、若者を甦らせ女神の力の一部を与えた。

 若者は再び悪魔に立ち向かい、悪魔を倒し人々に平和を取り戻した。人々は若者を『勇者』と呼んだ。

 だが、若者の恋人は己の純潔を守れなかった後悔から既に命を絶っていた。

 恋人の亡骸を抱きしめ泣き叫ぶ若者。あと少し早ければ生きていたかもしれない。

 若者は恋人の為に戦ったのに。


 再び現れた女神に若者は、恋人を自分にしたように生き返らせてくれと懇願した。

 だが女神は『自らの意思で命を絶った者は復活出来ない』と若者に告げた。

『ならば わたしも!』と、

 若者は自らの心臓を剣で刺し、命を絶った。


 若者を憐れに思った女神は二人の身体をひとつに合わせて一本の桜の木にした。


 桜花の桜の名所に伝わる昔話。





世界にはこのような『勇者伝説』がいくつかあった。

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