その4 みんなで麦収穫
ざくざくざく
麦を刈る。
1年の軍役のあと、俺は西の農村に配属になった。
ざくざくざく
麦を刈る。
ここへ来て2年目。あと1年ちょい勤めれば公務期間も終わりだ。
ざくざくざく
麦を刈る。
農業は仕事に波がある。季節業だし、季節の中でも特定の日はとてつもなく忙しい。
そんな時は国から公務期間中の若者が助っ人として派遣される。俺もそう。
ざくざくざく
麦を刈る。
もう2年もイブと会えないでいる。
面会も断られたし、あらゆるコネも使ったが駄目だった。
それどころか、俺は西の外れに飛ばされた。
イブはどうしてるだろう。
助ける事が出来なくて申し訳ない。
ざくざくざく
麦を刈る。
午後からは刈り取ったものを積み込みだ。
時期が遅いので丁寧に扱わないと、地面に穂がおちる。
ざくざくざく
麦を刈る。
せめてイブに手紙をと兵に渡したが、その場で棄てられた。
悔しい。
イブも同じ事をされてるだろうか。
ざくざくざく
麦を刈る。
あの時は『対魔人部隊』といっていたが今は『三勇士隊』というのだそうだ。
3人の強い奴とその部下。イブもいるはずだ。
この人達は人前に出ないのだそうだ。式典には隊長のみ出席する。
ざくざくざく
麦を刈る。
「休 憩ーーー!」
午前作業の休憩時間。
立木からロープを張って布で作った日陰に、作業員が集まり水や漬け物を貰う。
賄いをしてくれるのは俺たちと同じように派遣された公務の女子たち。
農園主の話では、去年と今年は可愛い子揃いだという。
この娘達とも結構仲良くなった。
よく話しかけられるから。
俺と恋人になったらボーナスでも出るんだろうか。
学園の頃だって、イブ以外にもてた事なんて無い。
ここではモテ過ぎる。不自然だよ。
俺だって馬鹿じゃない。
きっとこの娘達は俺にあてがわれたんだ。それくらい解る。
それが善意なのか悪意なのかは解らないけど。
表面上でもこの娘たちとイイ仲になろうかとも思ったが止めた。
やはりイブ以外とそんな気になれないし、この娘達も本当は好きな相手が居るのに、俺の側に配属されたのかもしれない。そうだったらむごい。
そして俺の監視もあるんだろうな。
魔国は東。
イブもそっち側にいるだろう。
俺は西の外れ。
ここまで露骨にされれば判るさ。
一日の作業が終われば、夕食。たまに水浴び。
後は寝るだけだ。
じっとしていると、イブの事ばかり考えてしまうので夜の散歩をした事もあった。
歩いていると、後ろから2人くらい後をつけてくる。同じ派遣仲間の顔だ。何も無い見渡しのいい田園だ、簡単に判った。彼らも仕事か。昼の仕事で疲れてるだろうに尾行とは大変だ。
その日を境に散歩はやめた。彼等が可愛そうだ。
村の祭りになれば、祭りに行った。
行った所で、祭りの賑やかな場所で適当な石を見つけて座ってるだけだ。何もしない。せいぜい、農園主のばあさんの話し相手をしてるくらいだ。
俺が行かないと、監視の彼らも祭りに行けないからな。
監視役の1人も最近彼女が出来たらしい。祭りぐらい彼女と行かせないと。その為に昼間から『祭り見に行く』と教えてやったんだからな、充分予定は組めただろう。
彼女が俺の為に宛てがわれた娘の1人と言うのは笑える。
俺はその娘を取るなんてしない。
人の恋路を邪魔するなんてしない。
あいつらとは違う。
俺にはイブしかいない。
愛するイブに会いたい。