その48 何度でも朝は来る
私は久しぶりにジンに会う決心をした。
葬儀も終わり、エルザの埋葬も終わった。
隊の他の殉職者の埋葬も終わったそうだ。
今後の事はまだ何も決まっていない。
ジンに会う時間は今なら取れる。
いや、忙しいのをいいことに逃げていたのかも知れない。
ラビィが言うには、今王都の病院にいるジンは、まだ歩けないものの怪我の痛みは落ち着いてきているとのこと。
最近は起きている時間も長くなり、麻薬抜きは終わったが、禁断症状はやはりあると。
そしてなにより、ジンは『心の病気』にかかっていると、とても言い辛そうにしていたラビィ。
「本当に会う?」
何度も言われた。
やはり、発狂してしまったんだろうか?
私のせいだ。
でも知りたい。
会って謝りたい。
西に左遷されたのも、賊に狙われたのもわたしのせいだ。
貴方の両手が斬られたのはわたしのせいだ。
頭を斬られたのはわたしのせいだ。
生死を境を彷徨ったのも、麻薬を投与されたのも・・・
罵ってくれても構わない。
それでも言いたい。
嫌われていても言いたい。
貴方を愛していると。
もう同じ道を歩けないけれど愛していると。
今でも、こんなになってしまった今でも私は貴方だけを愛していると。
嫌いだと言ってくれて構わない!
殴れないなら蹴ってくれても構わない!
汚く罵ってくれても構わない!
あなたの声で!
早朝の王都のやや郊外の病院。
他の怪我人も一緒に入院している。
まだ朝が早すぎるのか、見舞客も少ない。その人の少ない時間帯を選んで来た。
国の直営で治安も良く、喧噪からはなれ緑も多い。
自然に囲まれていると聞こえはいいが、郊外なのは怪我人、病人の搬送を住民に見せたく無い為。亡くなった人の搬出を見せたく無い為。悲鳴や奇声を聞かせたく無い為。
ラビィは私にヴェールをするように言った。それに合わせた服装にもした。やはり、この顔はまずいらしい。
二階のジンの病室。
入る前に、ラビィは私を抱きしめた。身体から感情が伝わって来る。
とても良く無い事が待っている。
ラビィがノックをし、ドアを開ける。
ベットに寝ているジンが見える。
1人部屋だ、広い。
椅子から立ち上がり出迎えてくれたのはジンのお母様。
私はゆっくりとお辞儀をする。
お母様とは2年ぶりだ。
どうしよう、なんて言おう。
また恐くなる。会いに来てよかったんだろうか?
恨まれてるに違いない。
私が元凶だ。
お母様がじっと私を見る。
顔を見る、身体を見る、服装を見る。とても長い時間が過ぎた。
沈黙の後、漸く、
「入って、静かにね」
招き入れられた。
沈黙の間、きっと私に言いたかった言葉を心の中で叫んで居たに違いない。人は無言の時程多くの事を溜め込んでいる。
いっそ、罵ってくれた方が楽だった。
「そこへ」
お母様は私とラビィに椅子を勧めてくれた。
ジンからは遠い。
近くには座らせてもらえない様だ。
じっとジンを視る。
彼は起きている。
多分起きている。
お母様を視る。
この感情は何だろう?
怒りともちょっと違う、悲しみと言うには少し違う。
とても複雑な感情が身体に表れている。
ドアがノックされる。
ココの声がする。
色んな用具を持って入って来るココ。
主にタオルや水。
村でジンの介護に任命されたココ。
村の生き残りのココ。
彼女は私に軽く頭を下げるも目を合わせる事は無かった。
葬式の時も会話はしなかった。彼女の仲間も数人死んだ。私がもっと早く動いていれば彼女の悲しみも無かったかも知れない。
大好きなジンの部屋に居るのに息苦しい。
まるで空気が無い様だ。
戦場よりも恐い。
勇士手術はどうして心を強くしてくれない。
押しつぶされてしまいそうだ。
ココがジンの横に歩いて行く。
小椅子を出してジンの脇に座るココ。
優しい声でココがジンに呼びかける。
「おはよう、ジン」
ラビィが何故か私の手を握る。
ゆっくり目を開け、うつらうつらと声の主にジンが向く。
声の主にジンが優しく返事をする。
「おはよう、イブ」




