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その47 それでも朝は来る

三勇士隊エルザ小隊と西第4派遣隊の殉職者10名の合同葬儀は王都の三勇士隊本部で静かに行われた。


多すぎる悲しみの数。


関係者と近親者のみで行われた葬儀だが、結構な人数が参列した。

勇士隊、派遣隊の中のジンの護衛、その親族。連絡が遅れているから参列出来ない者も居る。

ユリは過去の立場上参列を辞退した。

喪主はアーサーが勤めた。

彼の悲しみも相当なものだったろう。

だが今日は式を粛々と進めている。

参列者に制限を掛けたのは、様々な政治的理由があるが、親衛隊長を参列させたく無かったからでもある。



喪服にヴェール。

成人してから初の喪服。

エルザの棺を見つめるイブ。



無念だった。

ただただ無念だった。


終わった事に、こうすれば良かった、ああすれば良かったと何度も自問した。


ジャージャー国の最高戦力として産まれた筈の自分たち勇士は、命を狙われる存在になったようにしか思えない。

自分が勇士になったのでジンが狙われ、そのせいでギルドとの抗争になった。

勇士三人がバラバラになった隙にエルザが狙われた。


エルザに生きていて欲しかった。


戦うには優しすぎるエルザ。

いくら力が強くても冒険者(悪人)相手ではエルザは戦えない。

仲間を人質にされそのまま斬られた。





「彼女を褒めてあげて。エルザは勇敢に戦った。そして彼女は最期まで自分の大切な物の為に戦ったの」


ラビィの言う事は本当だ。

エルザを始め彼らは自分から村に残った。

恐らくは死を覚悟していた。


村を去った者もそれは予感していた、彼らは助からないと。

でも、どこかで思っていた。

奇跡が起きると。



でも、エルザ達は・・・・・



ああしなければ、仲間を逃がしきれなかった。


ああしなければ、村に迷惑をかける。エルザ自身を晒さなければヤツらは近隣農家に次々と押し入ってた。そこに勇士がいると晒したから逃がした馬車は追われなかった。


きっと私のことも待っていた。



愛する者の為に勇気を振り絞って戦った。




それでも生きていて欲しかった。

汚名を被ってでも生きていて欲しかった。


エルザが私を好きと言ってくれたように、私もエルザが好きだったんだよ。


パティが赤い目をして参列している。

昨日のパティは壊れたように泣いていた。

死後4日も経ったエルザの亡骸にしがみついて泣いていた。

エルザ、貴方は愛されていたんだよ。見てる?パティが貴方を求めてる。








あの後、私達は本部へ撤退する事を決めた。




あの時私はギルドに殴り込みに行きたかった。

ギルドとそこの冒険者を皆殺しにしたかった。


だが、出来なかった。


馬も疲れてた。

怪我人も放っておけなかった。

エルザ達の亡骸を放っておく訳にはいかなかった。

私が離れた隙に隊が狙われたらまた惨事になる。


何よりも、エルザを抱きしめた私の腕がエルザを離してくれなかった。

まだ暖かいエルザ。

願いを込めて一生懸命抱きしめれば、奇跡が起きて生き返るんじゃないかと離れられなかった。




奇跡なんて起きなかった。




ーーーーーーーーーーーー




西の農業地帯に隣接する町。

麦農園や米農園、牧草地を近くに持つこの町は昔は活気に溢れていた。


だが、10年程前に大手のギルドが来てからは衰退し、治安が悪くなった。

国の中心から離れたこの町はギルドの格好のカモだった。


ギルドがあれば当然冒険者も増える。


国籍も定住先も持たない冒険者。

己の身ひとつで生計を立て、いつかは成功者になる事を夢見ている。

実際は仕事も寝所もギルドの世話になるしかないのが殆どだ。

そして少しでも良い待遇を求めてギルドからギルドへ渡り歩く。


ギルドで役職を得て、家を買い、定住する者はギルド員という。

家を買って住民になると国から税金を取られる。

それでも家を買った者は裕福になった者か、待遇がよくなった者だ。

大半はギルドの経営する安宿住まいだ。

あくまで『住人』でなく『旅人』扱いで税金も義務も発生しない。



この町のギルドは今年、100人を超える損失を出したが『勇士』を1人葬るという偉業を成し遂げた。

ギルド界では一躍有名になった。

それは彼らに取って、とてつもない栄光だった。

エルザを討ち取った隊は全滅したが、裏世界では手柄をあげた者にとてつもない報酬が出たという噂が流れた。勇士に懸賞金が掛かっていたのは本当だ。

実際は冒険者達は皆戻らなかったので、ギルドの支払いは全くない。それどころか別件で支払い予定の報酬もギルドの物になったし、冒険者の遺産もギルドが貰った。





そして栄光は、死んだ冒険者に代わる新たな冒険者を呼び寄せた。


エルザの代わりは居ないが、冒険者の代わりはいくらでも居た。


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