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その44 何処に突っ込んだ!

 米農園では収穫も脱穀も終わり、倉庫への搬送も半分終わっていた。あと何往復かで運搬も全て終わる。



 第4派遣隊は作業期間が終了し、ジンの護衛をしていたエルザを始めとする勇士隊もここを離れる日が近い。

 ジンは歩く程の体力は無いが、荷車で揺らす程度なら問題ない。

 そこに王都に要る隊長の遣いが来た。本部にずっと居た隊員が遣いとして来た。彼は村に来たのは初めてだった。本部にずっと居たので戦闘も拷問も死体処理の経験も無い。ましてや農作業も。


 村に居た隊員や派遣隊から見れば随分頼りなく見えた。村に居た隊員とは同期だが、経験に随分差がついた。

 しかも、この隊員は親衛隊長に買収されていた。

 当然アーサー(隊長)はこの隊員に圧力を掛けた。圧力と言うが、要は脅しだ。


 三勇士隊は通常の3倍の高給待遇だ。

 高給の理由には守秘義務も含まれている。秘密や内情を他人に漏らしてはいけない。それは一般人やギルド相手だけではない。他の隊に対してもだ。


 破ったならば、返金してもらい独房に入れるとアーサーは脅した。入隊から1年以上経っていて、金は既に使っただろう。

 しかも尋問と独房入。

 独房に一度入ったなら、男が持ってる情報が時代遅れになるまで外には出れないと。


 部外者の買収に引っかかる様な奴は簡単にアーサーに落ちた。

 今は執行猶予中『お遣い係』だ。




 本部からの連絡内容は、ジンの移動が可能だろうからすぐ本部に移動しろとの事。他の重症人も動かせる位に回復している。

 護衛が足りないので第4派遣隊の中のジンの見張りだった8人も任務に任命するという事。(元は12人だったが、1人は命を落とし3人は重傷)

 イブが在中している町は迂回して別の町を経由して王都に向かう事。

 これは例の町がギルド傘下だからだ。

 馬と馬車は第1王子が用意してくれる。既に出たので途中で会うだろうと。



「きゃあああああっ!」


 嬉しそうに変なステップを踏むエルザ。

 胸に巻き手紙を抱いている。




「どうしたの?あれ」

 ココが呆れた目でエルザを見ている。



「隊長からの手紙ーー」

 冷めた言葉のパティ。



「そんなに甘い言葉が書いて有るの?」


「さあね。でもエルザって、ちょろいかも」



 先日、セルゲイに言われてた事を気にしてたアーサー。

 小隊長としてのエルザに連絡と注意事項を書いたのだが、紙の包み紐に暗号で愛してると描いたらこの騒ぎだ。

 流石にアーサーも紙に書いたら目立つだろう。きっと「愛してる』と書いて有る紙をエルザは捨てないだろうと思って紐に記号を描いた。

 読み終わったら紙は確実に燃やして欲しいから。



 紐にキスしたり、ほおずりしたり、()()()に突っ込んだり大騒ぎのエルザ。



「うわぁ・・・みてらんねぇ」

 呆れ顔のパティ。


「そういって、男が出来たらアンタもああなるんじゃないの?」


「ならねーよ」


「どうかしら」


「ココはどうなんだよ、カイとはどうなったんだよ」


「どうも無いわよ。別れたっきりだし」


『うわぁ・・・・カイにあそこまでされてそれかよ』




 その後、皆出立の準備に取りかかった。





 ーーーーーーーーーー





 イブは読み終わった隊長からの手紙をラビィに渡す。


 漸くジンが王都の本部に移送されると。怪我の経過が良いという事だ。


 本心ではジンについていたい。

 ジンの顔を見たい。

 ジンの容態はどうなっただろう?

 意識は正気を取り戻したんだろうか?

 会ったら喜んでくれるだろうか?

 それとも恨まれているだろうか?

 ジンは私に会いたがるだろうか?

 気が気ではない。


 自分はまだここに残らなければならない。

 解っている。大切な任務だ。まだ離ればなれの日々は続くのか。


 怒りの溜め息が出て机を壊しそうになる。この怒りをどこにぶつけたら良い?



「落ち着いて」


「解ってる」


 ラビィに心配をかけた様だ。


 アーサーを恨む訳にはいかない。この町を離れる訳にもいかない。




 隊長からの手紙には村に潜むギルドの諜報員から町のギルドに連絡が行く筈。

 ギルドがジンの抹殺に動くかも知れない、用心しろとあった。


 案の定、村から()が来た。

 町のギルドの駐在員と共にギルド本部に駆けて行く。解り易い奴らだ。

 駐在員の家はこちらの隊員が張り付いている。

 思った通りの報告が来る。



 暗闇を跳び、ギルドの屋根に張り付くイブ。


『奴ら動くか?』




 ー ー ー ー ー ー




 ギルド内で諜報員と幹部らしい男が会っている。


「それは本当か!」


「ああ、出立する役人が農園主に別れの挨拶に来たと。朝出るそうだ」


「朝か、良かった。今、夜襲に向かってる」


「本当か!」


「ああ、この間の勇士を見て大して強くないのが判ったからな。ついでにひとりづつなら倒せる」




「今の話は本当か!」



 居ない筈の女の声。



「誰だお前は!」

 ギルド幹部が怒鳴る。


「答えろ!」

 顔の壊れた女が短刀を構える。


「ネズミめ!」

 ギルド幹部が剣を構え、駐在員が廊下に向かって走る!


 イブは走る駐在員の頭を回し蹴りして、そのままギルド幹部の振る剣を短刀で受け、反対の手でギルド幹部の剣を持つ手を握り潰した!


「がぁぁ・・!」


 悲鳴はイブの手で押さえつけられた。

 イブは男の腿に膝蹴りを入れる!

 足は折られた。

 苦痛に泣く男。


「ああなりたいか?」

 イブは床に倒れあらぬ方向に首が曲がった駐在員を視線で示す。





「な、なんでもする。助けてくれ!」





 ーーーーーーーーーー




 奴らのほうが動きが早かった、まさかアーサーの突入劇がこんなことになろうとは!

 ラビィが慌てて隊に戻って行く!

 隊員が馬を借りに走る!


 大急ぎで村に行かねば!




 イブは町一番の高い木に登ってフルパワーで送った!





『 エ ル ザ に げ ろ !』






 奴らの狙いはエルザだ。

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