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その41 遅かった

「狙いはイブ様を炙り出すことでしょう」


 ユリの言葉。





 ラビィは貸し馬屋から戻って来て報告してきたが、思った通りの事になっていた。


 部屋でユリがアーサー達に説明する。


「恐らくは今までギルドの戦力の大半を潰した存在をその目で見ようと言うのが目的でしょう。

 勇士隊が半分こっちに居るのはバレてるでしょうね。昼間の犯行を選んだのは不利になる夜を避けたのではなく、明るいところで見る為でしょう。

 ギルドはこちらがどんな戦力かは知らないでしょう。当然イブ様の存在や能力や行動パターンなんて知らないでしょうし。奴等はきっと離れた所から眺めてると考えられます。

 娘を判り易く襲って、助けに来た存在をどこかで見ている筈。高い建物と通りは間違いなく張り付いているわね」




「するとやはりギルドの差し金か?」



「恐らくは。

 ただ、冒険者はそれも知らされてないでしょう。冒険者は捕まったら簡単に秘密をバラすから。農園での事よりこの町での娘を誘拐する仲間が捕まった事の方が彼らは怒りを持ったでしょう。仲間を失って楽しみも潰されたんだから。

 彼らには軍が馬を借りる事などどうでも良かった筈。何か言って焚き付ければ駒になる冒険者は簡単に集まったでしょうね」



「イブが見られるのはマズい。罠もあるだろうし」


 イブの役割は強力な戦闘員というだけではなく、諜報員としても重要。

 顔をさらしたくはない。

 だからといって見た敵をいちいち皆殺しにしている訳にいかない。






「構わない。殺せばいいんだから」


 イブが悩みもせずに言う。





 ーーーーーーーーーーー





「良かったな、ボウズ。良い思いが出来て」




 娘は手で顔を覆って泣いている。泣き止むどころか後から後からこみ上げているようだ。

 血が付いていた。


 まだあどけなさが残る娘に俺は何て事を。


 先輩はゲスな笑いをしながら娘の顔をパァン!と叩く。

 更に泣き出す娘。


「これでお前も立派な冒険者だ」

 先輩は満足そうに部屋を出る。




 これが冒険者なのか。

 こんなものだとは思わなかった。

 いや、この一ヶ月で判っていた。

 だが、抜け出せなかった。

 いや、抜け出せば良かったんだ、全てを捨てるなら出来た筈だ。




「まだまだ続けろー!」




 部屋の外から先輩の声がする。

 益々泣き出す娘。







 階下から声がする。

 いや、外か?



「大人しくしろ、てめえ!」


「しねやああああああ!」


「同時にいくぞ!」


「いでええええええ!」


「あああっ、マサ!」


「こっちには人質が居るんだぞ!」


「どうだ!」



 下で戦ってる声がする!

 誰が来たんだ?どうなってるんだ?


 ガラガラと煩い音がしたり、怒鳴ったり聞こえるんだが、それよりも部屋に煙が充満してる!

 火事か!

 そう言えば、来たときこの家は一階も外も稲藁だらけだった!

 馬の餌を保存する家だと思ってたけど、火が出たらヤバい!

 藁は火の回りが早い!

 数秒で火が回る燃え易さ!


 俺は窓やドアを片っ端から蹴ったり叩いたりするが、びくともしない!

 閉じ込められたんだ。

 最初っから逃げられない様にしてあったのか、そういう家なのかは知らないが出れない!

 何の武器も道具もない。

 藁だらけのこの部屋に火の粉が上から入って来る。


 上から?


 娘が、

「いやああーーー!」

 と叫び、

 俺は、

「だせえええええ!ここだーーーー!」

 と声の限り叫ぶが誰も来ない。



 と、火の粉から引火して、藁が一気に燃え上がる!

 ほんの数秒で部屋中がまっかに!




 もう駄目かもしれない!


 俺は火から一番遠い部屋の角の藁を掻いて掘り、なるべく藁を遠ざけた。

 そのわずかな空間にパニックになった娘を無理矢理押し込み、上から覆い被さった!

「なるべく息を止めて!小さく丸まって!」

 喉が苦しいが精一杯叫んだ。

 せめてもの償いだ。

 この娘は小さいから俺のからだで火から隠しきれるかも知れない!


 熱い!熱い!熱い!

 痛い!痛い!痛い!

 苦しい!



 そして意識が消えそうになる頃、バアンと木材の壊れる音がした・・・・





 ーーーーーーーーーー





「もう一杯どうぞ」


 ラビィが煤だらけのアーサー(隊長)に水を渡す。




「イブだったら上手くやれたんだろうか?」


「わかりません」



 アーサーは何度も自分を振り返った。


 敵の隠れ家に突入したが、結構手間取った。

 待ち構えていた冒険者と対峙して制圧を上手にやろうとしてまた手間取った。

 隙をつかれて火を放たれた。

 きっと奴らは救出に来た者を火で囲う作戦だったんだろう。

 部屋の中どころか外も軒下も藁だらけだったから。

 何か罠が有る事は判っていた。


 目の前の冒険者に気を取られて二階の人質のことを忘れた。

 イブから『にかいにいけ』と頭に呼びかけられなければ気がつかなかった。


 なんとか力任せに貸し馬屋の娘は助け出せた。

 近くに居た冒険者は斬り殺してしまった。



「あの人は敵じゃない・・・・」


 娘の言葉を聞いたとき力が抜けた。

 ただ感謝されると思っていたのに。


 現場から冒険者を5人も取り逃がし、3人は部下が倒した。2人は逃げ切ったそうだ。

 娘こそ救出したが、斬らなくても良い奴を斬った。

 建物内に居た部下数人が軽い火傷で済んだのは幸いだった。



 イブを晒したく無いが為に自身で突入してみたが、散々だった。

 どうせ自分は素性も公開されている。



『イブだったら上手くやったんだろうか』

 何度も繰り返し思った。

 自分を情けないと思った。







 ーーーーーーーーーーー





 部屋に戻ったイブ。

 ユリから水を受け取る。



「で、どうでした?」


「居たわ。特等席に居たわ。ギルドと同席しないで単独でいたわ」


「やっぱりそうでしたか。他は?」


「どう見ても堅気にに見えないのが数人、それぞれ別の場所にいたわ。殺してやろうかと思ったけど『眺めてるだけの人』を斬る訳にもいかないしね」


 イブが言った『特等席』に居たというのは親衛隊長のことだ。

 イブは周りに溶け込みながら『観測者』を探し回った。それが今回の役割だから。




 そして、


「憲兵の方は?」


 ユリは憲兵の方を見張っていた。

 それが今日のユリの任務。


「駄目ね。最初の報告で数人捜索に出動したと言ってたけど現場にたどり着いたのは1人も居ない。

 終わり頃来たって。多分、知ってて現場を避けたんだわ。伝令が来て、応援が出るまで長い事長い事。しかも1人ギルドに走って行くし」



「腐ってるわね」


「完全にね。ギルドに支配されてるわ」




「ユリ、ちょっと行って来る」


「何処行くの?」


「逃げた2人を始末しにいくわ」


「判るの?」


「しっかり覚えた」





 そう言うと、イブはフードを被り部屋を出て町に消えた。


憲兵の監視はユリだけでなく数人で手分けしてしています。

流石にイブのような事は出来ません。

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