その37 言った方がいいのかな?
三勇士の定期検診最後の1人エルザ。
エルザは農園の勇士隊のテントの中で健康チェックを受けた。
セルゲイが来る前まではエルザは農作業をしていた。
普通の隊員と同じように作業をして、同じくらいの力加減で。
エルザだけ特別扱いで農作業をしていない訳ではない。
確かに本部に居るならば特別扱いもしただろう。
勇士であるし、そもそもは良家でお嬢様育ち。
だが今は他の隊員と同じ作業をする。
勇士である事を隠す為だ。
1人だけ別待遇では判り易すぎる。
幸い、筋力的には苦にはならない。
何もしないとかえって暇すぎるから丁度いい。
それに、話相手だったアーサーもイブも居ない。
側近のパティが居るくらいだ。
エルザは必死だった。
お友達つくりに。
農園に残っている隊員の中ではエルザが一番階級が上で強いのに、作業中は一番小さくなっている。周囲が気を使う程に。
それはつまり『ぼっち』
エルザは18歳からの公務を免除されていた。
それは既にアーサーの婚約者だったから。
礼節なら幼い頃から家で仕込まれるので習わなくても完璧。
勇士の件がなければとっくにアーサーと婚礼を挙げていた筈で、働きに出るなんて無い筈だった。
勇士になったのも唯一の心の拠り所のアーサーの後を追ったから。
皆と違う道を歩んで来たエルザ。
自分だけ良家の出身で、今居る隊の皆は殆ど町民。
皆とは違うお嬢様学校に通い、公務期間を経験していない。それは勇士かそうでないかよりも大きな壁だった。
その手の話題になるとぼっちになる。
苦笑いでウルウルしているエルザを見たパティは頭を抱えた。
エルザとイブが一緒の時は普通に会話していたので、イブが居なくなった途端にぼっちになったエルザに暫く気がつかなかった。
見かねたパティが陰で根回しをして、ちょっとずつちょっとずつ話せる相手を作って行った。
パティは特殊部隊でこんな苦労が有るとは思わなかった。
流石にエルザ本人にはお膳立ての事は言わない。助言程度にしている。あくまで見えない所で根回しだ。いきなり周囲の人間全部と接するのではなく、狭い範囲で1人ずつ馴染ませる。
自分からは友達の輪に入れない...必ず居たよな、こんな奴。
エルザがまさにそれだった。
『このお嬢様、疲れる・・・』
パティはそう思った。
そして、
『ラビィめ、めんどくさいお嬢様押し付けやがって』
とも思った。
エルザが悪い奴ではないのでパティも頑張る事にした。
ー ー ー ー ー ー
エルザの診察は終わった。
特に問題も無い。
診察は半分以上『黒い箱の小型版』を使うので服を脱ぐとかはしない。
エルザはセルゲイに今まで疑問に思っていた事を尋ねた。
「生理が来ないんです・・・・」
いや、正確には勇士手術後、1回来た。それだけ。
当然、妊娠はしていない。
処女だから。
だが、昔聞いた事が有る。高齢になると生理が無くなると。そうするともう妊娠できない年齢だと。
それに似た事になっていて、もう妊娠出来ない身体になってしまったのだろうか?と悩んでいた。
隊では勇士の妊娠は禁止されている。お陰でアーサーとの婚姻も無くなった。
でも、そもそも出来ないんじゃないだろうか?
解らない。
知りたい。
聞きにくい。
近くにイブとアーサーが居ない今なら聞き易いと勇気を出してセルゲイに疑問をぶつけた。
「私達勇士は子供が出来るんでしょうか?」
「わかりません。前例がないのです」
セルゲイの答えは曖昧だった。
だがひとつだけ確かな事を言った。
「勇士同士ならセックスは出来ます」
ウブなエルザには刺激が強い言葉だった。
具合が悪く無いのに立てなくなる程に。
セックスが出来ると言っても条件付き。普通の柔らかい人間の男では硬いエルザと交わることは出来ない。あくまで相手はアーサーのみだ。
「恐らくは受精もします」
「じゅせいって、なに?」
「お腹の中で子供の元が出来る事です」
「じゃ、子供を産めるの!」
「それは解りません」
ここでまた同じ答えを貰う。
エルザは答えを得られずモヤモヤする。
「普通の人間になるのか、勇士になるのか、それとも奇形児になるのか解らないのです」
『奇形児』と言う言葉はエルザにとって恐怖だった。
「それと、普通の人間の子供だった場合、死産します。勇士の強固な肉体、勇士の女性の産道を柔らかい普通の人間の子供は通る事ができません。子供はおそらくは産まれる途中で押しつぶされます。それ以前に勇士の硬い体内で成長出来るかは謎です」
エルザは絶句した。
酷い話だ。
可能性は勇士の子供が出来上がった場合だけ。
しかし、勇士の生活は悲惨だ。こんな身体なんてなるもんじゃない。
そしてその子はきっと孤独になる。
『きょうだい』を作っても、その先は知れている。
まだ不明な事だらけだけれど、これは不毛だと悟った。
そして、イブが妊娠しなかったのは皮肉にも幸運だったと。
エルザとアーサーはセックスしていない。
理由はいくつか。
『禁止だから』
『結婚しなかったから』
『イブとの関係を良好に保つため』
友達の少ないエルザにとってイブを失う訳にはいかなかった。
イブはどう思っているだろう?
そして、セルゲイがここに来た本当の理由をエルザに伝える。
極秘の依頼。
ーーーーーーーーーー
午後から警戒当番のパティ。
街道に近い場所に、藁を積んで作った椅子に座るパティ。
夜になったら男の隊員と交代の予定だ。
こういう時は2人一組で警戒に当たるのが常識だが、人手が足りなすぎる。
しかも警戒ポイントが多すぎる。
まあ面倒な奴が来なければ簡単な仕事。しかし暇過ぎて辛くも有る。農作業の当番の方が気が楽だ。
エルザがやってきてパティの後ろに座る。
エルザの様子がこう・・・これから怒られるのが判っている子供の様。
パティが少しエルザを見る。何かを言いたいんだろうが、言えないでいる様子。
きっと、面倒ごとだ。喋るのを待とう。
エルザがパティの服の裾を掴んでくいくい引く。
「どうしたの?」
子供の話を聞く親のようだ。
「・・・・・・・」
もじもじくんが発病したか。
もう一度。
「どうしたの?」
「あのう・・・・・」
おそるおそる、そしてすがるようにエルザがぽつりぽつりと話し出す。
「いやいやいやいや、それはマズいだろ!やっちゃ駄目だろ!」
「でも、私出来ない。こんな身体だし・・・・」
「いやそうだけど、そうじゃなくて、そう言う事じゃなくて、後でなんてイブに言うんだよ!殺されるぞ、絶対!」
「だから内緒なの。パティしか頼る人が居ないの!お願い、助けて!」
「こ、ココに頼もう!それしか無い! な、そうしよう!」
なにか困った時にエルザが縋る相手はパティしか居ない。
聞いてパティはびびった。この任務だけは受ける訳にはいかない!危険すぎる。
そしてココを引っ張って来るパティ。
だが、
「 絶 対 嫌 ! 」
「頼む!ココしか出来る人居ないんだ!このとーり!」
「それだけは絶対嫌!」
ココは超拒絶した。
他人から見たらココが最適だが、ココは死んでもやりたく無かった。
「イブに殺されそうになったらエルザが守るから!」
「そういうことじゃない!しないから」
いやいや、イブが怒ったらエルザですらどうなるかわからない。
困り果てるエルザ。
「・・・やっぱりパティお願い」
「パティならすぐ終わると思うわ。私より良いと思う」
パティに押し戻すココ。
「いやいやいやいや!」
「じゃあ、カイ君に頼む・・・・」
「待て! それは駄目だ! 正気になった時にジンに殺される! いや殺されはしないけど、ジンが死ぬかもしれない・・・・・」
黙ってはいるがココが睨んでいる。勘違いしたようだ。
「どうしたらいいの・・・・イブに相談したい」
涙目のエルザ。
「言える?それ」
「無理・・・」
「ココ、自然に~とかなかったか?」
「一度だけあったわ。もう残ってないけど」
「じゃぁ!その時その・・・それが出来るならこれだって」
「それとは別!」
そこへ、待ちきれなくなったセルゲイがやって来た。
状況は察したようだ。
「仕方が有りません。私がやりましょう。これからジン君の診察もしますから」
「くれぐれもご内密に」
言えるわけない。3人はセルゲイに縋るしか無かった。ジンには申し訳ないが。
「一応誰かサポートお願いします。多分する事はないと思います。念の為です」
「ほら、パティ」
「お願い、パティ!」
「では、パティさん」
「お前ら覚えてろよ!」
客観的にはパティが最適だった。
何もなければいいが・・・
4人はぞろぞろとジンの部屋に向かった。見張りするのを忘れて・・・
セルゲイによる今後重要になるかもしれないミッション。国にも魔国にも秘密。
これは極秘である。
ごしごしと洗濯をしてついでに水浴びするパティ。
普段なら1人の為には使わない量の水を構わず使う。
背後からココが声を掛ける。
「ドンマイ!」
翌日、セルゲイは帰って行った。
パティとココではパティの方が(性的な意味で)男に好かれます。
アーサーの性欲はどうなっているのかな?