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その36 おのぼりさん

 私の名はユリ。



 綺麗な名前だが既におばさんだ。

 もうすぐ孫もできる。

 頑張ればまだ子供を産める年齢ではあるが、男はこりごりだから未婚のまま終わるだろう。



 以前は『ツヤマ』という通り名で暗殺者をしていた。

 これでもちょっとは名が知れた暗殺者だったんだ。


『ツヤマ』は代々受け継がれて来た名だ。

 私は先輩が死んだ時に、

 先輩は更に先輩から、

 先輩の先輩は更に先輩から・・・


 私が何代目のツヤマかは知らない。


 先日、代々受け継がれて来た『ツヤマ』も私の代で絶えた。


 いいんだ。

 せめて孫には真っ当に生きて貰いたいから。





 今、私は堂々と王都を歩いている。本当に人生とはどうなるか判らない。



 本来なら、処刑されていてもおかしく無い私。

 自分の意思で行きたい所に行く。

 見張りも護衛も無しという信じられない状況。

 軽く変装はしている。

 以前から印象に残らないような工夫もしていたから、すれ違うだけなら私と判る人は居ないだろう。イブ様には通用しないが。



 この間まで『世間の敵』の裏家業の人間だったのに、今は第2王子アーサーの部下だ。

 給料は並くらいだろう。

 だが『娘の安全』という何にも代え難い恩恵を受けている。

 娘は王宮の職員宿舎に住むという高待遇。

 地方から来た職員とかの宿舎だけれども、都会のど真ん中で高級な建物。

 しかも娘にはメイドが付く。

 娘は妊婦だし生活基盤もなかったから有り難い。


 娘はまだお腹は目立たないので、今のうちに礼儀作法を仕込まれている。指導はそのメイドから。

 こんな環境で暮らすんだから作法は必須だ。

 この国の人間は18歳になったときに礼儀作法を叩き込まれている。

 この国に住むなら出来て当然の事だから娘も今更ながら習っている。



 引っ越し後にこれから世話になるメイドに挨拶を当然したわ。親だもの。

 メイドに娘が人殺しだとバレたら軽蔑されないだろうか?

 そんな心配をしながら恐々メイドに挨拶したら、なにかオカシイ。


 他愛のない話のあと、どうしても気になる事をメイドに思い切って聞いてみた。



「貴方は人を殺めた事がありますね?」



 長い経験からの直感だった。


 過去、メイドは私と変わらない数の殺しをしていた!

 ぶったまげたさ。

 メイドは()()()()の陰の力として10年働いて、引退後にメイドになったと。

 とある方って、どう考えても国王の事だ。

 私より格上だ!

 裏世界のエキスパート!


 このメイドに逆らってはいけない・・・




「綺麗過ぎて居心地が悪い!都会は落ち着かない!儀礼と生活の指導が嫌!」


 などと娘は言っているが、罰当たりだ。

 大人しくしていてくれ。そのメイドを怒らせるな!そこら辺のおばちゃんじゃないんだぞ!



 私と娘の素性は秘密になっているが一部の幹部には知られている。

 だが、隊長は、


『極秘に高給でスカウトした』


 などとふざけた事を言ってたらしい。

 相当嘘だらけな説明だったが、それが通ってしまうのが流石は王族。


 殺すか殺されるかの暗黒生活から、今や王族付きの国家公務員。

 私の人生はどうかしてしまったらしい。


 だけれども『高給スカウト』なんて言われてしまったからには、それなりの仕事をしなければいけなくなってしまった!

 春には孫が産まれるんだ。頑張るさ。





 ー ー ー ー ー ー 




 娘の身の回りが落ち着いたので、また隊長のいる地方都市の方にこれから向かう。あくまで仕事上のボスは隊長だ。忠誠心はイブ様にあるが。


 隊長に土産話でも用意しないとカッコがつかないよと思っていたらメイドが()()()を私にしてきた。



「私の()()()()()が都内で倉庫を買いまくっている。倉庫の中が埋まる頃に何か(事件)起こりそうね」



 ええと、情報ありがとう。


 て、言うか、貴方は引退したくないんじゃない?

 仕事に未練があるんじゃない?

 残してきた後輩が動かなくてイライラしてるから私を手駒として動かそうとしてる?


 従った方が良さそうだ。

 このメイドには逆らってはいけない。

 私にとってボスがもう1人増えたようなものだ。


 倉庫の様子を探ってから隊長の所に行こうか。




 ー ー ー ー ー ー




 確かに変だ。


 ギルドが悪企みから商品の価格を釣り上げる事はたまにある。

 にしても、だいたい倉庫は郊外や田舎に構えることが多い。

 都会は地代が高い為だ。地代だけでなくギルド員の給料も割高になる。


 商売では納入先が変更になることも良くある。

 ひとつの町のみに納める事を決めこむと値下げ攻勢にあう。

 それを想像出来るほどの多い在庫を持てる規模の倉庫だ。買いすぎで不自然。

 冒険者を使って嫌がらせからの価格釣り上げをするには、ここは治安が良すぎる。


 次々と荷物をもって来る貨車を見ると知ってる問屋もある。まるで戦争前の備蓄のよう。

 品目は多岐にわたる。

 本来なら国から供給されてる為に販売価格で不利になる穀物もある。


 ギルドはなにをする気だ?


 国に戦争を仕掛けるには備蓄倉庫が城下町内というのは変だ。


 ギルド同士の抗争にしても、このギルドの本拠地は此処じゃない。


 それに、三勇士隊の設立以来、ギルドと国のパワーバランスが、国に有利に成りつつある。



 もう『ツヤマ』でない私ではギルドの内情は探れない。早く隊長に報告しよう!



 何かが起こる前に!

メイドはシロの担当に『立候補』しました。

軍の中で今一番ホットな三勇士隊に絡めるからです。


『大人しいメイド生活』はたったの1年で終わりました。

ユリという手駒を手に入れたメイドは楽しそうです。



その31で、イブに対してユリを名乗らなかったのは、イブに白旗をあげたけれどもアーサーの臣下になるとは言ってないから。

まだシロを止める前ですし。

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