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その35 健康診断

日常回だってたまにはあります。

 魔王からジャージャー国への贈り物『勇士』の力。




 男の名はセルゲイ・ニジンスキー。

 魔国からジャージャー国に派遣された技術者。

 勇士手術もその後の健診も彼の任務である。

 この魔国の技術をジャージャー国では魔術とか超能力とか呼ぶが、魔国では技術力とか科学と呼ぶ。


『勇士』をジャージャー国に贈った理由は、友好の証であるが、その他の理由もある。


 いつ滅びるとも知れない魔人の遺伝子を残したかった。


 魔国も広い世界では弱い存在。何度も絶滅させられかけてる。

『勇士』の技術は魔族の遺伝子をベースに作られた。

 今のところこの遺伝子保有者が交配をして繁殖をする状態にはない。

 本人達にそのつもりがないようだ。


 無理強いするつもりもない。彼らには彼らの事情がある。

 それに、これは一代雑種かもしれない。繁殖出来たとして環境が許さないこともあり得る。また、自滅することもある。後者の可能性が大だ。人間は同族での争いが絶えない。


 魔国ではあり得ない。

 魔国は高度に平和状態が確立している。



 この国で勇士の遺伝子は根付かないだろう。セルゲイはそう思った。




 ーーーーーー




「お久しぶりです。あまりにも帰って来ないので私の方から来ました」


 三勇士隊本部に常駐しているはずのセルゲイは地方都市に滞在するアーサーを訪ねた。

 ここまでの案内は居残り勇士隊がした。


 セルゲイとアーサーは他愛の無い近況報告、それとアーサーの定期診断を済ませた。特に珍しいことはなかった。いつもと場所が変わっただけ。


「そろそろイブさんを呼んで下さい」


「わかりました」


 イブが部屋に呼ばれ、テーブルにつく。

 この部屋には三人しかいない。

 人払いしてある。

 純隊員だけのこの場所では盗聴者は出ない。実際出たことがない。


 イブも簡単にいつも通りの診察を済ませた。


 いつになく真剣な言葉でセルゲイにイブが礼を言う。


「遅くなりましたが、ジンの為に特別に薬を送ってくださりありがとうごさいます。お陰でジンの容態は良くなってると聞いています。心より感謝致します」


 肉声での言葉。

 イブにとっては自分の命より大事なジン。感謝してもしきれないだろう。


「良かった。効果があったんですね。くれぐれもこの事は内密にね」


「はい。心得ております」


 セルゲイが処方した薬とは抗生物質。ジャージャー国には無い。ジンは破傷風が悪化して危険な状態だったが、薬のお陰で助かった。

 これを魔国からジャージャー国に渡す事は禁じられている。


 理由は2つ。


 ひとつめは公の理由で『過度なテクノロジーは逆に滅びの原因になる』というもの。急激な変化は社会に混乱をもたらす。


 もうひとつは魔国側の理由。

 もし、抗生物質で生き残る未知の耐性菌が出来、それが魔人に悪影響を及ぼす可能性を危惧したこと。



「もういちど同じような事になっても、もう薬は出しませんから覚えておいて下さい」



「解りました。仕方ないです」


 これにはアーサーが答えた。



「それからイブさん。強くなりましたね」


 漠然とした表現だ。


 その事はアーサーがとても気にしている事で、イブはあまり言いたくない事。

 あまりイブは見せないが、イブだけがいくつかの特殊能力を持つ。実際は能力の応用の延長であるが。


 アーサーが思わず食い付く!


「そうだ!どうしてイブは私とエルザに出来ないことができるのだ?私も何度もやるがまるで出来ない」


 セルゲイは予想していた質問に落ち着いて答える。


「解りません。『個体差』としか言いようが有りません。それに劣ってることも有るじゃないですか。通信が今だに上手くならない。パワーこそ有るけれど今だに複雑な文が送れない。これ、最初は練習不足かと思ったんですが、それだけでは無いようです。そもそもの能力不足のようで、練習繰り返せばもっと上手くなるでしょうが、アーサー様とエルザさんのレベルになるのは難しいでしょう」


「そうなのか?」


 アーサーがイブを見る。

 イブは落ち込む。


「あんまりイブさんを羨ましがらないように。イブさんも長文で楽しそうに通信するお二人を羨ましがってるでしょうから」


 こくこくとイブが頷く。


「あ、ああ。すまない」


 アーサーが背もたれに深く沈んだ。今まで考えてもいなかったようだ。


「ええと、長文は練習しますから、その・・・気にしないで下さい・・・」


「・・・そうだな」


 この話はここまで。



 セルゲイがイブに向かう。


「イブさんこれを練習してみませんか?」


 セルゲイは変なグローブを両手につけ、自身の前にある陶器のロウソク台の上にナイフを置いた。

 次にそのナイフを両手で触らず挟み、なにかを始めた。

 まるで水晶を使った占い師のようなポーズだ。


 暫くすると、ナイフから薄く煙がたち、そのあとナイフが赤くなった。

 ナイフが焼けている!

 柄は燃えてしまった。


 驚くアーサー、考えこむイブ。


 セルゲイはグローブの力でこの技をしたようだ。自身の力では出来ないようだ。


「イブさんなら出来るんじゃないですか?」


 イブは手を伸ばし、ロウソク台ごとナイフを持ち、ナイフをまじまじと見た。そして、また元の位置に置く。


「あの、もう一度やってもらえませんか?」


「では」


 セルゲイが手を出してもういちど始める。今度はイブが手を同じように掲げる。触らない程度の距離に。


「逆になってるんだ・・・」


 イブが呟く。

 アーサーには何がなんだか解らない。


 先程と同じようにナイフは焼けた。



 セルゲイが止めて手を放し、ナイフが冷めはじめる。赤かったナイフは徐々に灰色に沈む。そしてナイフの光沢は消えてしまった。


 考え込んでいるイブ。

 考えながらもそわそわしている。



「よし!」


 遂にイブが構えた。

 自身の前にロウソク台とナイフを置き、セルゲイと同じようなフォームをとる。素手だ。


「始めるわ」


 声と同時に力むイブ。


 赤くなるナイフ!

 早い!


 凄い!

 セルゲイが道具を使ってやったことを手だけでやっている!驚くアーサー、感心するセルゲイ。


「もっと!」


 更に力を込めるイブ。


 なんとナイフは赤から薄黄色になった!温度が相当上がっている!


「やめた」


 言葉を最後に手を放すイブ。

 既に加熱の威力はセルゲイのグローブより上だ。

 ため息をつくセルゲイ。

 驚くばかりのアーサー。


「思った以上の能力です!私も驚きました」


「どこまで凄いんだイブは」


 アーサーはナイフをまじまじと見る。さっきも手をかざして覚えようとしたが解らないでいた。

 少しドヤ顔のイブ。


「後で疲れが出るでしょうから、ザザーンを摂取しておいてくださいね」


「そうするわ」





 本当のところイブがは全く疲れていなかった。


 凄いという事は判るけれど、それ程イブはときめかなかった。

 彼女は思った。


 凄い能力だけど、なんに使うのだろう?

 加治屋になる?


 鉄板焼いて焼き肉?


 肉を焼くなら鉄板無しでも直接焼いた方が中から熱を通せるから鉄板要らないなと。

 そんな風にイブは思っていた。




 ーーーーーーーーー



 その後セルゲイは此処で案内人を増やし農園に向かった。

 エルザの健診の為だ。

 ジンも診るだけみてくれるという。


舞台のジャージャー国は「ぜんぜん踊らないシンデレラ」と同じ国ですが、数百年昔の設定です。

当然、テニスの文化はありません。

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