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その34 白黒つけようか!

 私はツヤマの娘、シロ。



 まさかのターゲットの勇士の迎撃を受けている。


 だが、以外にも現れた勇士はそれほど強くはない、女だからか?

 確か男の勇士と女の勇士がいるはずだ。ここに来たのは女の勇士。顔にはデカイ傷痕。つまりは怪我をするということか。言うほど強くはないな。

 男の勇士だったらヤバかったろう、或いは数人とか。


 ツヤマはこの仕事をやめようと言った。だが今私には金が必要だ。同僚のクロイも同意してくれてる。ここで大きく稼いでそのあと暫く休みたい。今回仕事を受けたのは私とクロイの二人だけ。あとは案内兼援護の4人。彼等は冒険者だろう。


 あ、ひとり斬られた!


 流石は噂の勇士といったところか。

 女ながら男4人と打ちあってひとり倒すのだから。

 動かないクロイ。

 ならば私も倣う。


 あの転がった男、嫌いだった。ずっとエロい目で私を見ていた。


 少し勇士の力が落ちた気がする。

 これ、私達の出番無いかもしれない?それはマズくないか?報酬にひびく。


 出ていこうとする私をクロイが止める。更には私を後ろに戻し樹の陰まで引く。


「まずいよ、クロイ。このままじゃ、全部取られちゃうよ!チャンス取られちゃうよ!」


「いいんだ。狙い通りだよ」

 クロイの声が低い。

 再び戦闘を見る、冒険者が何ヵ所か切られているが、それでも優勢そうだ。


「クロイ!」

 このまま手柄を取られたらマズいからクロイをせかす。


 出ようとする私の襟をクロイが掴んで乱暴に引き落とす。

 尻餅をつく私!

 なんて酷いこと!


 怒ろうとした私の目に映ったのは地面に落ちた私を正面真上から見下ろすクロイの姿、手には剣。


「・・・クロイ?」


「これでいいんだよ。ブス」


「は?なに・・・え?」


「もう要らないから死んでくれよ。ツヤマの名前は俺が受け継ぐから。ババァも後で送ってやる」


「なに言ってるの?冗談やめてよ!ねえ・・・」


「向こうもカタがつきそうだ。勇士殺しの金は俺が貰う。あいつらも始末する。ついでにお前も要らん。あばよ」



 私は頭が真っ白になった!


 仲間でしょ?

 同士でしょ?

 ずっと一緒に仕事してきたじゃない!

 一緒に旅してたじゃない!


 修羅の世界でたったひとつ信じたのは貴方!

 私と一緒になってくれるって言ったじゃない!

 一昨日二人っきりで過ごしたときに、二人で遠くで家を買おうって、いったじゃない!




 私に言ったじゃない!




 だから・・・

 だから私は・・・


 今まで私は・・・


 もう涙でボヤけてクロイの顔が見れない。私のクロイじゃなかったの?


 ああ、クロイが私に剣を振りかぶる。

 早く斬ってクロイ!

 きっと夢から覚めるから。

 夢だよ、悪い夢。

 目が覚めれば全て終わってるはず。

 私は目を閉じた。




 いつまで経っても夢から抜け出せない。



「がっ! ァァァ・・」


 再び目を開けると、クロイが随分上に居た。


 胸から刀が生えている。

 宙に浮いたクロイの足がバタバタと動く。

 血がだらだらと出る。


 夢?


 クロイが浮いている。

 いや、持ち上げられてる。

 クロイの背後には誰かが居る、剣で持ち上げてる。

 苦しそうなクロイ、僅かに口元も血が。



 悪夢?




 ー ー ー ー ー ー




 終わった。




「行きましょう」


 ラビィが腰を上げる。

 私も倣う。

 急ぐ必要はない。

 馬の元に行くラビィ。私もついていく。

 一直線に娘のところにも行けるが、少し時間を開けたい。娘が落ち着く為の時間は必要だ。


 ラビィが馬の機嫌をみる。そしてラビィが乗り、私も引いてもらい乗る。


 イブ様の力量が一瞬だけ見えた。

 一振りで三人斬り飛ばし、そのままクロイをひと突き。持ち上げた剣の背でクロイを上というか後ろに振り、クロイの剣を後ろに振り落とした。軽々と。


 しかも『本当のクロイの姿』を娘が見るまで待っていた。接戦のフリして待っていた。

 戦いながらも娘とクロイの事が見えていた。距離もあるのに。


 クロイはイブを倒してもらって、残りの5人を全て葬って手柄だけ持ち帰るつもりだったか。

 酷い奴だ。



 凄かった。

 イブ様の能力は馬鹿力だけではない。

 この圧倒的な感知能力。

 しかも人を殺すことに迷いが無い。

 こんなのが三人もいるのか・・・


 こんな力を無償でくれる魔族とは?




 少し戻って街道沿いに現場に向かう。

 クロイの亡骸の前にうずくまる娘。

 他人のように街道脇に座るイブ様。


 立ち上がり、こちらに来るイブ様。良く見ると、土で汚れてはいるが全く返り血を浴びていない。


 馬上の私にイブ様が両手を出す。降りろ受け止めるからというのか。多分そういうことだろうとイブ様に体を預ける。イブ様は私をまるで子供でも下ろすかのように軽々と持って下ろした。


 なんて硬い手!



「あとは貴方の役目」


『仕事』と言わないところ、気を使ってくれてる。

 絶望の後で最初に声を掛ける者の役割を用意しておいたイブ様に感謝する。


 シロに駆け寄って抱き締める。上から抱き締めたからシロが苦しそうだ。シロが私の胴に両手を回す。

 大声で泣くシロ。

 何年ぶりだろう、シロを抱きしめるのは。こんなに泣いて。シロの頭をぎゅっとする。小言なんかしない、ただただ抱きしめる。



 私の子。




 暫くすると、軍の者らしき人達が来て五人の遺体を何処かに運んでいってしまった。

 シロがクロイを見ていたが、何を思ったんだろう。

 でももう終わったんだ。クロイとはお別れだよ。愛してた男に裏切られたシロ。辛いよね、解るよ。やっぱりシロは私の子だ。男に騙されやすいから。




 イブ様が私達の横に来る。


「ツヤマ殿、これでいいですか?」


「イブ様、ありがとうごさいます」



「それから」


 イブ様がシロに向かう。


「ツヤマ殿に大切なことを言っておいた方がいい」


 シロは目をかっと見開いてイブ様を見る。

 相当驚いている。


 なに?


 シロが私に向く。

 無言だ。

 とても言いづらそうにしている。


 とても長い間があく。


「さあ」

 イブ様が促す。


「おかあさん、あのね」

 久しぶりにおかあさんって聞いた。


「うん」


「赤ちゃんがいるの」


 私は娘をぎゅっと抱き締めた。

 言いづらかったろう。

 よりによってクロイの子供だろうし。父親はこんなことになって辛いだろうシロ。もっと幸せな報告シーンを夢見てた筈。生憎この有様。


 しかしまあ、イブ様はシロの子供まで見抜いた?

 医者になった方がいいんじゃない?


 さてと。抱き締めながら少し大きな声でシロに言う。


「父親なんていなくてもシロはこんなに大きくなったじゃない!大丈夫!男なんて要らないから!」


「でも・・・」


「やっぱシロは私の子だわ。私そっくりじゃない!そして、その子はあなたの子よ。あなた覚えてる?私、妊娠中に結構な修羅場三昧だったのに、流れず図々しくお腹のなかに居続けたんだから!きっとその子もそうよ。絶対産まれるから覚悟決めなさい!痛いわよ~洒落になんないんだから!」


「なにそれ、私がアホの子みたいじゃないの、ふふっ」


「さ、立って!行くわよ」


「行くって何処へ?」



「就職活動よ!」

 内定貰ってるけどね。






 ーーーーーーーーーー




 夜。



 窓の外を眺める。

 今日も静かな町。



 ドアの音。



 人が背後から来る。

 後ろから抱きしめられる。


「イブ!今日もお疲れさま。ご褒美のハグだよ!」


 ラビィが後ろからぐいぐい抱きしめてくるが、全然感触が薄い。

 私の勇士の身体のせいだ。


「よわいよわい!ぜーんぜん足りないって」


「じゃあ、これでどうだ〜」


 ラビィがなんか足まで使ってぎゅうぎゅう絡まって来る。


「だめだめ、足りないよ」


「だめかあ〜 仕方ない。また筋トレしてくるから!」


 ラビィは私の後ろにぶら下がったままだ。足は流石に下ろしたけど。





「ラビィ」


「なに?」


「ありがと」


「どーいたしまして」





 ありがとうラビィ。

 私が人の心を取り戻せるのはラビィのお陰だよ。

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