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その33 たばこ

 私とラビィは馬を引き、イブ様の行動を隠れて見るべく風下の背の高い草の中に移動した。




 馬を遠くに隠し、草の隙間から覗く。

 この背の高い草、タバコか。刈り取りの時期を過ぎたタバコはすこし枯れ始めている。恐らくこのタバコは雑草じゃなく、誰かが植えたもの。持ち主が居る、倒さないように気を付けないと。


 遠くに見える道の木陰に休む集団。男5人に女1人、娘達だ。まだイブ様は出てこない。




 暫くは雑談で過ごす。


「ラビィ殿は人を殺したことがあるか?」


「ラビィでいいです。一度だけあります」


 呼び捨てでいいと直されてしまった。そして、殺しをしたことがあるのか。


「なら、私もツヤマでいい」


「いえ、ツヤマ様は年上ですし、いずれ我々より上役になるかもしれませんから」


 意外なことを聞いた。

『上役』に?私がか?


「その相手は殺したくて殺したのか?」


「ええ、力の限り斬りつけました。大嫌いでしたから。みんな嫌いだったと思います。でも私が一番嫌いだったかも。殺したのは仕事でなく私怨です。いずれ隊長に聞いてください。一応機密扱いですから」



「そう、そうするわ。


 私が初めて殺したのは好きでも嫌いでもない男だった。好きか嫌いかでいったら大嫌いだけど。色んな悪事をする男で憲兵も怖がって放置されてるような男だったわ。私の故郷は酷い町だった。スラムみたいなものね。お金が無い町だからギルドすら無いのよ。そんな町。その町で対処に困ってた荒くれの嫌われ者を殺したわ。そして少しの礼金を貰った。17の時ね」



 昔話なんていつぶりだろう。私の事を知って欲しかった。私はロクな人間じゃ無い事を。



「17・・・・」

 ラビィが呟く。



「本当はね、殺したのは『ついで』だったの」



「ついで?どういうこと?」



「ラビィ、貴方恋人いたこと有る?」


「・・・いえ」


「私はいたわ。幼馴染でね、いつもいつも一緒だった。恋人にもなって幸せだった。『初めて』の相手だったし、ちょくちょく夜這いされたのも嬉しかった。

 きっとこのまま夫婦になって子供産んで幸せになるんだって信じてた。


 でも、彼は私の居ない隙に他の女とサカっていたわ。匂いですぐ判るのに。相手は知ってる女。二人で私に嘘をついてたのね。今思えば、天涯孤独の私より普通の家に育ったあの女の方が『嫁』には都合がよかったみたい。早く気がつけば良かったんだわ。


 一度だけ最中を目の当たりにしたわ。慌てて隠れて二人の姿を見続けた。私の時とは違う、全然知らない嬉しそうな彼の姿を見せつけられたわ。ほんと楽しそう。頭に血がのぼった私は部屋に飛び込んで二人に殴りかかったの。そしたらね、彼が女を庇うの。


 思ったわ、私は要らないんだって。あの日が人生で一番荒れてた時だわ。」



「それで・・・

 その・・・

 彼とはどうなったんですか?」



「うーん、短く言うとそこで終わり。


 そのあとね、彼への当て付けで、さっき言った殺した嫌われ者の家に行ったの、昼間っからね。簡単に招き入れられて三日間ヤりまくったわ。


 途中買い物で外に出ると彼が居るのよ。無視したわ。きっと家の外であの声も聞いてたんじゃないかしら。私の人生の中で一番サカったのはあの三日間ね、滅茶苦茶だったわ、私もあの男も。


 そして最後に寝ているあの男の首を切り落として玄関前に飾ったわ。

 さすがはあの町。憲兵も何も来ない。逮捕なんかされなかった。ただ、近所の人がそそくさと来て、死体を捨てに行ったわ。私は放置されたまんま。

そもそも私の親も死んで兄弟も居なかったし、居候だったから帰らなくても困らなかった。殺した男の家にもう一晩居たのよ。そこで居候先の人宛の書き置きだけ書いたわ。たいした内容ないけど。


 そして私は町を出たわ。

 笑ったわ、旅立ちがあの男の家からなんだもの。


 男の家の金と剣とナイフ持ってね。誰も咎めなかった、それどころか何人かはこっそり道端で食べ物や小銭をくれたわ。殺したことの感謝だったらしいわ。あの男は町の癌だったから。


 でもあんな男と三日間ヤりまくった私は汚物ね。町を出るのを誰も止めなかった。彼は姿すら見せなかったわ。そのあと宿代がわりに何度か知らない男と寝たわ。金は使わないようにしてた。私の噂は彼にも伝わったんじゃない?

お陰であの子の父親は私も判らないわ。あの子に男はちゃんと選べなんて母親面は出来ないわ」


「それでも娘さんは愛してるんですね」


「そう。

 産む前は、産んだら捨てちまおうかなんて思ってたのに、一晩抱いて寝たら虜になってたわ。おっぱいがあの子を求めるの。両手があの子を求めるの。不思議ね」


「そうですか」


 未婚のラビィに私はどう見えるだろう?

 こんな女にはなって欲しくない。彼女はまだ若い。


 きっとイブ様も女の幸せは無い。


 ラビィ。

 幸せになれるのなら幸せになった方が良い。汚れ役なら私に押し付けて頂戴。




 草むらから眺める集団に漸くイブ様が対面する。

 なにやら話している。聞こえない。

 そして、イブ様を中心に距離を取りながら囲む。

 どうやら素性をばらしたんだろう、始まるようだ。


 私はここから動かない。

 全てを任せよう。


 男達とイブ様が戦う。

 以外と地味な戦いだ。

 イブ様の剣圧は強いが剣技が上手くはないようだ。男達の剣を力任せに防いでいる。

 何度かの打ち合いで漸く1人倒す、ギルド職員というより冒険者だろう。その後も苦戦中だ。



 芝居か。




 どう考えてもこんなに弱い筈がない。聞いた話とこの手元に有る鉄の棒が何よりの証拠。

 ラビィに至ってはどっしり座って立つ気配すらない。




 イブ様、一体なにをする気?





 ー ー ー ー ー ー




 私は私への刺客の前に立った。




「間違ってたらすまない。貴方達はジンと勇士を殺しに行くところかな?」


 かたまって水を飲んで休んでた男達が無言で私を睨む。全員が得物に手をかける。


「あんまり遅いから迎えに来たよ。やはりお前達だな」


 実は知っていたけれど、今確認した風な態度をとる。


「テメエ、なんで判った?」


「スパイを使ってるのはお前らだけじゃないんだよ!」


 デマカセだ。

 私が調べた。


 途端に六人が私を中心に円を作る。結構遠い。皆、五歩くらいの距離。だが私には一歩の距離。


 その中の唯一の女。ツヤマ殿の娘か。背中には細長い荷物を背負ってる。多分弓道具一式と何かの道具。

 手には軽めの細身の剣。

 顔はまあツヤマ殿に似ている。それ以上は言わない。


 そして、隣には糞男。

 顔はいい。ただ見ていると苛つく。いかにも女に媚びるような無駄な装飾。

 さて、ボロを出してくれると楽なんだが。


 あとは敵ABCD。

 特に強そうなのは居ない。まあ、普通より強いんだろうが。


「誰だオメエ!」


「君たちの目当ての勇士だよ」



「死ねやあ!」

 敵Aが斬り込んでくる。

 避けずにあえて剣で受ける。撥ね飛ばしはしない。

 背後から敵Bが斬りに来る!

 敵Aから離れてBからも避ける。

 あとは敵ABCDと、忙しい立ち回り。たまに地面を転がり逃げて泥臭い戦いを()()する。


「おい!」

 戦闘に加わらない糞男から声がかかる。


「こりゃあ、俺達だけで仕留められそうだ!」

「思ったより強くねえ」

「俺達だけでやれそうだ。思わぬ臨時収入だぜ」


 まんまと思う壺だ。

 どいつもこいつも欲深い、私を倒して大金欲しいんだろう。刺客への報酬聞いて羨ましがってたに違いない。


 除け者にされた刺客二人は円から出て離れる。

 狙い通りだ。


 ラビィとツヤマ殿の気配をタバコ畑に感じる。動く様子は無い、それでいい。特にツヤマ殿には出て来てもらうと困る。


 暫くABCDとの接近戦を楽しむが、あんまり長引くと不自然なのでDに死んでもらう。一応激戦の末だ。


 何も困ってはいないが、

「しまった!」

 と、いって服やポケットをまさぐるフリをする。なにか失敗して弱くなってるフリだ。忘れ物とか。





 さて、そろそろかな?





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