その30 ツヤマ宛のラブレター
夕刻、町の入り口。
「お待ちしておりました。お会い出来て光栄です」
街道を徒歩で来たツヤマ。
町のギルド員がツヤマを出迎える。
ギルド員は一見ただの商人にしか見えない。迎えられるツヤマもまた旅人風だ。
「出迎えご苦労様です」
ツヤマは下っ端相手だろうが威張らない。そうやって生きて来た。
「お1人ですか?」
「いや、明日朝もう2人来ます」
ツヤマはギルドの客人だ。
ギルド員では無い、何処にも属さない傭兵。いや、暗殺者である。
ー ー ー ー ー ー
ツヤマは宿で夕飯を食べていた。
1階の食堂で一人だけで食べる。
自分の食事の音だけが響く。
たまに女将が減ったスープを足しにくるだけ。
閑古鳥が鳴く宿だ。
宿代は自分で払っている。
ギルドが用意した宿も食事も断っている。
理由は、後から来る2人と無理無く落ち合う為に『通りの3件目の宿』と取り決めをしておいたのと、まだギルドの依頼を受けると決めていないからだ。
ギルド員とギルドの幹部から聞いた話は不満だった。
なにより相手の正体がまるで判らない。
たった一人の暗殺が失敗。
その尻拭いで差し向けた43人も1人として帰らない。
いい恥さらし。
好奇心を煽ることも有ると言えば有る。
『勇士』という存在。
噂では聞いていた。
魔族から与えられたとか。
熊のような怪力を持ち、変な果物を食べる人間ではないもの。
見てみたいとは思う。
第二王子が勇士に成り、勇士の第二王子を『隊の頂』に君臨させるために部下の勇士は小娘にしたという情報は聞いた。クーデター対策か。
なるほど、王家は考えているようだ。
ギルドが村を襲った時の様子を聞いたが、誰も知らなかった。
生還者が居ないのではしょうがない。
その時ギルドの用意した冒険者は剣士に弓士。そして夜襲した。
相手は農業の派遣と軍人数人。
決して弱い相手ではないが、夜襲をこちらから仕掛けたのに全滅とは。
どんな戦闘だったんだろう?
判らない事には準備のしようがない。
そして仕事が多すぎる。
そもそものターゲットの殺害。
捕虜の殺害。
勇士の殲滅。
なのに、勇士隊のことは仕事には入っていない。
勇士以外の隊員なら簡単そうだが、それはどうでもいいと。恐らくは、先の目標さえ倒せば後は簡単に倒せるだろうということか。難しい相手は私にやらせて、簡単な相手は自分達でやると言う事だろう。
最後の仕上げだけ自分達でやり、威厳を保ち、自分たちも仕事をする事で報酬の取り分を確保するのだろう。
この町のギルドは無能ばかりなんだろうか?
ギルドが強く安定した町では、ギルド員や冒険者が無能になる。
こういうのは多く見て来た。
ここもそうかも知れない。
さて、どうする?
軍と勇士相手か。
マトモにやりあっても駄目だろう。
毒を使う。
人質を使う。
長期戦で一人ずつ狩る。
そもそも受けていい仕事だろうか?
焦ってはいけない。
ツヤマは食事を終え、二階の部屋に上がる。
ゆっくりとドアを開ける。
女将が用意してくれたロウソクがテーブルに載っている。
赤く燃えるロウソク立ての下に紙が置いてあるのがわかる。
そして一輪の花。
紙には汚い筆跡で文章が書いて有る。
『随分血と薬クサい服だな。会うのを楽しみにしてるよ』
ツヤマは慌てて部屋を見渡す、誰も居ない!
窓を開ける、下も真上も誰も居ない。
何て事だ!
音もしなかった、女将が部屋にロウソクを運んでくれたのは数分前だ。
ずっと何者かに見られていた!服の匂いの事を言っていた!確かに匂いはする。だが、相当鼻を寄せなければ判らない程度のはず。私が薬を使う事を見抜いている。
町に入って来て直ぐに素性はバレていたのか?ギルドの行動自体が筒抜けなのか?
この仕事は受けてはいけない!
マズい相手だ。
行動が制限されてる軍相手ならやり様は有ると思っていたが、こんな相手だとは思わなかった。
軍は夜中に挑発しに来たりはしない。
普通ならこちらの動きを止める『牽制』の言葉を使うが、よりにもよって『楽しみにしてる』だ。
敵は『殺人鬼』だ。
関わってはいけない。
私を殺すのを楽しみにしている。
まさか自分が狩りの獲物になる日が来るとは!
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「怖じ気づいたのか」
「なんとでも言え。今回は止めよう。すぐアジトに帰ろう。暫くは仕事もしないほうがいい」
「何を言う。逃げ帰る気か!いままで培った信用を失うぞ!危険な仕事から逃げたら我々の価値は無いぞ。しかも相手は逃げる事は無い。じっくりやれば大丈夫だ。それに他の者に先を越されたら折角の手柄を逃す事になるぞ」
「いや、駄目だ。昨日の時点で私は既にマークされた。しかも素性の知れない相手だ、引こう」
朝、ツヤマは後から来た部下2人と合流したが、すっかりやる気をなくしたツヤマとやる気満々の部下。
話は交わらない。
部下といっても、今や腕も上がり『同僚』だ。
昔とは違い、ツヤマの言う事など聞き入れなかった。
結局、ツヤマは沈黙を決め込む事にしたが、部下2人は止まらなかった。
その後、2人は出て行った。ギルドに行くという。
ツヤマは行く2人を見送るだけだった。
確かに2人は強い。
軍程度なら問題ないかもしれない。
だが、どう考えてもマズい奴が1人居る。
ひょっとしたら、このギルドは終わりかもしれない。
ここのギルドが消えるなら、関わらず逃げ帰ってしまった方がいい。
ツヤマは強いと言ってもチートではありません。




