表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/78

その30 ツヤマ宛のラブレター

 夕刻、町の入り口。





「お待ちしておりました。お会い出来て光栄です」



 街道を徒歩で来たツヤマ。

 町のギルド員がツヤマを出迎える。

 ギルド員は一見ただの商人にしか見えない。迎えられるツヤマもまた旅人風だ。


「出迎えご苦労様です」

 ツヤマは下っ端相手だろうが威張らない。そうやって生きて来た。


「お1人ですか?」


「いや、明日朝もう2人来ます」



 

 ツヤマはギルドの客人だ。

 ギルド員では無い、何処にも属さない傭兵。いや、暗殺者である。



 ー ー ー ー ー ー




 ツヤマは宿で夕飯を食べていた。

 1階の食堂で一人だけで食べる。

 自分の食事の音だけが響く。

 たまに女将が減ったスープを足しにくるだけ。


 閑古鳥が鳴く宿だ。


 宿代は自分で払っている。

 ギルドが用意した宿も食事も断っている。

 理由は、後から来る2人と無理無く落ち合う為に『通りの3件目の宿』と取り決めをしておいたのと、まだギルドの依頼を受けると決めていないからだ。




 ギルド員とギルドの幹部から聞いた話は不満だった。


 なにより相手の正体がまるで判らない。


 たった一人の暗殺が失敗。

 その尻拭いで差し向けた43人も1人として帰らない。

 いい恥さらし。


 好奇心を煽ることも有ると言えば有る。

『勇士』という存在。

 噂では聞いていた。

 魔族から与えられたとか。

 熊のような怪力を持ち、変な果物を食べる人間ではないもの。

 見てみたいとは思う。


 第二王子が勇士に成り、勇士の第二王子を『隊の頂』に君臨させるために部下の勇士は小娘にしたという情報は聞いた。クーデター対策か。

 なるほど、王家は考えているようだ。


 ギルドが村を襲った時の様子を聞いたが、誰も知らなかった。

 生還者が居ないのではしょうがない。


 その時ギルドの用意した冒険者は剣士に弓士。そして夜襲した。

 相手は農業の派遣と軍人数人。


 決して弱い相手ではないが、夜襲をこちらから仕掛けたのに全滅とは。

 どんな戦闘だったんだろう?

 判らない事には準備のしようがない。


 そして仕事が多すぎる。

 そもそものターゲットの殺害。

 捕虜の殺害。

 勇士の殲滅。


 なのに、勇士()のことは仕事には入っていない。

 勇士以外の隊員なら簡単そうだが、それはどうでもいいと。恐らくは、先の目標さえ倒せば後は簡単に倒せるだろうということか。難しい相手は私にやらせて、簡単な相手は自分達でやると言う事だろう。

 最後の仕上げだけ自分達でやり、威厳を保ち、自分たちも仕事をする事で報酬の取り分を確保するのだろう。

 この町のギルドは無能ばかりなんだろうか?

 ギルドが強く安定した町では、ギルド員や冒険者が無能になる。

 こういうのは多く見て来た。

 ここもそうかも知れない。



 さて、どうする?

 軍と勇士相手か。

 マトモにやりあっても駄目だろう。


 毒を使う。

 人質を使う。

 長期戦で一人ずつ狩る。


 そもそも受けていい仕事だろうか?

 焦ってはいけない。





 ツヤマは食事を終え、二階の部屋に上がる。

 ゆっくりとドアを開ける。

 女将が用意してくれたロウソクがテーブルに載っている。


 赤く燃えるロウソク立ての下に紙が置いてあるのがわかる。

 そして一輪の花。

 紙には汚い筆跡で文章が書いて有る。




『随分血と薬クサい服だな。会うのを楽しみにしてるよ』




 ツヤマは慌てて部屋を見渡す、誰も居ない!

 窓を開ける、下も真上も誰も居ない。

 何て事だ!

 音もしなかった、女将が部屋にロウソクを運んでくれたのは数分前だ。


 ずっと何者かに見られていた!服の匂いの事を言っていた!確かに匂いはする。だが、相当鼻を寄せなければ判らない程度のはず。私が薬を使う事を見抜いている。

 町に入って来て直ぐに素性はバレていたのか?ギルドの行動自体が筒抜けなのか?



 この仕事は受けてはいけない!

 マズい相手だ。

 行動が制限されてる軍相手ならやり様は有ると思っていたが、こんな相手だとは思わなかった。

 軍は夜中に挑発しに来たりはしない。

 普通ならこちらの動きを止める『牽制』の言葉を使うが、よりにもよって『楽しみにしてる』だ。





 敵は『殺人鬼』だ。


 関わってはいけない。

 私を殺すのを楽しみにしている。

 まさか自分が狩りの獲物になる日が来るとは!





 ーーーーーーーーーーーー






「怖じ気づいたのか」



「なんとでも言え。今回は止めよう。すぐアジトに帰ろう。暫くは仕事もしないほうがいい」


「何を言う。逃げ帰る気か!いままで培った信用を失うぞ!危険な仕事から逃げたら我々の価値は無いぞ。しかも相手は逃げる事は無い。じっくりやれば大丈夫だ。それに他の者に先を越されたら折角の手柄を逃す事になるぞ」


「いや、駄目だ。昨日の時点で私は既にマークされた。しかも素性の知れない相手だ、引こう」




 朝、ツヤマは後から来た部下2人と合流したが、すっかりやる気をなくしたツヤマとやる気満々の部下。

 話は交わらない。


 部下といっても、今や腕も上がり『同僚』だ。

 昔とは違い、ツヤマの言う事など聞き入れなかった。

 結局、ツヤマは沈黙を決め込む事にしたが、部下2人は止まらなかった。


 その後、2人は出て行った。ギルドに行くという。

 ツヤマは行く2人を見送るだけだった。


 確かに2人は強い。

 軍程度なら問題ないかもしれない。


 だが、どう考えてもマズい奴が1人居る。

 ひょっとしたら、このギルドは終わりかもしれない。






 ここのギルドが消えるなら、関わらず逃げ帰ってしまった方がいい。






ツヤマは強いと言ってもチートではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ