その2 エラい人でも試験は有る様です
対魔人部隊の選考は2日間掛かって終わった。結果はまだまだ先だそうだ。
俺たちの後は19歳の人達が受けるらしい。
選考会の後、訓練場近くの庭のベンチでイブと待ち合わせ。
他にもポツポツと人が居る。
今日は勤務が選考会の影響で早く終わりそうだからふたりで逢おうと決めておいた。
「ジ〜ン!待った〜?」
座る俺の後ろから抱きつくイブ。人に見られるって!
イブのほっぺが俺の頬に押し付けられる、気持ちいい。背中の感触も気持ちいい!
こんなにくっついてくるのに『しちゃ駄目』って無理じゃない?お義父さん。さすがにここではしないけど。
背中にイブをぶら下げたまま頬同士を擦るときもちいい。
あ!これはきっと子供の頃のイブがお義父さんにやっていた抱きつき方だ。イブにこんな事されたら幸せだろう!メロメロになっちゃうよ。イブはちっちゃい頃も可愛かったんだろうな、ごめん、お義父さん・・・・
あのお義父さん、結婚式で泣くんじゃ?
結婚の申し込みに行ったら『殴らせろ』とか言うんじゃ?
『イブは離さん、婿に来い!』とか?二人暮らしがいいんですけど。
しかしイブが離れない。
「おいおい、人が見てるって」
「い〜の、ジンは私の物って見せつけるんだから」
凡人の俺はモテないから大丈夫だと思うけど、イブには違うらしい。
「ジン、試験どうだった?」
「ああ、あのザザーンの実は半分も食べられなかったよ。ニガいのが腐りかけた様な味で無理!結局、バケツに出しちまった」
野菜の方は平気だった。
「あはは、見てた見てた。見てる方は楽しかったよ。ジンったら、飲み込んでないのにどんどん口の中に溜め込んで、暫くしたら後ろ向いて『げええええええ〜』だもん」
「紙には『飲み込めませんでした。2度と食べたく有りません』って、書いたよ。食べた部には(皮×)(果肉×)(種×)と印をしたよ。イブは?」
「私は案外食べれたわ。(皮○)(果肉○)(種○)よ。本当は身を半分のこして種に行ってみたわ。不味かったけど、吐く程じゃないかな」
「お腹おかしくならないの?」
「なってないわ。ジンも多少不味いくらい我慢して食べなさいよ。好きな物ばかり食べれる訳じゃないんだから。それより他はどうだったの?」
「身体テストはいつも通りかな。男はいつも訓練で見られてるから今更な事だったよな。面接も普通だったし。あ、筆記テストはダメダメだったよ」
「女子の体力テストは悲惨だったわよ〜 皆走るなんて学園以来だし、体術や剣なんて、参加出来たのが10人居なかったし。あとの人は未経験で剣が出来ないから試験時間が余っちゃったわ。私は受けたけど」
イブは本当に優秀で、ある程度なら剣を使える。運動神経もいい。スタイルの良さはその筋肉のお陰も有るかも。顎もお腹もたるむことはまず無い。まさか、その美しい胸は筋肉じゃないよね?まだ直に見た事無いけど。
流石に剣は男だから俺の方が強いけど、あとはどれも敵わない。
このパーフェクトガールと付き合う俺は昨日から男共に妬みと疑惑をもたれてるよ。
そして俺はイブを物陰でこっそり抱き寄せキスをした。
「愛してるイブ」
「私もよジン」
ーーーーーーーーーー
王宮の空き部屋で2人の王子もテストを受けていた。
とはいえ、食事テストだけ。あの青い実と緑の野菜を食べるだけである。
緑の野菜は普通の味で、だいたい誰でも食べれる。
青い実は不味い。
ただ、他の若者とはちがい『我慢して食べきれ』と王子達は言われていた。
「お二方とも飲み込めましたね」
第一王子が答える。
「ああ、大変だったよ。野菜の方だけという訳にはいかないのか?」
「野菜の方は成分が少ないのです。1割以下、いやもっと少ないでしょうか。これで、お二方とも適性があると判断出来ました」
突然現れた魔国。
今は和平関係にある。
力関係で言えば魔国の方が強い。
魔人一人と人間一人を比べると5倍程の能力差がある。
筋力、耐久性、不思議な力(人間は魔力と呼んだが、魔人は科学と呼ぶ)と、どれをとっても魔人が上だ。
そして魔国はジャージャー国に人間強化の秘術を差し出して来た。
驚いたのはジャージャー国。
和平のしるしとはいえ弱者に力を与えるとは驚いた。
「人間側も相手が一方的に強いと不安で信頼関係が出来にくいだろう。魔人も皆が皆良い人ばかりではない。魔国を抜け出してジャージャー国に来て犯罪を犯す者が出るかもしれない。それに対処する力も必要な筈」
という魔国側の説明だった。
未知のものに不安はあるが、ジャージャー国は魔国の提案を受け入れる事にした。
そして個人用机ほどの黒くて四角い物体が王宮に運び込まれた。
これを操作することで指定した最大5名の人間を強化するのだそうだ。
操作は複雑で魔人にしか使えない。
強化後は最大10倍ほどの強さになるという。
そして、一度強化されたら死ぬまで継続される。対象者の途中変更は出来ない。
対象者の能力の栄養素を補給するにはあの野菜と果物が必要。他にも成分を含む食材はあったが、あれが一番食べ易いものだそうだ。既に対象植物の栽培はあちこちに分散させて始まっている。
ジャージャー国の上層部は困った。
試しに1人強化しようと思ったら、魔国から来た黒箱の技術者から待ったが掛かった。
「お試しは止めた方がいいですよ。あと4人になってしまいます。それに、その者はクーデターを成功させる程の力を得るのです。試し打ちは止めておいた方が。私は操作をするだけです。多少の助言をしますが、内政干渉になることはしたく有りませんから、皆さんでよく話し合って下さい」
もっともだった。
国軍の中の最強の5人を選ぶというのはボツになった。
当初は防衛のために最善かと思われたが、王家より強い存在ができてしまう。
こうなると、5人のうち1人を王家の人間、それも身分の心配の無い王子のどちらか。
高齢の現王は強化しない。
もしもが心配なので、王子ひとりのみ。2人ともはしない。
残る4人も悩む。
当然、王子より弱い者を選ばなければ都合がわるい。
王子が倒されてクーデターに至る可能性を減らしたいのだ。
弱い者を選んでも、4人纏まられたら王子も倒されるだろう。
そして、長い会議の結果、
1人目は第2王子アーサー(21)
2人目はアーサーの婚約者エルザ(20)
3人目は平民のイブ(18)
4人目と5人目は今回は見送られ、いざという時の為に保留になった。
婚約者エルザはまずアーサーを裏切る心配が無い。
万が一エルザとイブが結託してもアーサーは勝てるという自信が有る。
2人の王子同士なら第2王子の方が強かった。そして、第2王子アーサーは王座をそもそも欲していなかった。将来王座は第1王子のものに。
平民からイブが選ばれたのは、優秀である事。他の2人より年下な事。人格も問題ない事。
そして、対魔人部隊は国の英雄となるので容姿も重要だった。
会議で3人の候補は決まって居たが、表立っては公表されなかった。
世間には『候補』として20人公表され、3人はその中に含まれているだけだった。
ジンは選考から外れていた。