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その28 昼酒

「高いわね」



 ラビィは薬を買いに昼の町を行く。農園に持って行く分を調達しに来ているのだ。



 軍の者に見えないように普段着を着て、男の隊員を連れている。

 いくらラビィが有る程度戦えると言っても、所詮は女の域をでない。

 昼間でも男連れの方が安全だ。


 親友のイブが恋愛を諦めさせられているので、自身も女の運命をイブと共にするつもりだ。

 三勇士隊にいなければ、今頃はメイド期間を終えて普通の公務員をしていた筈で、恋人も居たかもしれない。

 今はそんな色恋は切り捨てている。


 ラビィは綺麗でもなければ不細工でもない『普通』の容姿。

 だが、『出来る女』は容姿以上に魅力的に見えるものだ。今連れている男がラビィに惚れているなど、ラビィは気付いていない。今は知っても無視するだろう。



「ここも高いわね」


「そうだな」


 薬が城下町に比べて3倍の値段だ。

 城下町よりこちらが田舎なのに高価なのだ。


 この町はギルドが端場を利かせている。

 ギルドが絡むと材料から完成品まで物価は皆高くなる。

 一番顕著なのは薬の値段だ。


 この町は山村も近いので薬の材料が手に入り易い筈だが、製剤産業が崩壊していて、他の地域生産の薬を城下町の問屋経由で仕入れている。高い訳だ。


 元々有った薬草栽培の村や薬草採取の山村は冒険者の迫害を受けて皆村を去った。


 仕事の手が遅く、間違いが多くて質が悪く、値段の高い冒険者採取の材料を優先させる為に、村は迫害されたり、採っても冒険者にただ同然で搾取された。

 それでも冒険者が腰を据えて薬草採取を本業にしたならば材料の質も上がっただろう。

 だが、採取に来る冒険者は『一時の腰掛け』だ。

 続けるものなど居ない。


 そして町の調合屋も消えた。

 薬屋として駄目な薬を作りたく無い意地がある。

 材料はギルドのゴリ押しで粗悪品を買わせられ、出来が悪いので町の外では買ってくれる者は居ない。皆、別の産地の薬を買うのだ。

 町の住民も重要な薬は買わない。買うときは別の産地の物を密かに買う。

 当然、町の調薬屋は居なくなった。



 農産物は安い。

 農産品は国の管理下だからギルドは絡めない。

 これが無かったらこの地域は崩壊していただろう。

 更に国が農園に派遣する若者の給料は国から出ている。

 季節が来て、毎年来る派遣の若者が町で買い物をすると、若干町が生き返る。

 それもその時期だけだ。


 ギルドが強い町は商人は街道に選ばない。

 倍の距離があっても遠回りする。

 盗賊はギルド傘下だから言わずもかな。

 町の宿泊費は高く、昼も治安が悪い。


 ここで雇う用心棒は信頼出来ない。

 でも雇わない訳には行かない。


 商人や金持ちの旅人は、町の入り口でギルドに用心棒の冒険者を雇わせられる。

 相場の2倍の金を取られる。

 これがギルドに対する『みかじめ料』になるから、買わない訳にはいかない。

 他所で雇った用心棒が居ても、1人や2人ならまず『何者か』に襲われる事になる。

 いや、襲われなかった事が無い。

 これはギルドからの『みせしめ』だからだ。




 流通が動いてないので、この町では魚の加工品が無い。

 海も無ければ、大きな湖も無い。泥臭い川魚だけだ。


 この町出身のココの言う事には、幼い頃はそうでもなかった、良い町だったと。

 ギルドが来てわずか十数年でこうなったと。


 いずれこの町も枯れる。


 そしたらギルドはまた次のオアシスを枯らしに移転するだろう。

 だが、一度死んだ町はそう簡単に生き返りはしない。




「だめだわ、高すぎる」


「ああ、それにどれも古そうだ。ジンの軍医殿に頼んだ方が良さそうだ」


「そうね。今日は諦めてなにか夜食を買って帰りましょう」


「それはいいけど、そろそろ何か食べないか?そこら辺の店に入ろう」


 男にとっては貴重なラビィとの時間。一緒に食事だけでも嬉しい。

 ラビィにとってはどうでもいい事だったけれれど。


「此所にしましょう」


 適当に入った店で食事を注文する。

 平たい薄焼きパンを10枚。それと載せるオカズ。

 そしてオニオンスープ。


 何気ない食事を2人で食事を楽しむ。

 どうでも良い会話が楽しい。




 ふと、店の角に居る客の会話に意識を奪われる。

 中年男のガラの良く無い2人。

 食事をしながら農園での事件を話している。



「結局、今日も誰も帰ってこなかったな」


「俺も『帰った』とは聞いてないしな。やっぱり全滅か」


「次は俺達も行くのか?」


「いや、判らん。上は色々考えてるみたいだ」


 どうやらコイツらはギルド傘下の冒険者だ。

 気が緩んでるな。酒を注文している。




「あの数で駄目なら俺達が行っても駄目だろ。おれぁ、死にたくねえ」


「俺もだ。上も馬鹿じゃねえだろ、このままじゃ駄目になる。元々はあっちのボスの依頼だろ。あっちにも痛い想いをしてもらわんと俺達が馬鹿みてえだ。なんでこっちばっかり死ぬんだ」


「一度、あっちも何十人も行って失敗すればいいんだ」


「そうだよな」



 コイツらの考え方はロクなもんじゃない。

 自分たちが失敗なら、他も失敗すれば良いと。


 それより、『あっち』とはなんだ?

 『9』だろうか?



「あああ、やだやだ」


「ヤメになんねえかな?」


「今日決まるのか?」


「そうだろ。今夜決まるだろ」


 そう言って、冒険者は酒を追加した。

 まだ昼だっていうのに。

 この様子ではコイツらは会議に出る事は無い。下っ端すぎる。




 そうか。

 今夜ギルドの会議が有るのだな。


『あっち』の者も居るんだろうか?

『あっち』のトップは親衛隊長なのだろうか?それとも更に上がいるのか?



 ここで冒険者を捕縛してしまいたかったが、ギルドの警戒を高めるのは悪手。


 ラビィ達は店を出た。

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