その24 心霊スポット
この村に諜報活動しに来てもう2日目が終わった。
農園主の家に寝泊まりしているのだが、農園主のじいさんや若い派遣から世間話しながら結構聞き出せた。
どんどん情報の方からやってくる。無理に聞き出すどころか、ここでは今この話題で持ち切りだからだ。
若い奴らは好奇心旺盛でどんどん見に行き、話してくれる。
割と楽な仕事だ。
稲刈りさえ無ければ最高なんだが。
最初に襲われたのはジンという男。重症だがまだ生きているという。
今は麻薬中毒になっているらしい。
その時の実行犯は捕縛されたと。野盗みたいな感じの男ふたりだそうだ。
そのあと、怪我人のジンと犯人を連れて十数人が空き家に移ったそうだ。
それまでジンのうめき声で夜寝れなかったから,居なくなって良かったと。
半分人が居なくなったから部屋も広くなって楽々したと。
あのとき空き家に移動していった奴らはただの派遣にしては変で、強そうだったという。
7日後の夜に何十人も冒険者が襲って来たという。
自分たちは恐ろしくて外に出なかった。
朝になると全て終わってて、攻めて来た冒険者が全滅していた。
そして、軍の人が十数人も居てびっくりしたと。
始末された冒険者の死体は村の墓地の更に奥の山あいに捨てたらしい。
聞いた話はだいたいこんな感じだ。
それと俺が前もって聞いた話とあわせて考える。
最初にジンという男を殺そうとしたのは知っている。
そもそも、殺し損ねた所からおかしくなったのか。
いや、暗殺者が捕まったのが失敗だ。
しかもその暗殺者は野盗の振りをしていたのにギルドの者とバレたのは痛かった。
間抜けな奴かともおもったが、相手が軍の人間だとなあ。
そしてだ。
43人でジンの殺害と捕まったギルド員二人の口封じで向かったが、運悪く後から来た軍に全滅させられたと。
40人以上で攻めれば10人程度敵が増えても簡単だ。
しかし、全滅した。
俺にギルドは『その軍の奴はヤバい奴かもしれない』と言われた。
なんでも噂の『勇士』がいるらしい。
大熊のような怪力を持つんだそうだ。
そのくらい、斬り殺せば倒せるだろうにと思うが、実際他にも軍人がうじゃうじゃ居るのではどうしようもない。
若い奴に
『強い奴はいるのかな』
と、問えば、
『う〜ん、わからん』
とのことだ。戦闘は見ていないからわからないか。
あと知りたいのは、軍のやつらの様子、それからギルド員の生き残りが捕まっているのかいないのか。
生き残りから情報が漏れるのはマズいだろう。
そして元々のターゲットのジンという男の現状。
調べるだけだ。
殺しも仲間の救出もしなくていい。
あの軍のテントやジンが居る屋敷に行きたいが、恐すぎる。
露骨に警戒されてる。
見張りが居ない事が無い。夜中でもだ。
稲刈りに例の軍の奴らも数人手伝いを出してくれるそうだが、食事も別で会話できないし、作業中も会話してくれないと言う。
ギルド員の生き残りが居るかどうかを調べるには・・・
死体の数を数えるしか無いか。
ーーーーーーーーーーー
月明かりの中、俺達二人は山にはいった。
ギルド員の死体を見る為だ。
夜の散歩のふりをして出て来た。
稲刈りが嫌になって逃げたとは思われてないだろう、給金は後払いだし。
二人で代わる代わる軍の奴らの居る屋敷の様子を伺おうかと思ったが無理だった。
昼も夜も見張りがいる。
ただ、ジンが生きているのは判った。
派遣の若い奴らが
『あのうめき声はジンだ』
と、言っていたから。
ギルド員の生き残りが居るかどうかはやはり死体を数えないと無理。
場所は村の墓地の更に奥。
あんまり人通りは無い墓地への道の筈なのに判り易かった。
何しろ、最近何度も人や台車が行き来していたあとがあるから。その痕跡を辿るとあっけなく目的の場所に着いた。
生ゴミの腐った匂い。
糞尿の匂い。
血の匂い。
死体は見える所にあった。
土も掛けられていない、布も枯れ草も掛けられていない。
死体は順序よく並べられていたが、皆、ずたずたに切り込まれていた。
カラスの貪った痕なのか、内蔵が引っ張られている。
虫も凄い、ハエやウジが大量発生していて気持ち悪い。
だが、顔は不思議なくらい綺麗だ。
戦闘で死んだ者が殆どだろうに、顔は傷がない。
知り合いが何人も横たわる。
明るい時に見ればもっと居るのが判るんだろうが、暗くて・・・
『まさかこいつが!』っていう強い奴もいた。
「うわくぁ!」
相棒が驚いた声を上げる!
なんだ、どうした?
「どうした?」
「今、誰かが居た様な」
「見つかったのか?」
「い、い、いや、見えた気がして後ろに下がったらよろめいて、次見た時には何もなかった」
下がってよろめいたって、びびって転けたんだろ!
「軍の奴か?」
「いや、わからない。幽霊かも・・・・」
ビビりやがって。
「待ってろ」
俺は静かに辺りを見渡し、物陰になりそうな所を音を立てないように見て回る。
誰も居ない。
「も、戻ろうぜ」
「死体だらけで不気味だけど、びびるんじゃねえ、しっかろしろ!」
だめだ、こいつはすっかり怖じけづいてる。
お前まで怖がると俺も恐くなるじゃねーか。
「我慢して、数だけ数えよう。そしたら帰ろう」
「あ、ああ」
綺麗に並べてあるから数えるのはすぐ終わる。
こんな不気味な所、すぐに出たい。
俺達二人は手分けして何度も数え、死体が43体であるのを確かめあった。
2人囚われてるかもしれない。
これ以上は無理だ。恐ろしい。
幽霊も怖いが、軍も恐い。
稲刈りの契約期間が切れる前に帰ろう。
「戻ろう」
「ああ」
早足で帰る。
早く出たかった。
去る二人の様子を高い木の上から見下ろすイブ。
手には大鎌
夜でもギラつくイブの目。
幽霊と言われても違和感がない。
いや、死神の様な姿だった。