その20 ホステスから介護士へ
「イブ、ちょっとこっちへ」
「ラビィ、待ってて」
私イブを外に呼び出す。
イブがごしごしと顔を手で擦る。
涙を拭いたくらいでは泣き顔なのは隠せない。
イブを外に連れ出し、転がる丸太に座らせる。私も座る。
ジンについてこれからどうするか話が有る。
「イブ、さっきの貴方を見て思ったの。ジンが意識を取り戻したらどうする?ジンに会う?会わない?ジンに会うのが恐いの?」
「どうしたらいいか判らない。今の私じゃ恐くて会えない。今の私を見られたく無いの。でも会えなくなるのも嫌・・・」
やはりか。
イブの心は袋小路にいる。
「ここの人達に聞いたけれど、ジンは今麻薬中毒で起きてる時は酷い姿らしいわ。鎮痛剤に使った麻薬の影響で昔のジンじゃ無い。薬欲しさに暴れたり幻覚を見たり正気ではないらしいの。襲われた時の記憶も蘇って叫んだりするって」
「そんな・・・」
「イブ、どうする?」
「どうするって・・・」
「寝ている時に見るのは構わないわ。起きている時に会う自信が有る?」
寝姿なら、もうジンの側で見てしまっているから今更だ。
悩むのは起きている時だ。
私がジンなら、狂っている時の姿は見られたく無い。
いや、どうだろう?
やはり会いたいだろうか?
イブの方も自分の姿に迷っている。
「どうしよう・・・」
戦っている時は迷いの無いイブ。
なのに今はなにひとつ決められない。
「なら、」
私の声にイブが肩を小さくする。
イブが私すら怖がる。
「イブはどうしたいの?
迷わず側に居るか、
姿を見せない事にするか、
いつになるか判らないけど、正気になるのを待つのか。
少しの間考えて」
あえて『3択』とは言わなかった。
人には色んな選択肢があるし、途中で気が変わるのも当たり前。
そんな事は解ってる。
ただ、イブの中で何かが決まらないと何も出来ないままになる。
うずくまって泣いてばかりではイブの為にならない。
イブは強い心なんて持っていない。
だから私が道を教えてやらないといけない。
あくまで私は友人。
イブの友人であって、三勇士隊の奴隷じゃない。
イブが『もう戦えない』と言えば無理強いはしない。
夜明けだ。
蝉が鳴き始める。
一匹鳴くと他も泣き始める。
夜ここが戦場だったなんて蝉には関係ない。
村通りを馬が来る。
私達と同じ制服、パティが来た!
私達とは別行動で後からここに来たパティ。
パティは隊長とエルザ様に何か報告しているのが見える。
そして、隊長、エルザ様、パティの三人がこちらに歩いてくる。
隊長はイブの前に屈み、
「薬が届いた、ジンの薬だ。これを飲ませれば少しは良くなる」
イブが目を見開き、屋敷の方を向く。
屋敷の中に眠るジン。腕が無いだけじゃなく、相当弱っている。
あの状態から生きられずに死ぬ者も多い。
「今まで誰がジン君の看護をしていたのだ?薬を飲ませる役が要るのだが」
ジンの看病してるのはだれだっけ?
「ココに聞いてもらいましょう」
私は皆を置いてココを探しに行った。
ココは屋敷の中で寝かされた怪我人たちの側で休んでいた。他にも数人女性が一緒だ。
応急手当も一段落ついたところらしい。
「ココ。ジンの世話をする人は誰かしら?教えて欲しいのだけれど」
「ラビィさん。、すいません。うとうとしてました。軍医さんも今居ないから、決まった誰かというのはないかも。それに今は他にも怪我人だらけだし、誰かに誰かが付くという訳じゃ無いです」
「他の者には悪いけれど、ジン専属で1人出してもらえないかしら?」
他にも怪我人は居るが、ジンを特別扱いしたい。
ジンはイブの大事な人。要人である。
さっき、パティがジンの為の薬を持って来たが、それはジンだけに用意された薬。
他の怪我人には用意してない。あからさまな特別扱い。
他の怪我人や人にはその薬の事は見せたく無い。
出来るなら、ジンだけで一部屋使いたい所。
そしてそれ以上に、両手が無い怪我人の看病は下の世話もかかる介護の様なものだ。
しかも、薬物中毒にもなっている。
わざわざ自分からなりたいなんて人は居ないだろう。
イブならやりたがるかもしれないが、細やかな作業ができない勇士では駄目だ。
そしてもうひとつ大事な事が。
「ジンの容態が落ち着いたら三勇士隊本部まで運ぶ事になるが、世話係はそのとき一緒に行ける者がいいのだけれど」
この農園に居た部隊『第4派遣部隊』は皆一緒に旅をしながら現場から現場を行く。
家族の様なものだ。そこから1人離れろという事。
「私で良ければジンのお世話を致します」
ココが立候補する。
「そもそも私はジンの為に来た女ですから」
有り難い立候補だが、その言葉はちょっとイブには聞かせられない。
私は人選を隊長に報告した。