その19 お互い変わったね
今日初めて人を殺した。
最初の1人を『壊した』時に何も思わなかった。
ぼごぉ!と冒険者の身体が壊れる感触を手で味わい・・・
次の冒険者には更に早いスイングで殴りつけた。
相手が殺されて当然の冒険者だったからだけではないと思う。
私の大事なジンを殺そうとしたギルドの者だからだけではないとおもう。
たぶんもう、私は壊れているのかもしれない。
この2年近くの間の出来事のせいだろうか?
それとも『勇士の身体』のせいだろうか?
今までの生活を捨てされられて、
ジンと引き離され、
女の幸せを奪われ、
人としての尊厳も奪われ、
顔も醜くされ、
身体も人間ではなくなった。
欲望の為に生きる冒険者を見た時に嫉妬を超える恨みさえ持った。
ましてや、ジンを襲った奴らなら『斬らせろ!』と思うのは、私にとっては当然だった。
ギルドの傘の下、剣を持ったくらいで強気になる冒険者。
こいつらは今まで何をして来た?
殺していいよね?
棒は全て振り切った。
死んだフリしたところで見逃しはしない。
身体の電波を見れば、生きてるくらい判る。
対峙した冒険者は殆ど殺した。
たまに生き残りが居る程度だろう。
隊長から『敵の顔を傷つけるな。身元確認に必要だ』と言われたから奴らの顔は綺麗なままだ。顔に傷有りの私なのに敵の顔には傷をつけない。優しいと言って欲しいものだ。
エルザは半殺し程度にしている。
エルザはひょっとしたらまだ1人も殺していないかもしれない。
『死んでしまった者』はいても『殺した者』はいないかも。
その生き残りで取り調べはできるから構わない。
ー ー ー ー ー
「イブ! 来て、ジンよ!」
エルザが私を呼ぶ。
途端に私は恐くなった。
愛する人。
会いたかった人。
戦ったのはこの人の為!
でも、会うのが恐い。
さっきまでの私、今の私は『ジンの愛するイブ』じゃ無い!
人間とは違う身体。
醜い顔。
平気で人を殺せる心。
会いたい!
でも会えない!
自分を見せるのが恐い!
恐い、会わずに去ってしまいたくなるのに、会えないのは嫌という二人の私が居る。
「イブ、早く来て!ジンはかなり重傷よ」
『重傷』という言葉を聞き、本当なら我を忘れて駆け寄りたいのに、それでも恐くて動けない。
エルザが私を連れに来た。
肩をつかまれ、ジンの居るであろう方向に押される。
私の足は逃げたいのか行きたいのか判らないでいる。
「ジンは眠っているわ。静かにね」
その声で漸く私は歩く事が出来た。
寝ているから会えるなんて私は酷い女だ。
寝顔のジン。
2年も経ってないのに、10歳は老けたみたい。
汗と血でべたついた髪。
額の怪我。
やせこけた顔。
右手は肘から先が無く、左手はほぼ全部無い。
私の勇士の身体ではジンを抱きしめる事は出来ない。
だから、ジンに抱きしめて欲しかった。
私は抱きしめる事は出来ないけど抱きしめて欲しかった!
結婚なんて出来なくても、愛してくれてなくても良いから、一度で良いから抱きしめて欲しかったのに!
まだ、左手があるって言ってたのに!
私が勇士だからジンがこんな目にあったの?
私はなにかしてしまったの?
私は何をすればジンはこうならなかったの?
私だって勇士なんかなりたく無かった!
いっそ、私が死ねばジンは自由だったの?
ジン、私を愛してる?
ジン、私は愛してる。
ジン、私を恨んでる?
ジン、恨まれても仕方ないね、私。
涙が流れる。
この世に神様はいないの?
誰か助けて!
ジンを助けて!
ジンの両手を返して!
私が悪いのなら私をあげるから、ジンを助けて!
私の腕でいいならジンに両手ともジンにあげて!
泣いても泣いても、無くなった物は戻ってこなかった。




