その18 再会
圧倒的だった。
俺の所に来た顔の壊れた女は、
「生きてる!」
の返事だけ受け止め、
「じっとしてろ」
と言い残して冒険者に向かって攻撃を仕掛けた。
手に持つのは身の丈より長い鉄の棒!
圧倒的なリーチの長さで相手の間合いの外から次々と打ち倒す!
身に纏うのは防具も兜も無い軽装、つまり、ただの軍服だ。
頼りない月明かりなのに迷いなく敵を捉えて確実に仕留める!見えているのか?
普通なら月明かり程度だと、相手を見て敵味方か確かめる為に一瞬躊躇するのだが、彼女には見えているみたいだ。次々と賊の断末魔が!
刃がついていない棒なのに打たれた奴は次々と地面に転がる!
冒険者は剣や防具で受けるが、女はその防御ごと敵を『たたき壊す』
腰をすえた防御の構えも女の攻撃の前には何の役には立たない!隙をついて斬りきるも、刃が届く前に棒で撃ち抜かれる!
冒険者達もそれなりに強い筈だが、構えた剣や防具ごと打ち抜かれるからどうしようもない。月明かりで見えるとはいえやはり暗くて大変なのに女はまるで昼間のように冒険者の位置を捉える。
気がつけば、もう1人同じくらいの女が居て、同じように棒で無双している。
そして、冒険者が逃げようにも外野を軍服たちが囲んでいて逃げられない。
すっかり立場が逆だ。
だが、冒険者は戦う事を止めない。
当然だ。
彼らは今まで逮捕されてはいないものの、余罪を山のように持っている。窃盗、強姦、恐喝、放火、そして暗殺。
ここで逮捕されればお仕舞なのだ。降伏など無意味。
あっ!
弓者の生き残りが顔の壊れた女に矢を射る!
危ない!と言おうとしたが、女は後ろに目が有るかのように反応して顔を反らし、矢を素手で掴み、近くに倒れてた冒険者にぶすりと刺した。
「ぐあ!」
と声がする。
生きていた!死んだふりだったか。
知ってて刺した?
凄い!飛んでる矢を素手で取るってあり得ない。
あとは呆気なかった。
見渡せば倒れる冒険者達。数はゆうに40人はいる。
そして、それらを拘束する軍服達。三勇士隊の者だろう。彼らは戦っては居ない。
二人の女が殆ど倒した。
俺達が数人倒すだけでも随分掛かったのに、彼女らはあっという間に残り全部を殲滅したのだ。ただの棒で。
俺は軍服の者に肩を貸され、平和がもどった建物に入って手当をされた。
中に入った時に見えたのは、眠るジンの横に黙って座る顔の壊れた女。
泣いている。あんなに鬼神の様だった姿が嘘のよう。
ああ、彼女がそうなのか・・・・・
すまない、我々が至らないせいでジンは両手を失ったんだ。
本当にすまないと思う。
そしてその女の肩を抱くもう1人の強い女。
恐らくは慰めているんだろう。
怪我の手当をされながら俺は彼女らがあの有名な『勇士』なのだと思った。
頭上を高く飛び越し、刀より遥かに重い鉄の棒を軽々と振り回して敵に近づく事さえ許さず倒し、飛んで来た矢を素手で掴む。暗闇でもまるで見えているかのように敵を捉える。
これが勇士か。
冒険者の生き残りの捕縛、ケガ人の手当が一通り済んだ頃、俺は1人の女を捜した。
左足が痛くて動かせないが歩く。
どこだ!居るんだろ!
たとえ後ろ姿だってお前だとわかる!
弓者を斬った女のシルエットがおまえに見えた!
それは呆気なく見つかった。
軍服達と一緒に居る1人だけ格好の違う女。
「ココ!」
びくりとする背中。
俯いたままこちらを向く。
声をかける。
「ココ、生きてて良かった!援軍助かった、ココのお陰だ」
「カイ・・・」
動く右腕でココを抱き寄せる。
生きていた!
それだけが嬉しい。
安心したのか、力尽きたのか俺はそこに座り込んでしまった。かっこ良くココを抱きしめたいのに力が入らない。
壁に寄りかかる形になる。
生きてるココを見れたせいで力が抜けた。
ココが俺の背中に背もたれ代わりに盾を斜めに置いてくれる。
「もっと早くすれば皆が怪我しなかったのに。ごめんなさい」
俯きながら喋るココ。謝らないでくれ。
「いや、いいんだ。ココが無事なら」
「無事じゃないよ、ダロスが死んだわ。ダロスのお陰で私は生き延びた」
ダロスが!
ダロスはジンの護衛の現場指揮のひとり。あとひとりは俺だ。
ダロスは新米時代からの親友。
彼は強い。
ココの側にダロスがいるなら頼もしいと思っていたが、ダロス・・・
「最初の町で軍医呼んで、本町に行って憲兵隊に事件を報告して、本部に行く途中で襲われたの。多分憲兵そのものが敵か、憲兵の中に敵がいたのだと思う。何人も追っ手が来て、ダロスは私を逃がして追っ手を食い止める為に戦って斬られたの」
「ダロスが死ぬところは見たのか?」
「最後に見たとき、首から胸辺りまで斬られてたの。死んだと思う。でも後で聞いたら死体は無かったって!隠滅されたの!」
ダロス・・・
ありがとうダロス、お陰でココは生きてるよ!
そして、すまない。
言いたい事は一杯有る。
聞きたい事も一杯有る。
でも俺は疲れからか、それとも血を失いすぎたのか、そのまま意識を失った。
そういや、寝不足だった。