その16 そろそろだよね、色々と
稲刈りシーズンに入った。
作業に入っているのは15人。
本来30人の隊だが、1人が戦力外、2人はここに居なく、12人が交代でケガ人と捕縛した罪人の見張りをしている。
半分の人数で仕事をしているので、捗らない。
捗らない分、長めに作業するのでいつもの年より疲れる。
そして、また賊が来るかもしれないので気が抜けない。
賊が来たら作業中の我々も当然加勢する。
刀を常に持っていたいが、作業の邪魔なので腰には付けられない。
側に刀を置いておくが、作業が進むと居場所も変わるので、刀の置き場をちょくちょく変えに歩く事になる。面倒だし、仕事が遅れる。
昼休みに、ケガ人のジンの様子を見に行った。
「ジンはどうだ?」
「カイさん、今は眠っています。午前中少しおかゆを食べさせました」
「そうか、持ちこたえてくれればいいんだが」
「なんとも言えません」
カイの世話をしている軍医助手の娘が答えてくれた。
軍医様は自分の町に一度帰ると言って、朝から居ない。
正直、やれる事はやったので、あとはジンの生命力次第と言った所だ。
最近切り落とした左腕は今の所、新たな腐りは見られない。
それだけが不幸中の幸いだ。
だが、確実に弱っている。
もう随分と睡眠薬と痛み止めを飲み続けているジン。
これらは簡単に言えば麻薬だ。
既に依存症状が出ている。
苦しみ出すとしきりに薬をくれと訴える。
身体が痛いのと禁断症状の両方だ。
仕方ないので、おかゆに混ぜて出す。
これに薬を入れたと言ったら食べてくれた。
こうでもしないと、食欲の無いジンは食べ物を口にしないので麻薬だのみで食わせている。
起きているときのジンを見ると、とても正気には見えない。
言動がおかしい。
関係ないことを喋り、見えない者に返事を求める。
もう狂ってるかもしれない・・・
何日も痛みにさらされ、痛み止めに麻薬を飲まされ、斬られたときの恐怖、救いの無い自身の境遇。
狂ってしまった方が幸福かもしれない。
いやいっそ、死んだ方が楽だろう。
だが死なせる訳にはいかない、それが我々の『任務』だから。
すまん、ジン。
ーーーーーーーーーー
夜が更けてからヤツらは来た。
「20人は居るな」
「冒険者が殆どだな」
「あの伏せかたはそうだな」
「出るか?」
「いや、弓の的になるのがオチだ。射られない為には後手に回るしかない」
「もっと増えるか?」
「いや、奴らも隠密でいたいだろうから、今居るので殆どだろう。だが、ギルド自体は100人以上いるはずだから、これで終わらないだろう」
「マズいな、皆を起こそう」
家の回りには賊が集結していた。
どう見たって役人でもなければ、軍でもない。
まだ数十メートルは距離が有る。
こちらの様子を伺っているんだろう。
家の中には護衛対象のジン。
それと、ジンを襲いに来てしくじって捕まった賊二人。こいつらの口封じか救出も来るだろう。
狙われるには充分だ。
対するこちらは27人。
だが、何人かは護衛対象の3人に張り付かなければならないし、10人はヒヨっ子と女。
こういう時、雨が降ってくれてれば外に居る賊の方が寒さに体力を削がれて動きが鈍り、近寄られた時に建物に火を放たれる心配も減る。
雨の雑音はこちらも賊もお互い様だ。
だが、今は晴れている。星空だ。
捕縛した賊の取り調べと連行の為に憲兵か軍が来る筈なのに、賊が来た。
やはりジンの殺害を依頼したのは役人に繋がりを持つヤバい奴だ。
ココの報告を逆手に取って我々を殺しに来たのだろう。
証拠を消す為に。
ココは無事だろうか。
生きていてくれ。
ココも殺されたかもしれない。もしかしたら殺される前にもっと酷い事も。
でも無事に逃げきれているかもしれない。
判らない!
判らない!
ココ!
見張りを除いた全員を集めて俺は言った。
「はっきり言っておれたちは不利だ。奴らは俺達の事を判った上で戦力を用意している筈だ。俺達は知りすぎている。奴らの大半はギルドだ。奴らは俺達を生かす気は無い。降伏しても殺される。こんな事になってすまない」
皆、暗かった。
投降しても殺されると言ったが、そうだろう。
相手は冒険者だ。
情けが通じる様な相手じゃない。
中にはジンの事を知らずに過ごしていた隊員もいた。
その者達にとって不幸でしかないだろう。
すまない。
「状況は最悪だ。でも、朝まで時間を稼げば好転するかもしれない。夜中に来たのはやはり『闇討ち』なんだろう、昼間は都合が悪い筈だ」
気休めの言葉だが、こんなものでも諦めない目標にはなる。
事実、悪党は明るい所を嫌う。
そして、数人の女性に向かう。
「こんな事になってすまない。相手は恐らく冒険者だ」
『冒険者』
これだけで言いたい事は殆ど伝わっている。
冒険者とは、性欲の大半を犯罪で発散させる、愛人や恋人が居るなんて稀だ。結婚している冒険者も似た様な者である。
「いざとなったら自分で頼む。すまない、俺は毒は持ってないんだ。本当なら、自殺用の毒を持たせたい所だが、何も無い、すまない」
冒険者は、生かす必要の無くなった女は、そのまま殺すか犯してから殺す。
結局、投降しても助からない。
自害の助けを出来ない事を心の中で謝った。
「ただ、最後の最後まで諦めないで欲しい。俺も諦めないから」
ああ、諦めない。
最後まで藻掻いてやる。
奴らが恐れるくらいの事をしてやる!
そして、心の何処かでココが助けを連れてくる事を願っていた。
「いよいよだ、来るぞ!」
仲間の声に反応して外を見ると、掛矢を背負いながら一本のデカい丸太を3人で持つやつらと、それを護衛する4人の賊が少しずつ距離を詰めてくる。
弓さえ有ればこちらが有利なのに生憎ひとつも無い。
戸か壁を破る気か!
火を放たれない分だけマシかもしてない。そういえば、奴らは『ジンの死』を世間に知らしめるのが目的だったな。焼死体では見分けがつかない。
「やられるものか!」
俺は仲間数人と急ごしらえの盾と剣を持って迎撃の為に外に出た!