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その13 殺人許可証 アーサーの苦悩

「勇士特権についてだが」


 三勇士隊の定例会議。

 今の議案は『勇士特権』についてである。


 似た物に『王族特権』がある。

 王族は国内において数々の優遇がある。

 物の徴用、人材の徴用、民事の介入、他も色々あるが、何と言っても殺人許可がある。

 平たく言えば、国民を殺しても罪にならないのだ。無論訳も無く殺して言い訳ではないし、罪にはならないが賠償責任は有る。間違えた殺しをしても罪にすることも出来ない、だが王が弾劾する事は出来る。それは王のみに与えられた権限である。

 つまり、国王は誰も弾劾できない。


 これに劣るが近い権限を勇士に与えようと言うのである。

 勇士に『戦闘力』があっても『権力』がなければ大した事は出来ないのである。

『悪い魔人』は想定しているが『悪い魔人に協力する人間』相手だと困る。いちいち上層部や議会に判断を仰いでいたのでは現場では間に合わない。現場に居る勇士の独自の判断で全てを行えるようにしなければ、戦力としては半分も生かせない。そして特権は人間の起こした『犯罪』に対応する作戦の場合にも絡んでくる。


 軍や親衛隊が作戦活動する時には、『王』の勅命により『部隊長』に対し、作戦中のみ権限が与えられる。


 今回の会議は勇士の3人に特権を与えるかどうすうるか。


 隊長のアーサーはそもそも第二王子なので『王族特権』を持っている。

 問題は残るふたりだ。

 当面は隊長の管理下でというのはいい。将来どうするか。

 エルザ、イブが小隊を組んで独立活動するときはどうするか?



「勇士特権は隊長だけにするべきでしょう。あの二人には与えるべきではない。あの二人は国益の為だけに生きているとは思えない。所詮女で考えが浅はかで感情に逆らえない」

 親衛隊長は反対派だ。



「将来を考えれば私はそれぞれをトップにして3隊に分けるべきだと私は考えている。この3隊は分散させたい。そうなれば独立して動く為にも権限がいる。それに彼女らが劣っているとは思わない。今はまだ至らない所があるが、私は彼女らを信頼している」

 アーサーは3人とも特権を持たせ、将来は隊を3つに分けるつもりだ。



「私はそうは思いません。所詮は軍経験の無いただの女。いや失礼、エルザ殿は隊長の女でしたな。国の直属の隊の隊長は無理です。分散なら親衛隊で引き取りましょう。それがいい。有効に()()()()()()()()()()よ」

 親衛隊長はアーサーを挑発しつつ好き勝手な要求をぶちこんでくる。



「お断りする!」

 感情剥き出しで大人げないが言い放つ。

 親衛隊長は我々の力を削ぐつもりだ。しかも自分の道具にする算段。

 親衛隊としたら自分達より上の存在が出来たのは面白くないだろう、今も発足したての我が隊の指導と称して干渉しまくる。


 なにより『人間』を捨ててまでこの道を選んだ私達を()()()する親衛隊長に怒りを覚える。


 その後、私と親衛隊長の相容れない醜い言い争いを会議室中に晒して会議は終わった。実際は会議打ち切りだ。




 ーーーーーーーーーー




「最近、面白いことをなさっているようですね」


 定期的に私達の身体を検査しに来る魔族の技術者が私に言った。

 魔族の技術者は黒い箱を操作しながらなにやら私達の身体を調べているが、どういう仕掛けなのかはさっぱり解らない。使い方も解らない。

 私の身体に全く触らないのに全て読めるようだ。

 彼らは『テレメトリー』と呼ぶが何の事だかさっぱり解らない。


 魔族の技術者が言う『面白いこと』はあの事かも知れない、私とエルザとイブで練習している念信の事かも知れない。

 あれは三人だけの秘密だ。バレたくはない、しらばっくれる事にした。


 なのに魔族の技術者は構わず続ける。部屋にはなにも知らない護衛が居るのが都合が悪い、知られたくないのに。


「面白い物をお見せしましょう」


 魔族の技術者は自身の鞄から取り出した小さく固そうな札を机に置き何かの操作をした。


「どうです?」


 俺は驚いた!


 私達三人が使う念信をこの札が出している!

 しかも圧倒的な『量』だ!

 私達のしていることは短文の送信だけだが、この札はなんというか『一億人の大合唱』のような凄さだ。


 途端に別室のエルザとイブが『何?』と送ってきた。慌てながらも『落ち着け』と返した。

 護衛はただ立ってるだけで何も感じないようだ。彼に気付かれないのは助かった、いや感じないから当然か。


「これが我々のレベルです」


 俺は全てを悟った。

 敵うわけない。この他にも多くの技術を持つであろう魔族。

 我々人間は筋力と戦闘力の差ばかり比べていたが、そんなものだけでは埋まらない大きな差がある。

 どうやったって敵うわけがない。

『勇士』の力なんてあっても魔族には敵うわけがない。我々はなんて弱々しいのか。


『ワレワレモ ヨワイノデス。

 ナンドモ ホロボサレソウニ ナリマシタ。

 アナタタチヨリハ ツヨイデスガ ワレワレハ ヨワイホウナノデス』


 思わず顔を起こすと魔族の技術者と目が合った。これは彼が送って来たのか!私達の信号を理解している!

 それにその内容が驚きだ!

 彼等でさえ勝てない相手が居る!


『嘘だ信じられない』


『コンド オシエマショウ』


『わかった』


 魔族の技術者は無言で箱を弄っている、護衛の者にはそれしか見えないし念信は感じない。私と魔族が会話してるのは感付かれては居ない。


『コンナコトモ デキルンデスヨ。カレヲ カンジテクダサイ』


 なんだ?


 魔族の技術者が護衛に向き話しかける。


「貴方、お名前は?」

「ユダといいます」


「貴方は結婚はしていますか?」

「いえ、まだです」


「貴方も勇士になってみたいですか?」

「え?あ、ええと、遠慮します」


「まあ、それがいいかもしれません。ところで貴方はイブの裸を見ましたか?」

「い、いえ、居合わせましたが見ていません」


「それは勿体ない」

「いえ」



 俺は二人を、いや護衛を観察していた。『カンジテクダサイ』と言われたので『感じて』みた。

 護衛の彼からなにか感じる。

 体の表面になにかピリッとしたものが流れるのが感じられる。見えるんじゃない感じるのだ。今までも感じたことは有るが、理解できなかったので気にしないことにしていた。

 護衛の言葉によって色々反応が違う。

 一番変なものが走ったのは『見ていません』と言った時だ。


 直後、魔族の技術者から

『コノヒトハ ミテイマスネ』

 と、送られてきた。


 そして、

『レンシュウスレバ  ウソヲミヤブレルヨウニ ナレマス』


 魔族は私に向かって微笑んだ。



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