その12 ヤブ医者め!
米農園の集落にあるとある家。
元は壊れかけの空き家だったが、隊の皆で修理してジンを運んだ。
農園主に直接は迷惑は掛けられない。
昼も夜もうめき続けるジンを置いておけない。
米の刈り取りまでまだ猶予が有ったので助かった。
屋根を張り直し、床を直し、今はジンの療養のための家となっている。
ジン以外にも仲間や軍医が泊れる様な広さはある。
元々は10人くらいの家族が住んでいた家らしい。
「駄目だ。切るしか無い」
先日からジンの手当をしている医者が皆に言った。
予想出来たとは言え、落胆は大きい。
賊に襲われた時に両手で頭を庇ったジン。
ジンは右腕を失った。
右腕を切り落とした刀はその勢いで左手をも切った。
しかも刀の勢いは止まらず頭も切った。
右手を失ったジンは左手も失おうとしている。
「諦めよう。左手はもう死んでいる。せめて片手有れば生きて行けると思って治る事を祈ったが、もう無理だ。このままでは悪く無い部分まで駄目になってしまう」
ジンの左腕は切り口こそ縫ったが治らなかった。赤黒く死体の手のようになっている。
ジンは痛みでうめき声を出し続ける。多分今は意識が有る。起きてる間はずっと痛みに苦しめられ、寝ても痛みと気持ち悪さで短時間で目を覚ます。
体力も消耗して寝返りの仕草も出来なくなって来た。
食事なんてマトモに出来る訳も無く、意識が有る時に無理矢理栄養の有りそうなものを飲ませている。当然足りる訳がない。
軍医が来てからは、睡眠不足のジンの為に麻薬を飲ませている。麻薬は中毒がマズいが、全く睡眠が取れないと本当にジンが壊れてしまう、仕方が無かった。
麻薬が効いてる間は短時間だがジンは眠れる。暴れなくなるので体力も落ちない。
もし回復したら、今度は麻薬抜きの為の戦いが始まる。
過去にも怪我が治っても、麻薬中毒で駄目になる人は多かった。
「すまない、ジン」
俺は聞いていないだろうジンに謝った。
「いやだ・・・きらないで・・・おねがいだ・・・」
起きていたのか!
「すまない、それしかないんだ。判ってくれジン」
「いやだ、いやだ・・・手を・・・」
「こらえてくれ、ジン」
いっそ死んでしまった方が幸せだったんだろうか。でも生きていれば報われる事もあると信じるしかない。
『生きていればいつか幸せになれる』
そんなのは妄言だ。
だが出鱈目だと思う言葉にもすがらなければ自分を納得させられない。
私達はジンの護衛だ。死なせる訳にはいかないのだ。
救いの無い地獄に生きさせる事を許してくれジン。
きっと俺がジンだったら殺してくれと叫んでいる。
「皆、ジンを押さえてくれ」
軍医が静かに言う。
軍医も出来れば切りたく無いと思っている。
両腕失ったら生きていてもあまりにも惨めだ。
五体満足でも貧しいだけで簡単に死ぬ世の中。
回復しても彼は生きて行けるのだろうか。
そしてジンの左腕は切り落とされた。
刀傷は肘の下だったが、壊死が進んでいたため肩の下から切り離された。
執刀前に麻薬を大量に飲ませていたのにジンの雄叫びが響いた。
ただ、ジンの暴れ方は弱々しかった。