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第六十五夜 祓戸爺さん

 神職資格をとるっていって、大学に通ってたころの話ね。


 とある兼務社で助勤をしたわけよ。ふだんは神主がいなくて、お祭りなんかがあるときだけ、開けているような神社でね。


 現地に着いたらまず神様にご挨拶。まあ当然だわね。拝殿に入ったら、氏子さんだと思うんだけど、もう掃除もしてあったし、祭具類の準備もできていた。


 拝礼をすませて控室に戻ったら、もうすることはない。時間まで待って、そこからはご祈祷するだけだった。


 その神社って、あんまり大きい造りじゃなくてさ、正面の御扉のすぐ前に案、つまり神饌などを載せる台を置いてあるわな。そこが二段になってて、下の段の端に大麻があった。


 この大麻は、紙垂を束ねて結わえたタイプじゃなくて、榊の枝タイプだった。


 つまりは、最初に修祓だっていって祓詞を読む場所と、ご祈祷で祝詞を読む場所とが同じになるわけだ。


 案の向こうは御扉なんだが、木じゃなくてガラス戸だったから、中が見える。


 内陣の御扉は木だったのが見えたし、おみこしも奉安されていた。そこにも大麻があって、こっちは紙垂を束ねて結わえつけたタイプだった。


 時間になって、何件がご祈祷を勤めたんだけど、そのうちにガラス戸の向こうが気になりだしたんだ。どうも、何かの気配がある。


 祝詞を奏上し終わって立ち上がったときに、それとなく見たんだ。


 そしたらな、長髪のじいさんが、寝そべっていたんだよ。


 声をあげそうになったよ。ホームレスが入り込んだんじゃないかって格好だったから見間違えたんだけど、すぐに気づいた。そうじゃないって。


 じいさんの姿はぼんやりとしていて、向こうが透けて見えてたんだ。


 そうだとしても、こういっちゃなんだが神様関係ではない、一般人の霊的なもんが入り込んでたら、困るわな。いちおう、そういうときのための祝詞は用意してた。


 しかしな、そのじいさん、いや、こんな呼び方をすると失礼な存在だったんだな。


 祓詞を詠んでいると、明らかに耳を傾けている様子だし、たまに頷いてもいる。


 ぼろぼろの服を着ているようであっても、雰囲気は清々しいというのか、さっぱりしているというのか、綺麗な空気に包まれているのが、ありありとわかる。


 何よりも、「祓戸大神たち」というところで、耳がぴくっとしててさ、あれは怖かった。「たち」と申すんだから複数だろう、じいさんはひとり。だから祓戸大神ではないだろうとは思うけれども。


 そのあたり、人智の及ばないところかもしれん。


 俺たち神主って、たいていまず修祓するっていって、祓詞を奏上するよな。祓戸大神の御名は、非常になじみ深いわけだ。


 かといってここで、じいさん、じいさんなんていって、怒られないだろうな。


 そのせいで罪穢を祓えなくなったら、怖いよ。

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